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本「この30年の小説、ぜんぶ読んでしゃべって社会が見えた」

本(この30年の小説、ぜんぶ読んでしゃべって社会が見えた)

作家の高橋源一郎さんと文芸評論家の斎藤美奈子さんが、雑誌で対談した記事を1冊にまとめた本です。雑誌「SIGHT」で、2003年からその年に発行された小説の中から、両者と編集者が選んだ本について、年末に総括するという企画です。

その中から本書に収められているのは、東日本大震災が発生した2011年~2014年、さらに休刊後の2019と2021年の各年間の小説からピックアップした作品への書評を述べています。

いきなり斎藤さんのあとがきから入って恐縮ですが、作家と評論家の違いをこう述べています。評論家の目は鳥の目で、作家の目は虫の目であると。評論家が作品の全体を俯瞰しながら見るのに対し、作家は地面に這いつくばる虫のように作品の細部にこだわるというものです。こうした前提で両者の対談を読んでいけば、より理解が深まるのではないでしょうか。

本書が2011年の対談から収録されているのが、やはり東日本大震災が社会的にだけでなく、文学の世界でも大きく影響しているからです。ただ対談でもあるように、あまりに大きな災害であったために、小説にも直ぐには反映されず、数年後にそうした題材の作品が登場することになります。

題名にある「この30年の小説、ぜんぶ読んでしゃべって社会が見えた」とあるのは、文学作品を通じて社会の変化を読み解くものであり、上記の東日本大震災もそうした試みであると思います。30年となるのは、湾岸戦争が起きたのが1991年、同時多発テロが2001年、東日本大震災が2011年、そして今回の新型コロナ感染が発生したのが2020年で2021年もその渦中にありました。

2人が指摘するのは、こうも戦争や紛争、自然災害や疫病の感染が続く社会にあっては、常にある種の戦争状態にある訳で、太平洋戦争が終わった後でも戦後ではないという認識があるのではないかということです。こうした意識は生まれた頃から、メディアを通じて海外の紛争などを知る機会が多い若い世代に顕著ではないかと指摘しています。

当然文學も上記のような様々な現象に影響されながら、題材に取り上げて小説として発表されていったと思います。この対談が重視したのは、題名からもわかるように、文学の時系列的な傾向や文学の系統論に留まらない、文学と社会との関係を掘り下げることであり、そうすることによって、文学自体もより明確に総括できたのではないかと思います。

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