見出し画像

今井博は生きづらい

部屋に溜まっていくペットボトル。
「水曜日はペットボトルの日」「水曜日はペットボトルの日」何度も頭の中で繰り返しても、火曜日の日中までは覚えているのだけれど、夜になって家に帰るとすっかり忘れてしまう。忘れないようにカレンダーに記入しても、カレンダーを見るのを忘れていたりする。そして、水曜日の朝に起床した時に、今日がペットボトルの日だったことに気付く。だが、時すでに遅し。起きた頃にはもう間に合わない時間になっている。そして、狭いキッチンに立ち尽くし、九龍城のようになったペットボトルの山をしばらく見つめるのだった。来週こそは必ずと心に誓うが、その誓いの賞味期限は火曜日の夕方までであることを今井博が一番知っている。

ボディーソープが切れた。
上半身を洗ったところで。下半身は、残った最後の数滴に水を混ぜて使った。明日帰りに買って帰ろう。カレンダーに「ボディーソープ忘れない」と記入した。翌日、帰りの電車でカレンダーを見て、「帰りにコンビニでボディーソープを買う」と頭の中で繰り返す。コンビニに行って、まずは明日の朝のパンを選ぶ。あんバターサンドにするか、オールドファッションにするかしばらく悩み、決められずに一旦2リットルの水と缶ビールをカゴに入れた。もう一度パンコーナーに戻り、あんバターサンドを手にした時には、もうボディーソープのことは頭からすっかり抜け落ちていた。会計を済まし、家の鍵を鞄から探っているところで気が付く。「あぁ、ボディーソープ。。」いや、まだ薄めて使えるだろうという希望的観測と、コンビニ戻る億劫さでそのまま玄関へ。僅かに石鹸の匂いのついた水で体を洗い、就寝。明日こそはと心に誓うが、明日もまた同じことを繰り返してしまうことを、今井博が一番知っている。

「どちらでも良い」
この言葉は反対の意味を持つ。どちらが良いかと尋ねて、どちらでも良いという回答が返ってきた時、最終的にどちらでも良くなかったという事が余りにも多いのだった。どちらでも良くないことが余りにも多いので、どちらでも良い時は、自分が思った方の反対を選ぶようにしているが、反対を選んだ時に限って、反対の方が不正解だったりする。そして、どちらでも良いと言われた時に、こっちで良いですか?と尋ねると、どちらでも良いと言ったではないかと、苛立たれるので八方塞がりになるのである。「どちらでも良い」の答えを、今井博が一番知りたがっている。

よろしければサポートお願いします。 いただいたサポートは生活費に使います。