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あなたへの祈り ~ミラノ

 凍てつく銀世界のなかに荘重な佇まいを見せるミラノのドゥオーモは、イタリアを代表するゴシック建築として知られている。白く鋭角的で、直線的な美しい教会だ。
 大聖堂の屋根からは135本もの尖塔がそびえ、剣でできた教会のように見える。天空を突き刺す刃の大聖堂。
 輪郭を冴え渡らせる冬の寒気のなかで、その偉容は氷のように研ぎ澄まされている。
 その先端にはそれぞれに聖人の像が立っていた。ドゥオーモ中央、もっとも高い尖塔のうえには愛の女神である黄金のマリア像(マドンニーナ)。
 柱や壁に施された聖人たち――これはじつに約3500体――の彫刻は、ひとつひとつのたたずまいや表情が異なり、リアルに表現されている。
 5枚の青銅製の大扉にはゴシック様式のレリーフが施され、聖堂やミラノの歴史、マリアの生涯などが描かれていた。
「都、お忘れなきよう。もしもあなたが罰を受けるなら、私も共にその罪を負う」
 何を敵に回しても、愛している都。
 それがどれほど重くとも――いや重いのならなおのこと、この肩にもその罪科を架けたい。
「懺悔くらいいくらでもする。私も彼らに許しを請おう」
「いや、一緒に謝ってもらうとか…。保護者じゃないんだから」
 でもありがとう、と都は私を見上げる。
「でも自分の過ちの解決を、神様に持ち込んでお願いする気にはなれないからね」
「…あなたらしいな」
「自分が叶えたいことは、自分の手でなんとかしなくちゃいけないじゃない」
 願いや祈りは美しいが、それだけでは何も変えられないから。
 その身を願いや祈りそのものに変換するように、都は想いをかたちにするのだ。
 ――そういうところが好もしくもあり、痛々しくもあるのだが。
「あなたも、神頼みする性質ではないと?」
 都は何かを赦すような微笑みを浮かべる。
「私ではどうしようもないことを祈っているの。この世界が、まわりの人たちが、あなたにつらい思いをさせたりしませんように、あなたに優しくしてくれますようにって…お願いしてただけ」
「――」
 オレンジブラウンの髪に、私はそっと口づけた。映す者を慈しむ翠のひとみは、聖堂にはふさわしい。
 何よりも互いのために、私たちは祈るのだ。

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