見出し画像

「黄金の魚」 谷川俊太郎

《 黄金の魚 》 1923
おおきなさかなはおおきなくちで
ちゅうくらいのさかなをたべ
ちゅうくらいのさかなは
ちいさなさかなをたべ
ちいさなさかなは
もっとちいさな
さかなをたべ
いのちはいのちをいけにえとして
ひかりかがやく
しあわせはふしあわせをやしないとして
はなひらく
どんなよろこびのふかいうみにも
ひとつぶのなみだが
とけていないということはない
 (p.112-113)

「ねぇ、わたし、幸せになれる?」
「なれるよ。これから。すごく良い手相だから」

このような会話をしてから、つらいことがあると自分の右手を見つめるようになった。
そして、その手を胸にあてて、「大丈夫」と自身に言い聞かせる。

それと同時に、そう言ってくれた彼のことを思いだす。

最近、目覚めてすぐに彼のことを思い出すことが多くなった。
ついこのあいだまで、そんな存在ではなかったのに。

彼への思いをここにそっと記しておく。
恋とか愛とか、明確なこたえは出したくないけれど、
いまのわたしには、貴方が必要です。
どうでもよかった右手のひらが、特別なものに見えてきました。
不安しかなかった将来ですが、貴方の前向きな言葉によって、少しだけ、光が見えた気がしました。
すべて、貴方のおかげです。

しあわせはふしあわせをやしないとして
はなひらく

わたしはいつ、はなひらきますか。

ーーーーー

「黄金の魚」 谷川俊太郎 『朝のかたち 谷川俊太郎詩集Ⅱ』(角川文庫、1985)より


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?