ケシカスになる
あなたの夢はなんですか?
高校受験のため、私はこの質問に対する回答を用意せねばならなかった
正直、夢なんてまだない。
こんな時、逃げ口として「こんなん中学生なら夢がない人もいるんだってば!!」と思いたくなる。
「将来薬剤師になりたいです。」
「看護師に…」
クラスの皆は淡々と夢を述べているけど、果たしてそれは本心なのか?
こんなことを言うのも気が引けるが、それホント?といちいち疑いながら面接練習を聞いていた。
だんだんと飽きてきて、次第に空想の世界に入ってゆく。
思い返すと、保健の授業では、「個人差」と耳が痛くなるほど聞いている。
「〜〜になるんです。でもね、これにも『個人差』があってですね、」
最後の決まり文句みたいにいつも言っている。
人によっていつ夢を持つかなんて違うのに、個人差はあるのに、なんとなく、もうこの時点で持っていないことが一つのマイナス点になってしまう。
個人差なんて口先だけじゃないか、そうだそうだと賛成する私と、こうやって批判したがるところやめなよ、と言う私が頭の中でぶつかっていた。
埒があかないので、この議論は打ち消しとした。
先生がクジを引いた。
まだ私の出席番号は呼ばれていない。
なんとなく、次もまだ呼ばれない気がしているが。
「次は18番」
呼ばれたその女の子は、「やだもう、恥ずかしいよ」と仲の良い女子に言って、黒板の前へと歩いてゆく。
ふと前を見ると、前の席の子が練り消しを作っていた。
暇になると作りたくなる気持ちはよくわかる。
私も作ろうかと思ったが、人が発表しているところで作るのは、なんだか気が引けるのでやめた。
それでも私は、その子の作業をずっと見ていたから、ある意味共犯者なのかもしれない。
黒いケシカスがたくさん集まって、ひとつのネリケシと化してゆく。
私もあんな風に、ひとくくりにされてしまうのかな。
それとも、机の隅で残っているケシカスみたいに、周りに溶け込まず、「みんな」と違った人生を歩むのだろうか。
高校に入ったら、きっと次は大学受験に向けて志望校を考えさせられ、また勉強しなきゃいけないかもしれない。
そして次は大企業に就職するために、TOEICの勉強でもしているかもしれない。
大企業に就職したら…。
無意識に、私たちに敷かれたレール。
だけど、私は誰かに従うのは嫌いだった。
別に教育を変えたいという思いがあるわけでもない、人といるのが嫌なのではない。
ただ、なんとなく生きていくのが嫌なのだ。
私のしたいように生きようとしたら、その道の先見者はきっといない。何が起こるかわからない、そこでの失敗で沢山のものを失うことになるかもない。
そこは安心じゃないんだよ、そんな不安が、心臓の右横くらいからツンツンとたたいてくる。
それでも、私はどこにでもいる誰かになりたいんじゃないんだよ。
私は私という一人の、ネリケシにならなかったケシカスのようでありたい。
それだけは確かで、その気持ちが不安をふっとばそうと頑張っている。
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