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ダリ展

プライベートワークでやっている展覧会記事レポートをのせます。今回はダリ展です。

私のお気に入りは、なんといってもシュルレアリスム時代の作品であった。ダリは、精神分析学を創始したフロイトの著作を熱心に研究していたという。フロイトによると、夢には無意識下にある願望や欲望が、形を変え表現を歪ませて現れるとされる。ダリはその理論に基づいて、夢からやってくる無意識をインスピレーションの源としていたそうだ。フロイトに感銘を受けるというからには、何かコントロールできない自身について強い探究心があったのかも……そんなことが、ふと頭をよぎる。

サルバドール・ダリ《謎めいた要素のある風景》1934年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

謎めいた要素のある風景。その名の通り、私の前に謎めいた世界が広がっている。中央には、ダリが高く評価していたオランダの画家のフェルメールが絵を描いている。看護師につれられている小さい男の子は幼少期のダリの分身。スイスの画家ベックリンが好んだ糸杉の前には、布をかぶった亡霊のような不気味な人影。
ここは、暖かいのだろうか、それとも涼しいのだろうか。もしかしたら、温度を感じない世界なのかもしれない。きっと乾燥していているのだろう。ほんの少しだけ風を感じる。イメージの世界を目の前にした時、私はそれを頭で理解するのではなく、身体で感じることから始める。そうすると、不思議なことに、その世界は、私も感じたことがある懐かしいものとして感じることができる。ここはダリの夢の中、つまりは彼の無意識の世界かもしれないが、私の無意識の世界にも通じてしまう。この絵は、無音の世界な気もするし、その中でダリ少年の声だけがこだましてるような気もする。糸杉の前の人影が静寂のなか急に動き出しそうだ。ぐにゃりと倒れるのか、はたまた踊り出すのか。どこまでもどこまでも広がっている大地。この孤独な大地の中にたたずむのは、小さな小さなダリと彼が熱烈な想いを寄せていたフェルメール。同じ場所にいるように見えても実際には彼らの時空は隔たれいるかのようだ。フェルメールがダリ少年を描いているようには見えない。お互い見えていないかのように独立している。夢を見ている大人のダリだけが同時に2人を見ているのかもしれない。決して交わることのない2人……。しかし、彼らを包み込む大きな空と強烈な赤と黄色の光のまばゆさだけは確かなものである。

この絵に何を感じるかは、私たちの無意識にあるものと関係が深いのかもしれない。

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