尊敬する上司像の話をしよう

 学生を終え、正社員として勤めて5年が経つ。私は未だに、新卒時代の上司と教育担当以上に、ビジネスパーソンとしてロールモデルと出来る人を見つけていない。

 新卒で入った会社は外資系だったので、役職にも外資らしい名前が付いていたのだが、ここでは分かりやすく日系企業っぽくなおして話を進める。
 私の直属の上長である課長は、女性だった。年齢はたしか30だったか。同期の中でもいち早く課長に昇進し、新卒を部下として受入れるのは私が初めてだったと聞いた。教育担当はその2歳下の男性。課長と違い中途入社で入ったとのことだった。
 課長はもう、それはもう、ものすごく仕事のできる人だった。リーマンショックという社会情勢の中で社会人になったこともあるのか(いやもちちろん、性格とか気質もあるだろうけど)、とても根性のある強い人だった印象がある。

 こんな逸話があった。
 当時の支社長が、配属された新卒に対し、飛び込み営業1日100件のノルマを課した。が、女性である課長(当時は一新卒社員)とその同期の女性は、性別を理由にノルマを80件まで減らされた。ところが女性2人組は女だからと容赦されたことに奮起し100件達成した。ちなみに新卒メンバーでこのノルマを達成できたのは女性2人だけだった。

 かっこいい、と素直に思った。
 そんな立派な課長の下についた私であったが、私は根性なしであまちゃんだった。自分で設定したテレアポ目標もクリアできないし、新規もなかなか獲得できない。課長は見ていてやきもきしたと思う。もしかしたら教育担当には色々言っていたのかもしれない。
 それでも私は、ふたりからきつく怒られたことが一度もなかった。ふたりが、『今私に言っても大丈夫だろうこと』『今言わないといけないだろうこと』を明確に正確に選別して、私のがんばりも見てくれていたからだ。

 実際こういうことがあった。
 私が配属された支社には、それぞれ所属する課は違ったが他に同期が3人配属された。支社長は熱血で教育に力を入れる人だったため、他の同期は直属の上司である課長を飛び越して、支社長から指摘を受けたりすることがあったらしい。
 それは正直、見ていてしんどいものでもあったが、私はそれをされたことがない。
「利瑚さんの上司は私です。何か指示や指摘があるなら私を通してください」と、課長が私の傘になってくれていたからである。それを、支社内最年少の課長が言うのだからすごい。

『今言っても大丈夫だろうこと』『今言わないといけないだろうこと』を選別するのは、マネジメントをする上司の務めだ。そのためにも『今できるだろうこと』『かける努力の度合い』を測るのも上司の務めだ。けれど、中間管理職という立場は中間であるが故に、板挟みとなって実行が難しい部分もあるのだろう。それは察する。
 実際その後の転職先では、間を飛び越しての指示や指摘をよく見た。そしてそれは、色々なことを乱すことが多いことも知った。
 上司や教育担当は本来、責任を持って傘となるべき存在だ。けれどそれができていない人の、なんと多いことか。
 理想論、と言ってしまえばそれまでなのだけれど、私は理想を実際に見たし体験したので、余計強く思う。

 私はこのふたりから、社会人としての基礎を教わった。だから私は今、正直理不尽だと思うような環境でも、整備されていない環境でも、立っていられる。
 こうあるべき、こうありたい、というロールモデルを持つ人間は強いのだ。
 
 
 
 

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