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【一灯照遇】No.14 あたりまえをあたりまえに

これは、2019年の夏に書いたものです。

夏の甲子園も終わり、大阪代表の履正社が悲願の優勝を遂げました。
球児たちは猛暑の中、一生懸命な姿を見せて多くの人に感動を届けてくれました。


その中でも私は一つのエピソードに「うーん」と思わされました。
8月18日、準々決勝の星稜(石川)対 仙台育英(宮城)での出来事です。
憶えておられる方も多いと思います。


以下記事引用
七回裏。仙台育英の攻撃中、星稜の先発・荻原の右手がつりかけた。仙台育英の4番打者・小濃は、荻原の小さな異変を感じ取ると、自分が飲もうと思っていたスポーツドリンクのコップを持ってすぐにベンチを飛び出し、2年生右腕のもとへ駆け寄った。「けがしたらダメだよ。これ飲めよ」と荻原に声をかけた。
(インターネットページ『SPORTS BULL』 より)


最初にこの記事を見た時は単純に「ええ話やなあ」と思っただけでした。しかしよく考えてみると、ここには「感受性と行動力の両輪をしっかり回している」ということが分かり、「うーん、やはり全国に行くような結果を出しているチームはこれだから強いのか」と一段と感心しました。


ここには
① バッターの小濃選手は萩原投手の小さな異変に気が付いた(感受性)
② すかさずドリンクを萩原投手に持っていった(行動力)
という、気づき→行動の流れがあります。
しかし、この行動に至るまでには、いくつかの障害が考えられます。


イ)そもそも異変に気付かない(自分のことばかり・感受性の無さ)
ロ)気付いたとしても遠慮して行動に移さない(一歩が踏み出せない)
ハ)気付いたとしても敵に塩を送るようなことはしたくない(利得にからんで)
二)行動に移るまでの判断、決断が遅い(好機を逃す)
ホ)人として当たり前の行動ができない・知らない(社会性の無さ)・・・など


このような壁を素早く乗り越えて即行動に移ったことで多くの人の心を動かしました。本来の、「試合に勝つ」という結果からは外れていますが、意外な所で成果が出たといえるのではないでしょうか。これは一つのイノベーションではないかと思います。


さらにこの行動が多くの人の感動を呼んだ理由は、その行動自体の良さもありますが、「敵チームの選手がそれを行った」ことでしょう。それは利害関係を超えた、人道的な行動だったことも大きな要因でしょう。
このような行動を自然と取ることができるのは、本人の普段の関心や心がけが非常に大きな要因となっています。


このエピソードから、成果を出す人の『感性』『行動力』『判断力』『決断力』『社会性』が見えてきます。感性が起点となり、社会性を基準にして判断、決断をし、行動に移す。
そしてそのスピード。


もし、同じ星稜の選手がドリンクを持って行ったとしたら、わざわざ記事になることもなかったでしょう。機を逸することなく行動を起こしたことで記事になり、多くの人の心を動かしました。しかも彼は4番バッター。リーダーとして正しい行為を率先垂範しています。見ていた後輩は「さすがうちの4番だ」と尊敬と信頼の念を抱いたことでしょう。


先日、書店で、『「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』という本を見つけて購入しました。著者はおそらくアメリカの方だと思いますが、組織における礼儀・礼節の大切さが書かれています。やっぱりそういうことって大事だよな、と思いながら読んでいましたが、全体を通して何か引っかかるものがありました。

というのも、礼儀・礼節を欠いていると、こんなリスク・損害があります。だからきちんとした態度で対人関係を良くしましょう、という論調でした。

確かにそうだろうとは思いますが、礼儀や礼節は「人として当たり前のこと」であり、「損をするからきちんとしましょう」という文脈で語るのは少し違うと思います。


洋の東西を問わず、これは皆が分かることだと思いますが、そういう理由付けでないと、動機づけができないのかな、と思うと、なんとなくやるせない気持ちになりました。


それだから一層、この準々決勝の「ある意味当たり前」の出来事は深く印象に残っています。


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