文化財保存の種類とその現状
九條です。
我が国における公的な文化財の保存方法には、おもに以下の3種類があります。
※以上の2つの保存は、最低でも今後100年間くらいはその状態を維持し続けることができるように考慮して保存されます。
これら3つの保存方法は、文化庁を中心として国の研究機関や各地の国公立の博物館・資料館、大学の研究機関、地方自治体の教育委員会の文化財部門などによって行われ、最終的には全データが文化庁に集約されます。
理想としては、全ての文化財を(1)の「復原(復元)保存」や(2)の「現状保存」ができれば良いのですが、そのようなことをしだすと国の予算や地方自治体の予算は、たちまち破綻してしまいます。
また経済面だけでなく技術面においても「復原(復元)保存」や「現状保存」で100年後も状態を変わりなく維持し続けることは、民間の団体や個人では到底不可能なことです。
ですからほとんどの場合は(3)の「記録保存」となっています。専門家が精査・協議・検討して歴史的・文化的・学術的に非常に重要かつ貴重なものだと判断された文化財だけを「復原(復元)保存」や「現状保存」しているというのが現実です。
【私的保存のススメ】
そして私たち個人ができる保存としては、私的な保存があります。
それは、私たちの身近にある(地元などの)街角の文化財について、公的な「復原(復元)保存」や「現状保存」、場合によっては「記録保存」さえもなされていない(さまざまな事情によりできていない、できなかった)ものでも、私たち個人が写真を撮影したりレポートを作成したりして「自分や周りの人たちに分かる」ように記録を残しておくことです。
そうして私たち個人が私的に残している記録でも、後々になって思いがけず貴重な歴史資料となる場合があります。
それが貴重であるかどうかの判断はその時になってからの専門家(各地域の博物館や自治体の教育委員会の文化財部門など)の判断に委ねるしかありませんが、何も記録がなければその文化財が「存在したこと」すら証明することができません。
個人のレベルで学術研究に耐えうるような専門的かつ膨大な量の記録を残すことは(時間的にも技術的にも経済的にも)不可能ですが、しかし「その文化財が存在した」ことを証明する私的な記録だけでも残しておくことは、後々の世のためにはとても大切なことだと思います。
九條正博(博物館学芸員・もと文化財調査技師)
※この記事は2003年に学生さん向けのパンフレットに書いたものを縮約・改題しました。
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