破天荒な川口くん

小学校から中学校まで一緒だった友人の1人に、川口くんというぶっ飛んだ男の子がいた。彼は、私の人生に大きな影響を与えた人物の1人と言っても過言ではない。

私が川口くんとファーストコンタクトを果たしたのは、小学4年生で初めてクラスが一緒になった時だった。
小4にして体重が60キロ、身長が150センチもあった肥満児の私とは真逆で、川口くんの身長はその歳の平均身長くらいで、体重は平均以下という、典型的なガリガリ男子だった。

前述のように私は他のクラスメイトよりも頭1つ分背が高く、ぽちゃぽちゃした体型をしていた。一部の友人たちからは、「親方」と親しみを込めて呼ばれていた。そんな私の体がよほど気に入ったのか、川口くんは最初の頃はなぜか柔道の技をよく私にかけてきた。しかし、所詮はライト級とヘビー級の稽古となるので川口くん渾身の大外刈りにも、私はビクともしなかった。
私は内心ウザいな思いながら、犬がじゃれて足にまとわりつくが如く戦いを挑んでくる川口くんをいつも軽く跳ね除けていた。

大した反撃もしてこない私に味を占めたのか、川口くんの行動はどんどん過激になっていった。柔道の次に仕掛けて来たのは、ズボン下ろしだった。いつものように柔道技をかけると見せかけて、私のズボンを下ろそうとしてくるのである。
ズボン下ろしも最初の頃はまんまとやられたが、ズボンの紐を縛る、ベルトを締めることにより対策が出来た。

次に仕掛けてきたのは、椅子引きだった。椅子引きは危険な悪戯の上位にランクインし、椅子引きが原因で半身不随となった事例もあるほどだ。
しかし、すでに私は川口くんが近くにいると身構える癖がついてしまっていたため、ゴルゴ13並みに背後からの攻撃にも対応出来るようになっていた。そのおかげで背後で不審な気配を感じると、必ず目視確認していたので、川口くんの椅子引きの被害に遭うことはあまりなかった。
座る直前に椅子を引くことが難しいと気づいた川口くんは、私が座っている時に椅子引きをしてきた。残念ながらこの悪あがきも、重量級の私が座った椅子に対しては失敗に終わった。

ここまで書くと、まるで私が川口くんから酷いいじめを受けていたように思うかもしれないが、当時もいじめを受けていたという認識はなかった。川口くんもいじめではなく、軽いちょっかいを出す程度の感覚だったし、私もそれを理解していたからウザいと思うことはあっても、深刻に捉えることはなかった。

そんな川口くんの「いじり」のターゲットになったのは私だけに留まらず、他の同級生から上級生、下級生、さらには先生方までが彼の餌食となった。
川口くんは有吉弘行のように、他人にあだ名をつけるのが上手かった。
中学生時代に顔が大きかったある女の子は、「ピッツァ」というあだ名をつけられた。「ピッツァ」とは、「ピザ」をより正確に英語で発音したものである。もちろん川口くんがこのあだ名をつけた理由は、その子の顔がピザのようにまん丸だったからだ。
そして、川口くんはこの女の子のことを、四六時中「ピッツァ、ピッツァ」と呼びまくった。その子もその子で気が強い女の子だったので「はぁ!ピザじゃねえよ!」なんて言い返えすものだからますます川口くんを喜ばせてしまっていた。

ある時、英語の授業中に教科書に"pizza"という単語が出てきた。英語の先生はいつものように、「リピートアフターミー!」と言って、教科書の新出単語を読み上げ、私たちも後に続く。私を含めたクラスのみんなが、川口くんがこの機会を逃すわけがないと確信し、例の単語が読み上げられるまで彼を静観していた。そして先生が「pizza!」と言った瞬間に、川口くんは人一倍大きな声で「ピッツァ!!!」と元気よく叫んだのだ。
もうそこらじゅうで吹き出す奴、教科書に顔を埋めて笑いを押し殺す奴が続出した。意図せずして導火線に火を付けてしまった先生だけが、いきなり教室中が笑いの渦に飲み込まれた理由を理解出来ずにいた。
一番の被害者はあだ名をつけられた女の子だったので、私は心配になって教室の後方に座っていた彼女の方を見た。彼女は恥ずかしさで顔がトマトのように真っ赤になりつつも、大爆笑していたのである。まるでマルゲリータピッツァのようになって爆笑している彼女を見て、私はひとまず安心した。

先生方に対しても、川口くん手を抜かなかった。彼が先生方に仕掛けたショーもないイジリを以下にいくつか挙げる。

  • 給食を超大盛りにする(給食の完食を強要する先生に実行)

  • 女性教師に対して「下着が透けてるぞ」などのセクハラ発言

  • バレずに面白いあだ名を教師につけ、授業中にみんなを笑わせる

  • 穏やかな先生を物陰からいきなり驚かす(仏のような先生がガチギレ)

  • 帰宅途中の先生を尾行して自宅を突き止める

特に「帰宅途中の先生を尾行して自宅を突き止める」は、学校内でもちょっとした事件に発展してしまった出来事である。
尾行のターゲットとなったのは、徒歩や自転車で通勤していた先生方だった。
帰宅部だった川口くんは、放課後は自宅に帰り制服から着替えると、自転車で様々なところを走り回っていた。そしてターゲットの先生の退勤時間が近くなると、中学校の校門近くで待ち構えているのである。

ターゲットが現れると気付かれないように尾行し、自宅を突き止めてしまうのだ。特に先生方の自宅を突き止めてどうこうする訳ではないが、後日その先生方の授業中とかに「先生は〇〇町の〇〇マンションの2階に住んでますよね〜?」などど唐突に質問をして、先生方が気味悪がったり、驚いたりする様を見て楽しんでいた。

事件が起きたのは、50代の女性教師を尾行した時だった。この日は川口くんにしては珍しく、尾行しているのをその先生に気づかれてしまった。その先生は何度も川口くんに帰るように注意したが、もう意地になっていた川口くんは注意に応じようとはしなかった。
なかなか諦めない川口くんに対して、先生は最終手段に出た。
中学校に自分の携帯から電話して、川口くんのご両親にストーカーの被害にあっていることを言いつけたのだ。

翌日、全校集会が開かれ、例え教師に対してでも尾行などしたらそれは立派な犯罪であること、夜遅くに中学生が理由なく出歩くことは補導の対象になることなどの説明と注意がなされた。
当事者の川口くんはというと、臨時の4者面談(川口くん、川口くんの母親、担任、50代の女性教師)が開かれ、こってり絞られたようだった。

川口くんの悪行の数々を暴露してしまったが、時効だろうし、そもそも彼とも数年疎遠になっているから良しとしよう。今度川口くんについて書く時は、私が彼から絶大なる影響を受けた話をしようと思う。


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