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リスキリング(学び直し)が進まない理由を個人の志向や企業・社会の体質のせいにしても進まないので現状認識をすることと促し目標設定することが重要

リスキリング(学び直し)について、政府の発表でも今後5年間で一兆円を注ぎ込むと表明するなど活発になってきていますね。色々なメディアやサイトで、リスキリングを推奨している一方で、リスキリングが進んでいない原因として「日本人はそもそも学ぶ意欲がない」とか、「大企業のジョブローテなど社会の仕組みが自発的に学ぶ構造ではなかったから慣れていない」だとか、「実務とかけ離れているせいだ」とかさまざまなことが挙げられています。どれも言っていることは間違っていないのですが、結局のところは「リスキリングにおいてライフプランの目標設定ができない」ことに集約されることがリスキリングが進まない最大の原因と考えられます。

リスキリングには目標設定が重要

政策、企業、個人それぞれの目標や目論見があって「リスキリング」が進行していくわけですが、そもそも、新たなことを「学び直す」にあたって、「学び直した後にどうなるのか」「学び直してどう働くのか」が明確ではないのに学びを頑張るということができる人は、もともと「学ぶこと自体が好きな人」だけです。そして「学ぶこと自体が好きな人」はもともとそんなにいません。

学び直しでよく配信される広告を見ていると、かなりデジタル系スキルやプログラミング系、AI系の学び直しに偏っています。私も機械学習講座やDX講座で登壇しておりますので立場上言って良いことなのか難しいところではありますが、正直なところ、会社員も半ばを過ぎてプログラミングやAIプログラミングを学んで、それで果たして転職や配置転換でその職業に就けるものかということは甚だ疑問です。学ぶことで、その後どんな働き方をしてどんなメリットやリスク回避ができるのかイメージが湧いている個人はほとんどいないはずです。

個人が、「学び直すことによってどんなことができるか」「学び直すことでどんなリスクをどのように回避できるか」をより具体的に思考し、何を目標にすれば良いかを検討できるようにする環境づくりは社会でも企業でも必要不可欠であると言えます。

目標設定は具体的な情報が与えられないと難しい

大中小零細企業問わず、個人は「この仕事はAIやICTによって無くなるかもしれない」ということは想像できても「社会や社内にこんな仕事が生まれる」「この仕事はこんなふうに変わる可能性があるからこれを学ばなければならない」という想像ができている人はほとんどいません。
そうなると、個人は何を学んで良いか分からなず、自動化は個人にとっては仕事を奪われるリスクだけに映ってしまい、今の業務を死守しようとDXや経営改革の抵抗勢力になってしまったりします。

だからと言ってリスキリングに関する情報の整理と発信を経済産業省なんかは、さも企業がやるべきの如く発信だけ続けていますが、営利企業である企業がどこまでやるべきなのかの線引きはガイドラインがないままです。

国や行政は、1兆円もリスキリングに注ぎ込むのであれば、今後残る職業や仕事、仕事がどのように変わると考えられるか、そのために何を学べば良いのかをまず積極的に取りまとめ情報発信しなければならないと強く進言したいところです。目標設定のないリスキリング予算はただのばら撒きに終わります。パソコン教室やExcel講座にリスキリング予算をばら撒くなんてデジタルシフトの時代にナンセンスな話です。

企業が整理・発信すべき情報

ほとんどの企業は営利法人であって本質的にも法律的にも、利益を求める必要があります。経営戦略をたてて、事業領域がDXによってどうなるかを予測し、そのために必要なスキルと人材要件をまとめ上げて発信するところまでは企業が本質的にもともとやるべき経営努力だと言えます。

しかし、社会インフラ的責任を求められるような大企業でもない限り、転職を見据えてのスキル獲得であったり、社員がその後職にあぶれないようにするための教育を求められることはそもそも本質からずれているはずです。それを企業側に求めるとリスキリングは進まなくなっても仕方ありません。

企業がすべき努力としては、上記の「今後の会社に必要なスキル」の発信に加えてやるべきだとすれば「過去または現在までは必要とされているが、今後不要になるスキルの整理と発信」、そして、社内におけるキャリアシフトのマッピングまでだと考えます。

行政が整理・発信すべき情報

現状のリスキリングやリカレント教育は正直、企業や個人の判断に丸投げでガイドラインも明確なものがなく、検討・研究しながらやれやれと言っているようにしか思えません。

産業、ビジネスの業界、企業規模ごとに、今後どんなスキルが求められるかを無償で体系的にまとめて発信することは1営利企業には困難です。行政はまさにそう言ったところを取りまとめた上で、企業や個人に協力を仰ぐべきだと考えます。

ただただデジタルスキル・デジタル人材というだけのリスキリングでは、本当にこれからの時代を生き抜くスキルへのリスキリングにつながりません。
営利企業に対して、自社の事業に関係ないスキルを社員に学ばせろと押し付けるのも酷な話であり、行政の怠慢と言わざるをえません。
実際のところ、デジタルシフトで生まれてくる新しい仕事には倫理的な仕事、人の相手をすること自体をサービスとする仕事もたくさんあると言われているわけで、みんながみんな能力や適正に関係なくAIやプログラミングや統計を勉強しても、社会全体で見ると、できるできないで脱落者を増やし格差を拡大するだけに思えます。

打ち手としてはすでに遅いのですが、行政は個社に依存しないスキルにおいて、今後必要なくなるスキルと、今後必要とされるであろう知識とスキルを常に更新して発信した上で、企業・団体から求められるスキルと不要になってくるスキルを吸い上げて集約できる基盤作りをすることが最も重要なのではないでしょうか。

また、1企業に依らない職種とスキルの取りまとめやキャリアシフトの可能性を取りまとめて提案していくことも行政に期待したいところです。

これは地方行政や地域振興においても重要だと考えます。地域ごとに必要とされる人材、スキルを地方行政が発信できなければ今後の地方没落は止まることはないでしょう。バブル時代からズルズルと企業を誘致するだけで行政の役割はおしまいという古い体質を改善しなければ、いくら企業を誘致しても人が集まることはないのですから。

個人も積極的に知る必要がある

ここまで、行政や企業はこうするべき(こうしてほしい)という話をしてきましたが、とは言え、個人も積極的にこれから先のライフシフトに食いっぱぐれないための備えはしていくべきです。

第一次産業革命、第二次産業革命、エネルギー革命でも必要なスキルの大転換は起こりました。たくさんの新しい仕事が生まれた一方で、不要になって職を失った人たちもたくさんいたのです。「人のための自動化だ」など叫ばれ失業者たちによる大規模なデモなんかも世界的にはたくさんありました。そう言った事態がこれからまた実際に起こるのだということを念頭においた上で、自分のこれから先のことを考えることは世界中の誰にとっても避けられないことです。

自分が今できることを認識した上で、学んだ方が良いことを見定めましょう。本質的に求められるのは、Pythonをできるようになることでも機械学習の簡単なプログラムができるようになることでも、プログラミングができるようになることでもありません。
本質的には、デジタルシフトでどのように社会や仕事が変わっていくのかという仮説を広く知り、どのような職が生まれたりどう変わるのかを想像できることと、そのために必要なスキルを想像できることの方がよほど重要です。倫理的な仕事や人の相手をする仕事自体はこれからもどんどん重要になっていくと言われているわけですから、必ずしもプログラミングを全員ができるようになる必要は全くないのです。

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