「サテライトの女たち」 島本理生
「結衣さんって、普段なにしてるんですか?」
視線を向けると、残った新人ホストが人懐こい笑みを浮かべて答えを待っていた。長い前髪のせいか、やっぱり表情が暗く見えた。
「イベントのコンパニオンとか。でも、メインは愛人」 (p.59)
中学生のころ、「女性の顔は、本命顔と愛人顔に分かれる」とテレビ番組でやっていた。
何の番組だったかは全く覚えていない。
その翌日、「愛人顔のひと、萠ちゃんしか思いつかなかった」と真顔で言われた。
「え、ウソでしょ?」と笑ってこたえていたあのころの私に、いまの自分は想像もつかないだろう。
あのころの私に伝えたい。
中学生のころの萠へ
テレビ番組の影響で、お友達に「愛人顔」と言われて笑われたよね。
あなたにとって「愛人」というものはあまりにも遠い存在で、そう言われることにどのような感情を抱けばいいかわからなかったと思う。
でもね、そのテレビ番組はデタラメじゃないみたいよ。
19歳のころからお誘いいただく男性の4割は既婚者で、30歳を超えると6割以上になる。
35歳をこえたいまは、8割がた既婚者かも。
だからと言って、ジタバタしても仕方ない。
私はそのような星に生まれてきたようなので、とらわれず飄々と生きてほしい。
ただし、
「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」
この理論は通らないので、要注意。
愛人なんて、たいそうなものではない。
ただ、軽く見られているだけ。
中学生のころの私には、何を言ってもわからないと思うが。
とにかく私は、飄々と生きたいーー。
10年後の萠へ
私は、飄々と生きていけていますか。
いまの私には、まだ難しそうです。
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「サテライトの女たち」 島本理央 『夜はおしまい』(講談社、2019) 第2話
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