個人よりチーム、遠いより近いほうが良い
今日は物理的な視点からイノベーションについて考えてみたい。
タイトルが意味しているのは、個人よりチーム、遠いより近い方が、イノベーティブな知識を創造するということである。
三人集まれば文殊の知恵と言うが、一人で考えるより複数人で考えたほうがより確からしい、よりよいアイデア、より良い結論が生まれることは経験的に知られてきた。
また、社会選択理論においては、集団における意思決定のメカニズムとして何が最も良いかについて検討してきた。
みんながよく知っている多数決は妥当なものに落ち着くことも経験的に理解できるかもしれない。
ひとりよりはチームで考えよう
個人よりチームのほうが良いという事実は実証されている。2007年にサイエンスに掲載された論文の要旨である。
この研究では論文と特許に焦点を当てて、知識生産においてはチームのほうが個人よりもより他者に引用されるようなインパクトのある研究を生み出しやすいことを示唆している。
面白い事実としては、これらは科学や工学分野だけではなく社会科学においても同様だということである。1955年の社会科学者のチームによる論文執筆率は17.5%であったが、2000年には51.5%となり、これは科学や工学と同水準である。
今日の社会科学の論文は、平均して2人1組で書かれており、より大きなチームで書かれる傾向が続いている。ただ、人文科学分野では依然として90%以上の論文が一人で執筆されている。
確かに私の指導教員もトップジャーナルに論文を投稿していたがグローバルチームで取り組んでいた。当時、あまりに人数が多くなると誰がどれくらい貢献したのかわからないではないかと思ったものだ。
ただ、論文数や論文一本のインパクトを評価指標としたとき、一人で何年もかけて一本の論文を書くよりも、チームで質の高い論文を出すことが、今のアカデミック分野で生き残るためには非常に大切であるのかもしれない。
リモートより、直接会って話したほうが良い
次に距離とイノベーションの度合いについて研究した論文を紹介する。
たまたま同じ論文を他の方がまとめていたのでこちらで紹介したい。
こちらも先程のものより更に規模の大きい気合の入った研究である。
この研究の面白いところは、便利になったにも関わらず地理的な距離がイノベーションに関係しているという事実である。
インターネットの普及によってより国境を超えたコミュニケーションが増加している現代において、研究チームもまたZoomやMeet、一昔ならSkypeやチャットを使って簡単にアイデアを交換できるようになっている。
実際に、過去半世紀の間に、研究チームはあらゆる科学技術分野で地理的に拡大ているという。チームメンバー間の平均距離は、論文では100kmから1000km近くまで、特許では250kmから750kmまで伸びている。また、2500kmを超える超長距離共同研究の割合が、論文では2%から15%へ、特許では3%から9%へと大幅に増加しているのだ。
この事実は我々の直感を裏付けるもので、確かに論文や特許を仕上げるメンバーは地理的に離れていてもインターネットを通してコラボレーションできるようになった。これによりチームメンバー間の距離は伸びている。
しかし、研究を「研究の着想」、「実験の実施」、「データの分析」、「論文の執筆 」という4つの機能に分解して、チーム内の科学者の役割を分析したところ、同じ科学者が 「研究の着想」に貢献する確率は、他のすべての活動に比べて最も劇的に低下する(63%から51%へ、p値<0.001)。
これはアイディエーションという研究の肝を考える過程において、リアルな現場におけるチームのほうが、イノベーティブな研究の発想に相乗的に貢献する可能性が高いことを示唆している。
地理的な距離を超えてチームが協力して研究をしたときのメリットはないのかというと、そうでもない。例えば左上のグラフの「Performing(実験の実施)」はオンサイトとリモートで大差ない。つまり、実験の実施は離れていても良い仕事ができる。
これはどういうことが示唆されるだろうか。アイディエーションが完了して具体的に実験をする段階になったとき、技術的な仕事をしてもらうということだけを見れば、リモートチームが十分に貢献できる可能性がある。
しかし、それ以外の機能「研究の着想」、「データの分析」、「論文の執筆 」においてはオンサイトチームのほうがより高い貢献ができる。
リモートチームでは、2人の著者の被引用数が同レベルの33%から、一方の著者の被引用数が23%へと劇的に低下する(図4b)。つまり、最も影響力のない著者と最も影響力のある著者は、リモートチームでは、オンサイトチームよりも新しいアイデアを共同で発想する可能性がはるかに低い。
筆者によれば、このような顕著なパターンは、オンサイトチームの場合はあまり実績のない研究者にも研究の着想から仕事をさせるのに対し、遠隔チームは技術的な仕事をさせるだけであることを意味していると指摘する。
よって、リアルな現場の研究チームではシニアな研究者と共同研究することで、新しい才能が次のブレークスルーを構想する際のインキュベーターの役割を果たすと言えるだろう。
個人的に、今は研究もリモートでできそうな気がしていたが、やはりリアルに顔を合わせながら研究する時間にも大きな価値を感じていたのも事実。しかし、それは感覚的なものだと思っていた。
この研究が示している事実は、顔を合わせながら仕事をしたほうがよりよい成果を出せるというのは、決して感覚レベルではなく、事実である(本研究の対象は研究や特許のみだが)ということである。
やはり、直接コミュニケーションが取れることは大きいし、他の人から思いがけず着想を得たり、チームが発足することはある。そうしたチャンス、きっかけを生み出すのはやはりリアルな現場、オンサイトだからこそである。
やはり誰も取りんだことのない研究にチャレンジするときは、周りに優秀な学生や教授の集まる場にいるということは重要であるし、博士課程に進学するならやはりそうした環境を目指さなければならないと思う。
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