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合成の誤謬

 大学時代、経済学の授業で非常に印象に残った言葉として「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」がある。語感にインパクトがあるのと同時に、内容としても示唆に富む。合成の誤謬とは、ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも意図しない結果が生じることを言っている。例えば、景気が悪化すると、家計は節約を進める行動をとる。家計(ミクロ)の当たり前の行動である節約が、社会全体(マクロ)では消費の低迷を招き、企業の生産活動の低下、ひいては社員の給与の引き下げなどに波及。これによって景気がさらに悪化するという流れになる。この合成の誤謬を解決ないしは緩和させるのが政府の役割であり、財政出動などの方法で企業の生産活動を下支えするということになる。

紹介会社に対する相談者の不満

 私はリクルート時代に人材紹介の素晴らしさを感じた一人であり、今はAll Personalという企業で紹介ビジネスに関わっている。相談にいらっしゃる方へ対峙する私のスタンスは「自分らしさを発揮して充実した人生を送る支援をする」というもの。アドバイザーの経験や勘ではなく(別コラムもご参照ください)、自分らしさを客観的に理解するツールとしてFFS診断を活用し、その上で一緒にどうしていくかを考えている。今年からは1on1キャリア相談という形で、自身のキャリアについて考えを廻らせている方に会っているが、最近、相談にいらっしゃる方から聞く話として、「大手の紹介会社に相談に行ったが、大量の案件を紹介されるだけだった」という不満を漏らされる。当社に相談に来ているということは、大手の紹介会社に不満をもっている可能性が高いというバイアスはあるだろうが、個人的には人材紹介ビジネスが転職手段として見放されてしまうのでは?という感覚を持ち始めている。

人材紹介における合成の誤謬

 大手紹介会社のキャリアアドバイザーは、もしかすると案件の紹介件数を中間目標におかれているかもしれない。もしそうならば、アドバイザー個々人の行動は中間目標の達成という正しい動きをしており、結果として会社の業績達成に貢献しているだろう。しかし、その結果、転職の相談に来た一部の方々は、大量の案件に対して嫌悪感を持っていることも心に留めてほしい。アドバイザー個々人の動き、そして会社としての動きは合理的であったとしても、その結果、人材紹介ビジネスに嫌悪感を持たれては意味がない。この合成の誤謬のような状況を改善するには、各社の人材紹介におけるポリシーを見つめ直すこと、それ以上に相談者が転職に成功したら入社する企業から成功報酬が入るモデル自体も考える必要があるかもしれない。

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