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「島」の歴史学を構想する——2023年8月3日-8月8日のinstagramまとめ

 こんにちは。今週は台風が猛威を振るっていて、わたしが住んでいるところでは長時間停電していました。自然の脅威を前にすると人間は無力にならざるを得ませんね……。被災された方にはお見舞い申し上げます。

 さて、今週(これももう2週間以上前になってしまっていますが……)は「島」にかんする本を投稿してみました。わたし個人は関西の山奥で育ったので、まったく島とは縁遠いのですが、ひょんなきっかけで小笠原諸島に興味を持ったので、それにまつわる文献を集めてみた結果、意外と面白い地平が開そうだと思った次第です。
 後編に書くエッセイは、それゆえに思いつきに過ぎないことを書いていくとは思いますが、一読してもらえますと幸いです。

 ここで少し脱線。なぜ小笠原諸島に興味を持ったのか。それは、東京・恵比寿の写真博物館にたままた行ったときに、「地球の持続可能性(サステナビリティ)の問題に対して強いメッセージを投げかけている日本を拠点とする優れた写真家を支援することを目的」とする「プリピクテジャパンアワード 「火と水/ fire & water」」なるものが開催されていて、それを見たのがきっかけでした。その展示会では、新進気鋭のさまざまな写真家の作品を見ることができたのですが、なかでも個人的には長沢慎一郎さんが撮られた小笠原諸島の写真に興味を惹かれました。
 小笠原諸島は、現在こそ日本の領土となっていますが、1968年まではそもそもアメリカ領であったこともあって、アメリカと日本の文化が入れ混じる土地です。その様子が写真からありありと伝わってきました。不勉強だったわたしは、この写真を見るまでは小笠原諸島については「自然遺産に登録されているところ」くらいにしか思っていませんでしたが、写真を見た後はもうすこし勉強してみようという気になったというかんじです。ということで、石原俊さんの著作などを手に取ったのでした。


今週の6冊

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 以下に投稿した本を挙げておきます。本来であれば①や②の本の著者である石原さんの博士論文をもとにした『近代日本と小笠原諸島——移動民の島々と帝国』という本も手にしておきたかったのですが、現在古本価格が上がっているようで、断念しました…。でもほかのものはまだまだ入手できそうなので、そちらを先に読んでみることにしました。

 ①石原俊『〈群島〉の歴史社会学——小笠原諸島・硫黄島、日本・アメリカ、そして太平洋世界』(弘文堂、2013年)。
 ②石原俊『硫黄島——国策に翻弄された130年』(中公新書、2019年)。
 ③中野聡+安村直己(責任編集)棚橋訓(編集協力)『岩波講座 世界歴史 19巻——太平洋海域世界〜20世紀』(岩波書店、2023年)。
 ④里見龍樹『不穏な熱帯——人間〈以前〉と〈以後〉の人類学』(河出書房新社、2022年)。
 ⑤北野充『アイルランド現代史——独立と紛争、そしてリベラルな富裕国へ』(中公新書、2022年)。
 ⑥周婉窈『増補版 図説 台湾の歴史』(平凡社、2013年)【原著1997年】。

簡単なレビュー

 まずは①について。これは先ほどから名前を挙げている石原俊さんによる、コンパクトでありながらも専門的な知見を加えながら「島」の歴史を叙述する本です。この本のとくに序論のところが顕著かもしれませんが、「歴史研究において島をどのように捉えるべきか」を考えるうえでも重要であると思われます。
 そして②も石原さんの本です。この本は「硫黄島」と題されているために、「戦争のことが書かれているのかな」と思われるかもしれませんが、そうではありません。もちろんこの島々にとって戦争も大きな出来事であったのですが、戦中だけではなく戦前も戦後も、日本の国内政治とアメリカをはじめとする国際政治のあおりをうけて、そこにいる住民が振り回されていきました。この例に見えるように、「島」は国際社会の情勢に左右されるケースも多いというのが重要なのかもしれません。
 なお、Google Map等で確認していただけるとおわかりのとおり、小笠原群島硫黄列島は比較的近しい距離感にあります。しかし、とくに戦後については両諸島が異なる歴史を歩みました。そのへんの比較もなかなか興味深いところではあります。

 ③について。こちらは世界の全歴史をカヴァーするべく、地理的にも時代的にも広範囲にわたる対象を、複数の著者が20数巻をかけて執筆していくシリーズ「岩波講座 世界歴史」のうちの1冊。このシリーズは、2、30年に1回、全面的に再編されて再記述されるのですが、その構成自体がその時代の風潮を反映するところがあります。今までは「英・仏・独・米」などの国についての記述が多かったのですが、本シリーズではこの「ヨーロッパ中心史観」を少しでも相対化させようとする意図を感じます。
 本巻は、その相対化のもっともラディカルな実践だといえます。なんせ、「島」だけで1巻を構成してしまったわけですから。この本を買ったのも、その取り組みに興味を惹かれたからでした。あともうひとつつけ加えておくと、この巻は歴史学者以外の寄稿者(とくに人類学者)が多いのですが、このあたりも歴史学をより開いたものにしていくうえで重要だと思います。

 ④について。こちらはソロモン諸島をフィールドワークする人類学者、里見龍樹さんによる非常に実験的な一冊です。その「実験的」な側面は、その文体の特徴にあらわれています。大きく分けて、①著者がフィールドワーク中に書いた日記の引用(著者の回想)②フィールドワーク先の「文化」の記述(人類学がいままで書いてきた民俗誌)③人類学における最新の研究動向の紹介(理論の紹介)があります。つまり、日記民俗誌理論が融合しているわけですね。個人的には、この戦略がとても面白いなと思って読みました。当然、ソロモン諸島の社会を知るのも面白いですけどね。

 ⑤はこちらも「島」であるところのアイルランド現代史の入門書です。著者は歴史研究者ではなく、外交官の方が書かれたものです。政治の最前線の現場で働いてこられた方が書く現代史には、それだけで説得力が出るのだなと思ってみたり。
 ⑥はこちらも「島」である台湾の通史です。学部時代に一度台湾に行く機会があったのですが、そのときに台湾の歴史を予習するために買った本です。台湾の歴史は、ここでは簡単にまとめられないほどに複雑です。オランダ、日本、そして大陸の中国等々との関係性のなかで台湾の歴史を捉えないといけません。


「島」の歴史学に向けて

 以下、後日更新予定です。すいません…。


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