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鉛筆のまじない【ショートショート】

「この鉛筆にはね、魔法が掛かっているの」

隣の席のあいつが言っていた。

「これからもずっとナオト君と一緒にいれますようにって言って、鉛筆に想いを込めて、最後まで使い切るとね、その願いが本当に叶うんだよ」

「へえ」

その時の俺はあからさまに興味のない返事をしたが、あいつは満足そうにくすくす笑って、俺の耳が赤くなっていると指摘した。

あいつは毎日毎日その鉛筆を使って、鉛筆はどんどん小さくなっていった。
あともう少しで使い切るだろうと思っていた頃、あいつはぐずぐずに顔を濡らして教室に入ってきて、俺の顔を見るなり、ぼろぼろと大粒の涙を流した。

あと一か月で、親の都合で遠くに引っ越すらしい。

「おまじない、間に合わなかった」

そう言って、彼女はまたわんわん泣いた。

俺は、筆箱にしまってあった予備の鉛筆を取り出して力を込めた。

「ナナコとまた一緒になれますようにって……かけたから。これ、使い切るから」

口にしてから、頭のてっぺんから足の先まで一気に熱くなって、たまらずあいつから目を逸らした。

「ありがとう」

ナナコは、ぐずぐずの顔のまま目を細めた。

もう、何年も前の話だ。

想いを込めた鉛筆はもう、何本目だろう。

子供の作り話であることはもう分かっているけど、どうしても使い切ってはまた小学生の中に交じって鉛筆を買う。

瓶にたまった書き潰された鉛筆が虚しい。

きっと、もう会えないんだろうな。
そもそも、どうして俺はこの歳になってまでこんなことをしているんだろう。

あいつはもう、その願いを他の人に向けているかもしれないのに。

ポケットに入れていたスマホが震える。
母親からだ。

〈あんた、ナナコちゃんって覚えてる? 小学校の同級生の〉

「なんで?」

〈うちに電話があったのよ。今、こっちにいるからって〉

「――電話番号、教えて」

紙に書いた電話番号を直ぐに打ち込む。
コール音がじれったい。

〈――もしもし〉

「あの、小学校一緒だった…」

〈ナオト君?〉

「うん。あのさ、今ってどこいんの?」

椅子に掛けてあったバックパックをひっつかみ、家を出る。

もう、鉛筆は買わなくていいらしい。

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