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Misson1. その能力、危険につき

「は?」
 私は目の前の男を睨みつけ、思い切り脚を組んだ。額から汗を滲ませ、縋るように見詰めてくる男の姿は滑稽で、それでも私は一寸たりとも笑えなかった。二つ名の由来にもなっているトレードマークの赤毛を掻き上げ、念押しでもう一度訊く。
「ここにないっていうのは本当なの?」
 男は必死の形相で頷く。その目に嘘偽りがないことを読み取って、私は不快感に顔を歪めた。まず疑ったのは情報漏洩。けれどそれはないだろうと否定する。今回の指示はあの秘密主義で有名なレイモンド司令官からのもので、彼が漏洩なんて許すはずはないからだ。と、なるとどこかの誰かに先回りされたか……。
 考え込んでいる私からなら逃れられると考えたのだろう。目の前の男がじりじりと後退りを始めた。許すはずがない。私は平を上にした人差し指を男に向け、ふっと短く息を吹いた。見えない縄で男の身体が拘束される。
「一緒に来てもらうわ。私が失敗したと思われたくないもの」
 気絶した男を一旦放置し、転送装置を準備しながら記憶を巻き戻す。思えば、今回の依頼は最初から違和感が漂っていた。
 事の発端は3ヶ月前に遡る。

◇◆◇◆

 私は急遽任務から呼び戻されて、とても不機嫌だった。不手際をおかしたわけでもないのになぜ帰還命令が下ったのか、サルコー長官を詰問する気満々で待ち構えていた私の目の前に現れたのはレイモンド司令官だった。
「……っ!」
 私はこの男とは口を利きたくない。そっぽを向いた私にレイモンド司令官はにやにやと視線を送ってきた。髪の毛で首を絞めてやりたい。
「さて、ミス・モルガート。君を呼び戻したのはある重要な任務を依頼するためだ」
 どんな依頼であろうと知ったことではない。拒否する気満々の私に対し、自身満々にその憎き男は口を開いた。
「君には特異能力――所謂、超能力を身に付けてもらう」
 一瞬言葉が脳を素通りし、それから戻ってきた。
「……は?」




【続く】

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