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【後編】「復興の輪」の思いを込めて故郷・富岡町で理容室をオープン

前編では、草野さんが理容師を目指したきっかけや、理容師になるまでの道程をお話ししていただきました。後編では、理容師になった後の葛藤や仕事への誇り、そして故郷・富岡町にお店をオープンすることへの思いをお聞きしました。

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まさかの方向転換で“理容師を極める”決断を

—資格を取った後も、そのまま同じお店に?

草野:はい、資格を取ったと同時に社員としてそのまま雇ってもらいました。

—そのお店ではどのくらい働いていたんですか?

草野:そこはチェーン展開もしていて、最初のお店で2年半くらい働いた後、新店舗ができるというのでそちらに移ってさらに2年半くらい働いていました。

そこから実は美容師の資格も取ろうかなと考えていて。理容室ってやっぱりお客様は男性がメインなので、僕もずっとメンズカットしかしてなくて。男性も女性もどちらもカットできるようになりたいと思って、自分の幅を広げたかったんですよね。

それでお世話になっていた理容室を辞めて、美容室に転職したんです。美容師の資格を取るのに、さらに50万くらいかかっちゃうんですけど、オーナーが「美容師免許取るなら学費出してあげるよ」って。

—それはすごい!

草野:結構すごいことじゃないですか。美容師の技術も覚えられるし、資格も取れるし、ラッキー! って思ってそのお店に入ったんですよ。……そしたら「やっぱり払えません」って(笑)。

東京や関東ではバーバースタイルがすごくはやっているじゃないですか。そこに特化している理容室に行くか、それともお客様の幅を広げるためにも美容室に行くかで自分なりにすごく迷って、学校や資格のことも調べまくって決断したのに。しかも前のお店を辞めた後に「払えない」と言われてしまったので戻ることもできなくて。

このまま美容室で働いても、僕は理容師免許しか持ってないから対応できるお客様が少なくなっちゃうなと。1年くらいその美容室で働きましたけど、バーバースタイルを極めてる理容室で働いたほうがいいなと思って辞めて、また違う理容室に就職してから福島に戻ってきたという流れです。理容と美容どちらも学べたので、いい経験になりました。

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自分を必要としてくれる場所でやってみたい

—福島に戻ってきたきっかけは何かあったんですか?

草野:戻る前は栃木に住んでいたんですけど、台風19号で被災して。そのとき川の近くに住んでたんですよね。それで家が浸水しちゃって。親も心配してるし。就職してから地元に戻る機会って、仕事も忙しかったし、あんまりなかったんですよ。

こんなタイミングで地元に戻って独立するってどうなんだろう? とも思ったんですけど、「もしお店を出すんだったらこっちでやってほしい」と親に言われていたこともあって戻ることにしました。

富岡町って美容室はあるけど、理容室は今は1店舗もないということを知ったんです。住民が徐々に戻ってきていたり、新しい人が富岡に移住したりしているのを見て、自分を必要としてくれている場所でやってみるのもいいのかなって。

首都圏ではコンビニよりも美容室・理容室の数が多いんですよね。そんな場所で競争しながらずっとやっていくよりは、お店がなくて困っている場所でオープンした方が自分の幸福度も上がるし、やってよかったと思えるんじゃないかなって。台風で浸水したのがきっかけという、すごく変な展開ですけど(笑)。

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お客様に寄り添い、人が集まる場所をつくりたい

—草野さんが考えるかっこいい理容師像は?

草野:僕自身はカチカチな接客はあんまり好きじゃないんです。もちろん大事なことだとは思うんですけど、“お客様に寄り添う”というのが自分たちの仕事では大事なことのかなと思います。距離感が近すぎるのが苦手という人もいるじゃないですか。逆にもっと親近感がある感じの方がいいという人もいるし。だから型にはまるような接客はしたくないなと思っています。

震災後、富岡町は若い人が減ってしまっているけど、お店を出したら友達や知り合いが来てくれると思うんですよね。そういう人たちが集まれば、コミュニティができるんじゃないかなって。お店で一緒になったお客様同士が仲良くなるのもすごくいいことだと思うし。

—人が集まるようなお店になるといいですよね。

草野:そうですね。気を使うような場所にはしたくないと思っています。せっかく個人でお店を出すので、流れ作業のように仕事をするのではなくて、お客様といい距離感でいられるお店にしたい。「このお店でないと!」とお客様に思ってもらえるように。

富岡町はまだ完全に避難解除になっているわけではないから難しいんですけど、やっぱり人が戻れるような環境をつくっていかないといけないと思います。そうじゃないと住めないし、住んでも不便で出て行ってしまう。「髪を切りに行く」という、人にとって身近な行いが、不便を感じることなくできなければいけないと思います。

だから、ちょっとずつでも、「戻ろう」と思ってもらえるような場所を増やしていきたいです。集まれる場所がどんどん増えていけば、必然的に人も増えるのかなと思うので。

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“復興の輪”という名前を冠したお店でゼロからスタート

—お店の名前は?

草野:「C.O.R(コール)」です。

—由来はあるんですか?

草野:「Circle of revival」の頭文字をとったもので、直訳すると「復活の輪」なんですが、「復興の輪」という思いを込めました。

お店の名前どうしよう! ってかなり悩んで、友達にも相談しながら決めました。ずっと使っていく名前だから、大切にしたいです。

—最後に、ありがちな質問ですが、今後の目標を教えてください。

草野:本当にたくさんの人が協力してくれてお店を出すことができるので、すごく感謝しています。そういう気持ちを忘れないでいたいと思います。ゼロからのスタートなので、どのくらいやれるのか自分の力を試せるのも楽しみです。

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人が集う場所である理容室や美容室は、地域の情報交換の場。そして、髪や身なりを整えることは、心を整えることでもあります。「C.O.R(コール)」は、2020年11月にオープン予定です。草野さんの思いが新たな仲間を呼び、地域に明るい話題を提供してくれるはず。オープン後も動向を追いかけたいと思っています。
撮影:白圡亮次
撮影場所協力
Guest House & Lounge FARO iwaki
〒970-8026
福島県いわき市平三町目8-2 やまとビル
TEL:0246-25-7188
URL:https://faro-iwaki.jp/


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