稀にサイレンが聞こえたりする。

稀にサイレンが聞こえたりする。

 締め切ったカーテンの片側を少しだけ中央に寄せる。するりと元に戻ろうとするのでインスタントコーヒーが入ったマグカップをその上に置く。
 カーテンと同じくらい窓を開ける。遠くの雨音まで聞こえてくる夜だ。この風は、雨を雪に変えるだろう。そんな予感である。
 静かの前兆でミカンを食べた。ほどよく熟れている。分厚い皮と果実の隙間が絶妙だ。こんな時間でも、薬を飲むために、私は何か、胃の中に物を入れる必要があった。深夜4時30分...もう朝食と言っていい時間なのではないか。薬の効果を感じられるまで、私はこの文章を書いていようと思う。
 ミカンとチョコレートの相性は良い。柑橘系チョコレートがいつでもコンビニの棚に並んでいるほどである。チョコレートとコーヒーの相性は良い。そのどちらをも苦手とする人間だろうと言わずもがな。私が今考えていることはコーヒーとミカンの相性だ。ミカンとチョコレートとコーヒーの三角関係だ。
 私はここで、食パンを焼くべきだと思った。ママレードジャム。朝食の時間だ。もちろんコーヒーは必須。さっきのマグカップをそのまま使ってもいいのだが、わざわざお気に入りのカップとソーサーを準備する。お湯を注いで十分に温めておく。最近手に入れた最高級のコーヒー豆。こいつは物凄い香りを放つ。袋から出した時も、マシーンで削っている時も、お湯で膨らんでいる時も、それからずっと、部屋はコーヒーの香りでいっぱいになっているはずだ。
 今日の外の風は冷たすぎた。脳の興奮は鎮まり、体温も正常に思える。強い眠気がしきりにまぶたを落とそうとする。日の出まで、まだ少しだけ時間がある。それまでの夢の中では...何時に寝て、そして何時に起きたのかわからない。ただ、再びカーテンと窓を開けてみると、梅の花の香りが漂っていた。
 雪の中を舞う、芳醇な踊り子が去来して、私は寒さに震えながらゆっくりと戸を閉めた。屋根から滑り落ちた積雪がガサガサと音を立てた。昼間はまだ静かであった。

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