【日記】空ゆく雲の観察
テレビニュースはあまり見ないが、いろんなツールから台風の情報がちらほらと入ってくる。
私が住んでいる場所は、朝からなかなかの曇天。その狭間に青空を覗かせながら、雲が何層にもなっていた。
朝からコーヒーの入ったマグを片手に、思わず見入る。
下の方にもくもくとした重そうな雲があって、その上に薄く広げられたような雲が敷き詰められている。
台風の破片を何となく感じながら、その行方をぼんやりと眺める。
この、層になっている感じも好きだし、層ごとに風の速度が違うように雲の流れる速さが違うのを見るのも好きだ。
しばらく眺めてから、気に入った空模様をカメラで切り取る。
刻一刻と変わっていくその様子は、幼い頃からなぜか私の心を惹きつける。
その昔、授業中に生徒たちと外を眺めたことを思い出した。
問題を出して、それを解くほんの少しの時間。
机間巡視をしながら様子を見ると、とある子がずっと外を見ていた。
その日は風が強く、雲がまあびゅんびゅんと流れていたものだから、窓の外の景色は問題を解くよりも惹かれるものだったのは間違いなくて。
午後の授業、睡魔と闘うような時間帯でもあったから、まあ気分転換もよかろうよと時計を見る。
授業終了まであと二十分ほどなので、五問中二問ほど答え合わせをして、残り三問は終わってなかったら宿題にしちゃおうなんて考えて。
「台風が来るわけでもなさそうなのに、今日はやたら風が強いね」と、授業と何の関係もない話を、教室内を練り歩きながら思わず呟いた。
私の呟きを聞いて、窓際にいた他の問題を解いていた子も、ちょっと窓の外を気にし始める。
そしたら誰かが、「あ、虹」なんて言い出して、教室全体が少しだけザワザワして、気になる子は窓際に移動してきて、束の間みんなで「どこどこ」「え、見えない」とわいわいしながら外を眺めた。
ふっと集中が切れて緩んだ、ゆっくり時間の流れる空間。
ゴリゴリに授業をすることは、もちろん本業だし好きだったのだけれど、そういうちょっと緩む空気感も好きだった。
同じ科目の、他クラスとの進度調整も兼ねて、たまにそういう時間を設けた。
いろんな人がいる空間。
教室のさざめきを気にすることなく、さっさと問題を終えて、居眠りを始める子。
そんで虹どこなん?と、隣の人に聞いている子。
え、もしかして雨降る?いや知らん、なんて近所の人と話し出す子。
どさくさに紛れて、問題の答えを友人に聞いている子。
ただ、それだけのことなのだけど、あのゆるい空間はもうこの先どれだけ生きても、どれだけ願っても再現できないのだなあと、今でも思い出しながらしみじみする。
空を眺めるだけで、これだけ懐古できる自分が面白い。
こういうとき、ああどれだけ時間が流れても、やはり私は教室に魂を植えてきたらしいと自覚する。
いつまで経っても、教壇のお化けだ。
きっと死ぬまで、何なら死んでも成仏することはないと、思う。
何はともあれ。
台風ができる限り静かに、そして早急に過ぎ去ってくれますように。
被害が最大限なく、何なら消え去ってくれますように。
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