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アップロード、ヒトミさんの場合

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#弁護士

アップロード、ヒトミさんの場合(0)

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プロローグ
 閉塞感の漂う時代、たくさんのヒトミさんたちが、片目を瞑って生きています。
 先人たちの言うように、両目を開いて伴侶を探し、片目を瞑って伴侶と暮らし、なんとかなると思っていたはずなのに、なぜだか心が壊れてゆくのです。
 先人たちに、可哀想だと思える間は我慢しろと教わって、同情は愛情と同義語なのかと考えたり、いつかは変わるのではないかと期待したり、優しいところもあるからと思い直したり、自

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アップロード、ヒトミさんの場合(15)

アップロード、ヒトミさんの場合(15)

「生活保護を申請しますか?」

 お正月、ヒトミさんはマチコさんと二人でゆっくりと過ごした。小学生のときに母親を亡くしたマチコさんは、父親が再婚相手と暮らしている実家に帰る気はないらしく、「何だかここが実家なような気がしますねえ」と、穏やかに笑いながら言った。

「そうだね、私たちが実は姉妹で、いまにも両親が買い物から帰って来るといいね」
 ヒトミさんがそう言うと、マチコさんがふと真顔になったので

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アップロード、ヒトミさんの場合(16)

アップロード、ヒトミさんの場合(16)

不信感
 前回欠席だった夫は今回は出席していて、先に夫の話を聞くということで、ヒトミさんは弁護士さんと申立人待合室で待っていた。同じ建物に中に夫がいると思うだけで、恐怖心から吐き気がしてきたけれど耐えた。
 
 待合室は混んでいて、苛立ったり切羽詰まったような人々が、各々の弁護士たちと打ち合わせをしたり、どこかに電話をかけていたりしていたが、何も話すことのないヒトミさんとヒトミさんの弁護士さんは、

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