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春の野にすみれ摘みにと

九條です。

久々の「万葉集シリーズ」です(勝手にシリーズにしてすみません)。^^;

季節は晩春となりましたね。華やかで、かつ新緑も瑞々しい時期。

今回も『万葉集』のなかから、日本の美しい光景を歌った歌をお届け致します。^_^

今回は、春の野の菫の花を歌った歌です。

【万葉集】
春の野に
すみれ摘みにと
来し我れぞ
野をなつかしみ
一夜寝にける

春雑歌はるのぞうか山部宿禰赤人やまべのすくねあかひと

(巻第八・一四二四/山部宿禰赤人)

【原文】
はるの
須美礼すみれつみ尓等にと
来師こしわれ
野乎奈都可之美のをなつかしみ
一夜ひとよ宿二ねにける

(春雑歌/山部宿禰赤人)

【意味】
菫を摘もうと春の野にやってきたのだけれども、その野の美しさに惹かれて(そこで)一夜を過ごしてしまいました。

この歌は山部赤人やまべのあかひとさんが「菫を摘もうと春の野にやって来た」と歌っています。

これは当時(奈良時代)の春の行事のひとつで、古代では春になると野に出掛けて食べることができる花や芽を摘む習慣がありました。このような行事は「若菜わかな摘み」などと呼ばれて古代の人たちが楽しみにしていた行事のひとつでした。
 
いまでも「七草粥」のように、春の七草をお粥に炊き込んで食べますね。「若菜摘み」はその源流だとも考えられます。

菫の花は、古代ではその花や若葉が食用にされていました。寒い冬を乗り越えて甦った生命のエネルギーを含んでいる花として、古代の人たちは食べていたと考えられます。

またこの歌は、菫の花を意中の女性に喩えて「一夜を共にした」という意味の恋の歌だという説もあります。けれどもその真相は、この歌を歌った山部赤人さんだけが知っているのかも知れません。^_^

【参考資料】
◎鶴 久/森山 隆 編『萬葉集』桜楓社 1986年

【おことわり】
私は『万葉集』が好きで、気分転換によく紐解くのですが(私は歴史学の人間で、国文学の人ではありませんので)とくに何かを調べたりしたわけでもなく、ただ単に歌を鑑賞してボンヤリと心に浮かんだことをこのような拙い文に致しました。解釈等に間違いがありましたら、どうかお許しください。

©2023 九條正博(Masahiro Kujoh)
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