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レコードと部屋と彼4 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

私がマッチングアプリを始めたきっかけは、乳がんになったこと。



マッチングアプリを始める4か月前。

下着をつけようとしたとき、右胸にしこりを見つけた。

まさか、悪性ってことはないでしょう。でも、念のために・・・

と思いながら病院に検査に行くと、一発アウト。悪性腫瘍だった。

他の部位への転移はなく、しこりを見つけてから1か月半後に右胸全摘出の手術を行った。

抗がん剤治療をすることなく、今後10年ホルモン療法(ホルモン剤の服薬)ということで術後の治療方針が決まった。



この時、私は35歳。

実は、きちんと男性とお付き合いをしたことがなかった。

過去に片思いの相手にひどく振られたことがあって、なかなか恋愛に踏み切ることができず。全然そういう風には見られないけれど、男性経験はほとんどなかった。

ちょうど、しこりが見つかるくらいの時期にいろいろあって。

恋愛とか女性としての自分を自覚し始めたタイミングだったので、右胸全摘出はものすごくショッキングな出来事だった。



女としての私は、右胸がなくても、大丈夫なのだろうか。

ちゃんと、男性に愛されるのだろうか。



誰にも言えない、自分の中だけの不安。

右胸なくても、生きていける。

そんな強がりなんて、絶対言えなかった。

不安でたまらない。

私はこの先、ちゃんと女として恋人を作ったり、家庭を持ったりすることができるんだろうか?




術後、なかなか、なくなった右胸を直視することができなかった。

1ヵ月は痛みが強くて。その後も周りの痺れが取れず、そういうことを考える余裕もなかったけれど。

術後2ヶ月が経ってくると、じわじわと気持ちの方がつらくなってきた。



なぜ、私が乳がんにならなければいけなかったのか。

どうしてこんなつらい想いをしなくてはいけないのか。



早期発見できたことで、他部位への転移前に摘出することができた。

がんは、他部位への転移が進んでいると摘出手術ができない。

摘出できた、ということは、ステージが進んでいる患者さんから見ればラッキーなこと。命の危険が少ない。この先も、生きていける。

右胸を代償に。



失ったものより、得たものの方が、大きい。

そう、考えるべきだと言うことは、頭では理解している。

それでも感情が追い付いていかない。

女として、右胸を失うこと。

それをどう受け入れていいか、未だに分からない。



最近、ようやっと冷静に平らになった右胸を直視することができるようになってきた。

ケロイドと言って、傷口が少し盛り上がるような感じになっている。

気圧が低い日は傷口が傷む。

鎖骨の少し下らへんがなぜか痛くて。術前の状態に戻るには半年くらいかかるそう。

せめて、痛みがなくなってくれれば。

まだ、触ることすらためらわれる、右胸の傷口。



私自身ですら受け入れることができない、右胸の状態を、他人が受け入れてくれるのだろうか。




こんなつらい時、そばにいて、支えてくれる人が欲しい。


人生の中で初めて、隣で支えてくれる人の存在を心の底から欲した。



それでも。

これまでと違うのは。

相手に自分を受け入れてもらうためには、

乳がんのことを話す、というハードルと、

私のこの身体を受け入れてもらう、というハードルが立ちふさがっている。



他人から見ると、大したことのない問題だと思われるのだろう。

右胸があることとないことで、私の人格は変わらないし、女としての魅力が損なわれるわけでもない。

理屈では、そう。


それでも。

そもそも、女としての自分に十分に自信が持ててない上に、こういう状況になってしまえば、恋愛に踏み込む勇気がこれまで以上に持てなくなるのは必須。



乳がんになったことで、

右胸全摘出の手術をしたことで。

これまで以上に自分が「女」であることを強く自覚した。

女として、これから先、どう生きていこう。

女として、ちゃんと男性に愛されたい。

そういう、自分の中の、これまで見て見ぬ振りをしてきた願望、欲望があることに気付いた。

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