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【ショートショート】 宇宙人との交信

 「宇宙人って、いると思う?」
 「…また突然だな、何の話だよ」
 「いいから。いると思う?」
 「…俺はいないと思う」
 「そっか」
 「お前は?いると思うの?」
 「うん。僕は、いると思う」
 「ふうん。…なんで?」
 「いないって、言い切れないから」
 「…何だそれ」
 「だって、宇宙広いしいるかもしれないじゃん」
 「それがアリなら、逆にいねえかもしんねーじゃん」
 「“いないかも”しれない、っていう考え方は“いる”ことが前提になるじゃない?」
 「…もうよくわからん。すぐ頭良いとこ出してくるよな、お前」

 髪をかき上げながら、不服そうにブツブツ言っているユウキに、いつもと変わった様子はない。もうすっかり陽は傾いていて、公園の石のベンチに座っていると、お尻からじんわり冷えてくる…。それでも僕は、こいつともう少し話していたかった。

 「何で、自分じゃないって言わなかったの」
 遠くを見るようなフリをしながら、僕は聞く。

 今日の昼休み、クラスの窓ガラスが割れた。窓の近くで騒いでいた奴らが、机だか椅子だか、ふざけ過ぎてぶつけたために割れたらしかった。僕はそのとき他のやつらと食堂に行っていて、その場にいなかったから、状況を直接みたわけではない。けれど、気がついたらなぜか、ユウキが割ったことになっていて、ユウキはそれを否定しなかったらしい。そして、誰も自分がやったと名乗り出ることはなかったのだ。

 結果として、先生たちはユウキが割ったと判断し、彼はついさっきまで職員室に呼ばれて先生たちのお説教を受けていたらしい。僕は部活の帰りに、たまたま先生たちから解放されたユウキに会ってここまで一緒に帰ってきたのだ。

 「ユウキ、昼休みは寝てたんじゃないの」
 僕は自分の友人が、悪いヤツだと言われているような気がして悔しかった。

 「寝てたよ」
 「じゃあ窓割ってないじゃん。自分じゃないって言えばよかったのに」
 「いいよ、別に」
 ユウキは、全く気にしていなさそうな軽い口調で言う。どうでもいいよ、そんなこと。

 「よくないだろ、進路とかに影響したらどうすんだよ」
 「進路?」予想外のことを言われたと言わんばかりの表情で、ユウキはこちらを振り返った。
 「窓ガラス割ったら、進路に何の影響があんの?」
 「そりゃ、ほら…内申とか、先生たちからの心証とか…」

 ふふっと声を出して、ユウキは笑う。
 「だから誰も名乗り出なかったんだろ、それでいいじゃん。俺は別に進学希望じゃないし、ナイシン?とか気にしなくていいもん。それに」
 ふうと息を吐いて、悪そうなニヤリ顔をして言った。

 「俺のせいにした奴に、罪悪感ってのを教えてあげてんだよ」
 「何だそれ」
 「自分のしたことで他人が叱られるなんて、見てていい気はしないだろ普通」
 「普通はね」
 「その人は俺が叱られてるのを見ても、何も言わなかったわけだ。きっと今頃モヤモヤしてるんだろうな、罪悪感で」
 「…どうかな。何でもいいから、すぐにその場で名乗り出ろよって思うけどな」何より僕はモヤモヤしてるけど、と言いかけて飲みこむ。
 「俺は、その罪悪感を知る貴重な場を提供してあげたってわけ」
 何をどう言われても、やはり納得はいかない。ユウキ本人は楽しそうに笑って続けた。

 「…お前、さっき宇宙人はいるかって聞いたよな」
 「うん」
 「俺やっぱいる派に変えるわ。宇宙人なんて、その辺にゴロゴロいるよ」
 「どういうことだよ」
 「俺、宇宙人と交信してみようかなって気になった」
 「…交信?」
 「そう。自分の価値観や常識が通じない宇宙人との交信。卒業までに、この件について反応があるか、一緒に見ててくれよ」そう笑いながらユウキは、そろそろ帰ろうぜ、俺、店の手伝いしなきゃ。と立ち上がった。


(1536文字)


=自分用メモ=
高校生という存在が、自分の中の動かしてみたいキャラの中にたくさんいることを改めて自覚した。大人と子どもの狭間を生きる彼らの中には、どうしても他の子たちより早く、精神的に大人になることが求められる子が、一定数いる。そんな子たちからヒントを得て書いてみた。

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