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m_hyugaji
2021年5月21日 20:58
だから西へ逃げようとしたのかもしれない 大事なのは何を持っているかではなく、何を持っていないかだったのだ。良心を持ち合わせていない人と暮らして、ヒトミさんの人生は崩壊してしまった。 島の温泉の有線放送から、ダパンプの音楽が流れてくる。といってもそれはヒトミさんがそう思っただけで、あるいはその流行歌の声が女性だったら、アイコって人の歌なんだろうと思ってしまうくらいの感じで、ヒトミさんの音
2021年5月21日 14:52
プロローグ 閉塞感の漂う時代、たくさんのヒトミさんたちが、片目を瞑って生きています。 先人たちの言うように、両目を開いて伴侶を探し、片目を瞑って伴侶と暮らし、なんとかなると思っていたはずなのに、なぜだか心が壊れてゆくのです。 先人たちに、可哀想だと思える間は我慢しろと教わって、同情は愛情と同義語なのかと考えたり、いつかは変わるのではないかと期待したり、優しいところもあるからと思い直したり、自
2021年5月24日 20:54
東京駅から新幹線に飛び乗った 夜になってやって来たミコちゃんの友人は、美しくて聡明な三十代の女性で、半年前に離婚が成立したのだと言った。彼女は長いこと夫のモラハラに耐え、夫の浮気をチャンスと捉え、一年ほどかけて証拠を集め、弁護士に相談し、用意周到に機会を窺っていたのだと教えてくれた。 こっそりウィークリーマンションを借りて、少しずつ荷物を移し、夫が出張でいなかった三日間で全ての荷
2021年5月28日 20:54
「迷ったんかあ?」 新大阪駅から地下鉄に乗り換え、着いた駅で、ヒトミさんはお茶漬け屋へ入る。だしの効いた鮭茶漬けを食べてホッとする。それから伯母の家に向かうバス乗り場を探してふらふらとロータリーを彷徨い、やっと知っている地名の入ったバス停を見つけ、よっこらっしょっとベンチに座る。 すると隣に座っていたおばあさんが、「墓地に行くのはこのバスでええん?」と聞いてきたので、ヒトミさんはバスの路線図
2021年5月31日 20:52
願い事は叶わないと思っていたし 日曜日、ヒトミさんの夫は店の常連さんたちとテニスクラブへ出掛ける。それはもう長いこと習慣となっていて、雨の日以外、休みの日に夫婦で一緒に過ごすことはほとんどなかった。 夫の店の客だったヒトミさんは、夫と結婚してから会社勤めをやめ、夫に請われてしばらく夫の店を手伝っていたのだけれど、案外ヒトミさんが接客業に向いていることが判明して常連客が増え始めた頃、夫がここは自