家長むぎさんの話。

実は私も結構彼女の性質というのをちゃんと掴めているか、といえば、それはとても難しい問題に感じます。私は委員長から始まり、にじさんじ、ホロライブなどVtuberという界隈を垣根無く面白いコンテンツとして全体的に俯瞰で応援しているのですが、比較的ライバーさんというのは決まった『様式』・『テンプレート』というのがその『キャラクター』という設定と外郭から大体類推できるものなんですよ。というか、それが分かりやすいエンターテイナーの形で、万人受けしそうなポピュラーな人物像になりやすいからです。ですが彼女はいうなればその外郭をドレスのようには身にまとわない、ある種特殊な、あるいは非常に純真な存在だと思うんですよね。

・noteでの筆致。

2期生であることは勿論存じておりましたし、非常に若い方であるというのも存じ上げておりました。配信では比較的ライバーさんですので、話を盛り上がるよう動いています。ですが特にその印象が強く出たのは、矢張りnoteというこの書き物媒体での書き方に至ると思います。彼女の書き方は、繊細で抒情的。とてもエッセイや詩篇に近い要素を感じます。非常に多くの読本をしていることから年代不相応ともいえる圧倒的な語彙力には驚かされますし言葉の表現の妙というものの可能性を考えさせられます。ただ、根底にあるのは、やはり年齢相応な純真たる感性・疑念からの文章生成の発出に帰結するように感じます。

・文法が存在する意味。

私は理学(特に物理系)と言語学から人というものの脳が発する電気信号、特に人に備わる意思とか言われる描画エンジンを1つの構造として考える研究を学生時代は行っていました。元々退屈な予定調和のゼミよりも教授の部屋に入り浸り煙草の一つも吸いながら語り合っていたタイプですから、ちょっとはみ出し者でした。『反論なき議論は無意味である』それが私の矜持でした。さて、一見物理と言語は相関性が無いように感じるかもしれませんが、あくまで文理というのは義務教育課程の学習の規範が決めたスコアの指標でしかございませんゆえ、別に国語に物理を使おうと、物理に国語を使おうと、それこそ哲学を物理学や量子力学(ボーアのコペンハーゲン解釈を参照のこと)から解決するという手法はとても一般的です。(時間の概念なんかは物理の領分ですし("時間の矢問題"を参照のこと)、天文分野もそういうとこありますからね)。

話を戻しまして、私は言語学者ノーム・チョムスキーが提唱している『生成文法論/普遍文法』その反証である『認知言語学』をよく利用していたのですが、家長さんの文章というのはチョムスキーでいう所の『生得的に最初から文法が存在している』かのような部分があります。要は、家長さんには家長さんの文章のシステムが既に書き始めた時点で形式化されているということです。『まどろみ』に関して書かれていた音声学・音韻論に関する一連の記事は後半部は正しい音声の用い方をしており、専攻の生徒より正確に論文めいていましたが、前半部の日記同様のエッセイ的導入は一つの彼女のシステムであると感じます。散文調ですが独自の論理回路がありますね。

・MBTIの話。

昨日ですかね、配信で家長さんはMBTIでINFPだったとか。ツイッターでご本人からどんな書き方をするの、というご意見をいただきましたので、MBTI(マイヤーズ)の16タイプ心理機能分けによる文章の差異を考えたいのですが、例えば私はINTP(論理学者)タイプであり、昔はINTJ(アイデアマン)でした。エニアグラムタイプは変わらず5番『情報収集家』です。心理機能はホメオスタシスではなく流動的なものなので私の場合は鬱とその療養をきっかけに変化していったと考えるとよいでしょう。INTJの文章は分かりやすいまでに現実的であり、箇条書きの如く端的です。ですがINTPは今の私の文章のように意識の流れ(トリストラム・シャンディを参照のこと)を脈々と書いていて、婉曲的ですらあります。INFPの書く文章というのは彼女が哲学を非常に好む(前にエミール・ミハイ・シオランの話をツイートでお尋ねしたときは見事なお返しをいただきました)ことにも分かるようにやや現実離れした文章の印象が高いです。最初に書いたように彼女の文章はとても抒情的でエッセイじみています。少し浮遊感があるといいますか、現実の輪郭にカメラのレトロフィルタをかけているようなものです。あるいは世界そのものをトイカメラや8mmで見ているような。これは現実という観念をどうとらえるかなんです。日記のnoteに見られますがそれは『非常識』とか『非日常』とはノットイコールであって、現実をどこから見るかということが違うということです。雨がしたたる一日を思う時、私は普通に『雨が滴る外景色』を題材にしますが、むぎさんタイプのINFPの場合は『雨が滴る窓』について書く、といえば伝わるでしょうか。

・『書く』という力学。

ものを読む・書くというのは実は力学系では一般的な話で、物理的に言えば、物を落とせば落下するし、一定の力が加わるし、転がせば転がるというのはとても自明の理な訳です。音楽でいえば和声進行・対位法に近いです。この音が成立するにはこの和音の動きや対旋律が必要である、至極まっとうな論理です。それこそピアノやギターの練習の初歩でバイエルやスケールの練習を行うくらい普通です。私は作家で言いますと『道化師の蝶』で芥川賞を受賞された円城塔氏の著作を07年処女作の『Self-Reference ENGINE』から学生時分より敬愛し愛読しています。純文学では鴎外、太宰、三島由紀夫などを通読しました。特に鬱の最悪期、自殺未遂を起こしていたころは鴎外では破滅的作風の『舞姫』、三島由紀夫では自身が幼少期吃音を患った経験から『金閣寺』にかなりの影響を受けています。音楽でいえばKornというメタルバンドの『Daddy』などの陰鬱さ、ラフマニノフの独奏に惹かれていました。簡単に言えばルサンチマンでした。ともあれ、円城氏の作品において言っていることは一貫していて、文章を書く/読む、ということへの言及でした。円城氏自体が物理学系のポスドクを経ての作家ですのでとても理論じみた、しかし一見意味の解らぬSF純文学と呼ばれる(スタニスワフ・レムの筆致を参照のこと)所以と相成るわけです。『良い夜を持っている』(2011)『エピローグ』(2015)などを読んでいただくとわかりやすいですが、ともあれ、読み書くことがいかにその読本という存在にフィードバック的な関係性になるか、そもそも読み書くとはなんぞや、ということについて深く言及してあったりします。映画『ダークナイト』でジョーカーだって言いますよね。『人はほんの少し突き動かしてやるだけで狂ってしまう』と。その文章版、文章が働かせる力、ウェルテル効果みたいなものです。

・Vtuberの存在を問うVtuber。

よく覚えてないんですけど、いつぞやの配信でVが死ぬということを話しておられました。私の場合はドライなのかもしれませんが、『Vtuberの死』というのは単純な『配信とそのログの消失』とイコール関係になり、それ以降は偶像として記憶につぎ足される存在へと昇華してその立場を変えるものだと思いました。私は宗教なども触れますが根本的には無神論者か自然信仰です。それゆえ、六道や三途の川での餓鬼の石積も、ダンテの地獄篇が如く天・地・煉獄の3つに分類があるわけでもなければ、ファウスト博士が悪魔と契約してめぐる神々の世界も寓話としてしか読んでいません。(ですが、人々が信仰する"あの世”を解き明かしたいがために宗教画や曼荼羅、宗教書は沢山読みます。)をですから、死ねばただ灰になり、意識は電気信号として脳に帰属するため、消失と同時に無に落ちる、とVtuberの消失は道義であって、Vtuberもまた活動終了時点でその発信者としての遺伝子の遺し方はなくなるわけです。生殖を終える、というところでしょうか。ただ、生殖された我々リスナーはそれをミーム(模倣子)として抱えていくことになります。確かにそうしてミームとして広がることは副次的生殖ともいえますから、ある意味では偶像は死んでいない、という論議にすらなるのですが、短絡的に『死』を捉えるなら、放散する前の1次的存在の死をもってして、終わりです。私の考えとしてご留意ください。

まとめ。

実はこの文章は家長さん当人へ向けて書いています。配信もさることながらその文章と興味、アートへの造詣の深さは素晴らしく(私は絵画はエッシャーのように物理学者ペンローズが提唱しただまし絵同様にどうしてもそういう理学路線で考える癖があって、フェルメールにしてもですが、絵の話したい事ではなく、絵の比率の黄金比を気にしちゃいます)、彼女がとてもカルチャーとしても面白い人物であることは間違いなく、それでいて配信では若々しさのある少女然とした姿が眩しく、ああ、彼女も1人の配信者であるのだな、と帰ってきます。配信者はエンターテイナーですが、同時にコンテンツメイカーでもあります。Youtubeの元来の目的はクリエイティブですから彼女の、あなたのなしていることはまさに正しい事であると思いますよ!

※追記

・書くという行為/読むという行為は双方向的な意味合いがあります。このフィードバック関係を用いて、私の文章が家長さんの『書く』ことに何かしらの貢献ができればそれ以上の事はありません。

7月に上梓されるという小説、楽しみに待たせていただきます。

非常に智慧と見識・知識量を感じさせる彼女のチャンネル登録はこちらから。

あ、5弦の琵琶が珍しいといいますよね。私も寺社仏閣などめぐるのが好きなのと奈良京都が近いので正倉院で見てきました。多弦っていう文化いいですよね。私もギターとベースは多弦に限ります。(7弦ギター野郎より)。

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