朝焼け

子を抱きて夕映えの富士指させば…

子を抱きて夕映えの富士指させばみどりごはわが指先を見る
春野りりん『ここからが空』

息子 ξ(仮名)が 私のもとにやってきたとき、まだこちらの文化や事情を知らない遠くからの客人(まろうど)のように感じました。そうすべきだと考えたのではなく、なぜかそういうふうにしか感じられなかったのです。
それで、自然と異文化交流のように接していたのですが、それでも 無知の未熟なひとを上から引っ張り上げるようなふるまいをしてしまい、不誠実だったと反省することもありました。

ξ 生後6か月の日記より。
この世にやってきた歳月の長さとは関係なく、誰に対してもまっすぐひとりとひとりして向き合いたいと思った出来事です。

ξ はハイハイが随分上手になりましたが、体のすぐ近くにあるさまざまな物に興味をもって止まってしまうので、長距離を進むことがありません。
そこで、ξ の前で、芋虫の木製プルトーイ(引っ張る玩具)を動かしてみました。ξ が手を伸ばしたら触れる直前に芋虫を少し引っ張って、ξ を前へ前へと誘おうと思ったのです。

しばらくの間、 ξ は芋虫を懸命追いかけていました。しかしふと、芋虫についている赤い紐に目を留めました。それから、それからその紐を引っ張っている私の手に視線を移し、そして腕をたどって、手の主である私の顔を見ました。 とても悲しい表情をして。

私をまっすぐに見つめるその目は
「なぜ いもむしに さわらせてくれないの。
どうして そんないじわるをしていたの」
と訴えています。
こんなとき、ξ は絶対に怒らず、ただとても悲しくさびしい顔をするのです。

好奇心旺盛な ξ の自由にさせてあげるのがいちばんで、余計なお節介を焼くことなどなかったのです。ξ のために良かれと思ってやったことでしたが、ξ の気持ちを考えると本当に申し訳なくなって、平謝りしました。

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