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見える人

ある肌寒い日の夜更け。コンビニのレジ前で、知らないお兄さんとぶつかりそうになった。気の良い感じのお兄さんはサッと道を譲ってくれたのだけど、会釈をしてお兄さんの前を通り過ぎようとしたら、ギョッとした顔で私を見てから、動揺した様子であからさまに目を逸らされた。
「え、どういう事?」
別に私はヤクザみたいな強面のオヤジでもないし、絶世の美男でも美女でもない。目立つ傷跡や痣があるでもないし、何か相手を驚かせてしまうような特徴は一切無い。むしろ地味で、いかにもモブ的な、その他大勢を絵に描いたような風貌なので、人様に顔を覚えてもらえないタイプである。
普通の中肉中背の中年さんだ。
それが、あんな真っ青な顔をされたのでは、どうしても気になる。
何か私におかしなところがあっただろうか……
服が珍妙だったか?
いや、地味な白いコーデュロイのシャツと、ブルージーンズのデニムパンツと、ベージュのスニーカーと、黒いニット帽で、珍妙というほどではなかった。あまりにもベーシック過ぎて、没個性が過ぎるという意味では珍妙かもしれないが、人目を引くようなアイテムは無かった。
では、顔が気に入らなかった?
いやいや、前述したように私の顔は地味で普通の超モブ顔だ。気に居るとか入らないとか、そんなん以前に、気にされまい。
色々考えた結果、もしかしたら、あのお兄さんは「見える人」なのかもしれないと思った。
要するに、霊感があって、怨念のたぐいが、見える人。
それなら私を見た時の、あの慄きようも不思議ではない。
怨念が見えているのなら、私を見た瞬間は、さぞや恐ろしかっただろう。
私に取り憑きそうな怨霊には心当たりがある。
二人か、三人か……五人くらい。
おいおい、ずいぶん曖昧に人数が増えるな、と突っ込まれそうだが、それも仕方がないのだ。いくらネットが発達して色々と調べるのが楽な時代になったとは言っても、なんでもかんでもネットで検索して簡単に情報をゲットできるわけではない。
確実に死んでいるのは二人で、一人は生死不明で、あとの二人は普通に生きている。
「ああ、もしかしたら……いちばん強い怨念は私自身のものかも」
本当に、心の底から恨んでいるから……
あのお兄さんの目に、私はどう見えていたのか気になるが、また会えても赤の他人に素っ頓狂に声を掛けるわけにもいかないので、確かめる術は無い。
どう見えていたのだろうか。
私が鏡を見る時と同じように見えていたのなら面白いのだけれども……

 END


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【ムーンロード - No: 26260937】

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