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フルーツサンドの天使、あるいは⑬

 それからの一週間は、気が気ではなかった。
 
 仕事の間は集中しようと、いったんスマホを鞄にしまう。
が、やはり気になり、5分後には取り出して内容を確認する。はるかからはたまに日常の何気ないメッセージが届くが、一向に受診結果についての報告がないまま金曜日となった。

 岡崎さんとはその週、会うことはなかった。宮島によると長期の出張に出ているようだ。
正直ほっとしていたが、なぜ言ってくれなかったのだろうと怒りのような感情も沸いてきた。はるかのことも、岡崎さんのことも気がかりで、いろんな感情が混じって、とにかくぐちゃぐちゃだ。
 

 ――子どもやっぱりいたよ――
メッセージは金曜日の夜、エコー写真の画像とともに送られてきた。
 ああ、やっぱりか。
 
 僕は用意していた定型文を送った。
 ――そうか、お祝いしよう――

 5年も付き合った彼女だ。僕は社会人4年目で、子どももできて、結婚しない理由など何もない。
結婚を窮屈に感じるのは、僕だけのものではない。みんなこうやって、現実を受け入れて、同じようなルートを通ることが幸せなのだ。
 
 ――今日はミートボール作って待ってるね――
「僕の好物を作って待っているなんて、最高な彼女じゃないか」
言い聞かせるようにつぶやいてみたが、脳裏には何の映像も浮かんでこなかった。
出てきたのは、あの夜の岡崎さんの不器用な笑顔。
ありきたりなドラマの様な自分の脳みそに、うんざりした。
                             
                             ーつづくー

※画像はごるきち様のイラストを使用させていただきました。素敵な作品をありがとうございます!

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