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たんぼLOVE「9月」

季節は白露をすぎて秋分へ。
今年はそれでも残暑が退いてくれないのですが
朝は草々に露がびっしり結ばれています。
どうしたものか、例年よりよほど多く
前の晩に雨でも降ったのかと思うほどなのです。

季節の名のとおり白い露の揺れる畦を行けば
稲穂が浅緑の葉のあいまより
重く実った顔をのぞかせます。

早くも曼殊沙華の芽が伸びています。
他より先に一本だけ伸びたその先は、堅い蕾。
蜻蛉が止まっています。
年に数回おこなわれる畦の草刈り。
この曼殊沙華は、花を咲かせる前に切られるのでしょうか。
ささ濁りの空を切り裂くように、鵯が啼きました。


     身を絞り鳥は高音を露けしや   梨鱗 

日の入りも早くなりました。
帰り道の田んぼは、すっかり夜の景です。
数週間後の収穫を前にして田毎に
人除けの棒が立てられ、針金がかけられています。
遠くには案山子が二体。
さらに向こうの小さな明かりは
小林清親の画のようでもあり。
いえいえ、それよりは彼の弟子、
井上安治の師よりは些か不器用な灯のように
どこか訥々とした温もりがあります。
そして。
ご飯を炊いたような甘い香りが風に。
ああ。
この季節はこの匂い、よく実った稲の匂いです。


     稲の香を晴夜せいやの胸にふかぶかと


 わずか26歳で逝去した井上安治



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