見出し画像

お前もオタクなら「概念万年筆」を持て! 〜既製品で選ぶ概念万年筆のススメ〜


はじめに、「概念」とは

 お世話になっております、あなたの四葉静流です。

 突然ですが、あなたは「概念」というものを知っておりますか?

 もちろん、私が尋ねているのは、『物事の「何たるか」という部分のことである。具体的には、「抽象的かつ普遍的なものとして捉えられた、そのものが示す性質」、「対象を総括して概括した内容」、あるいは、「物事についての大まかな知識や理解」などのことである』(Weblio辞書より引用)という、「概念という言葉の本来の意味」ではありません。

 サブカルチャー、いわゆる「オタク趣味」において、自分が好きな人物・団体・キャラクター・作品など(いわゆる「推し」)を象徴する色・要素などを、ファッションや手持ちのアイテムに落とし込む行為を指します。例えば、Aさんの推し国家がフランスであった場合、着こなしのコーディネートにトリコロール要素を加えたならば「概念コーデ」となり、Bさんの推し果物がリンゴであった場合、ネイルのカラーを赤や緑にすれば「概念ネイル」になります。

「概念香水」、「概念ダイス」、「概念手帳」。
推しの数だけ「概念」があり、オタクの数だけ狂喜がある。

 「概念」という楽しみ方は、元々は「推し活をする女性の間で始まった楽しみ方」と記憶しています。女性ファッションの幅は広いですから、そういったものを行える土壌が、「概念」というものが広がり始める前から既に形成されていたと感じます。

 個人的には、近年における「オタク趣味の多様化」も後押ししたと考えています。「ファン向けグッズが出るようなコンテンツじゃないけど、それを擬似的に楽しみたい」という、いわゆる「マイナージャンル・マイナー作品」を推しているファンの思いですね。コンスタントにファン向けグッズが出るコンテンツでも、「ファン向けグッズは個人的な好み・考え方とちょっと違うから、自分なりに推しを表現したい」「仕事のような公私の『公』の場面でも、推しを感じられるものを選びたい」「周囲の人間関係にオタクってバレたくないけど、推しを感じられるものが欲しい」という気持ちを抱く方も存在すると存じます。おい、そこ。「オタクのワガママ」とか言うな。こっちは真剣なんだよ。


「概念万年筆」の一番星、「アンコーラ」

 ここから本題の「概念万年筆」の話に入っていきます。概念万年筆も概念コーデや概念ネイルと同じく、「ボディーカラーやペン先などの仕様を、『推し』に見立てる」という事です。

 この狂気お戯れは私一人が考案し実践しているものではなく、私が始めるより以前から多くの「『推し』を持つオタク」の間で親しまれています。

 概念万年筆として特に親しまれているのが、日本三大万年筆メーカーの一つである「セーラー」と、その親会社である大手文具メーカー「プラス」が展開する、カスタマイズ万年筆ショップである「アンコーラ」です。アンコーラの「My万年筆」は、ペン先とトリム(キャップリングやクリップなどの金属部分)を2種類のカラーから選び、さらに胴軸・首軸・尾栓・キャップ・天冠の樹脂部分は10種類のカラーから選択して、1本の万年筆として仕上げる有料サービスです。

 これを簡単に表現すると、「20万種類の万年筆から、自分好みを1本を買える」という事です。しかもその万年筆を構成するパーツは、廉価帯品ベースとはいえ、世界的に高い評価を得ている高品質のセーラー製です。このサービスはアンコーラの銀座本店でしか取り扱いがありませんが、実店舗に赴いて5000円札を出せば、20万種類の中から選んだ万年筆1本と幾らかのお釣りが返ってきます。これ書いていて改めて思ったけど、良い意味で正気とは思えんサービスだなオイ。

 アンコーラ側も「自身が概念万年筆選びとして人気がある」と認識しているようで、SNSなどで「概念万年筆選び」を匂わせる投稿をしていたり、実店舗では色とりどりのインク瓶を背景にして仕上がった万年筆を撮影できるスペースがあります。ご当地インクといい、セーラーはこういう類の商売マジ上手だよなあ。

 いや、皮肉じゃなくて本当に褒めているんですよ。同じく国産万年筆の雄であるパイロットやプラチナと比べると、カラバリの豊富さはセーラーが段違いです。それはユーザー側にとって、「選択肢が多い」という嬉しい事実です。

 私はX(Twitter)で定期的に「概念万年筆」でワード検索を行なっていますが、それでヒットする画像の7〜8割ほどがアンコーラのMy万年筆ですね。「アンコーラで始めて万年筆を購入した」という声も少なくありません。ひとりの万年筆ファンとして、純粋に万年筆ユーザーが増える事に喜びを覚えます。

今更になって、カラサヴァがチャージ時に歴代カラサワと酷似した形状になる事を知る。
だって重いしEN負荷高すぎるしで乗せられるアセン限られるもん。

 しかし、結論から先に書くと、私は私の推しに対する概念万年筆選びとしてアンコーラを訪れた経験はありませんし、この先もその予定はないでしょう。アンコーラのMy万年筆自体は素晴らしいサービスだと感じますが、概念万年筆選びを始めるにあたって私が自身に課したルールは、「既製品の万年筆から選ぶ」というものです。


カスタマイズ系万年筆じゃ満足できないと考えた私(筆者)の、「既製品縛り概念万年筆選び」

 まず、「なぜアンコーラのようなカスタマイズ系万年筆を避けたのか」、そこから説明していきたいと思います。

カスタマイズ系万年筆を避けた理由①、「カスタマイズ系万年筆における『多様性』という選択肢の少なさ」

 まず一つ目の理由、それは「カスタマイズ万年筆における選択肢の少なさ」です。

 「え? アンコーラって組み合わせが20万通りあるんでしょ? それに加えて、吸入させるインクまで選択肢にしたら天文学的な数字になるじゃん? インクだって混色可能なものがあるし」って瞬時に考えたあなた。あなたは正解です。全くもってその通りです。しかし、私の思考過程とその結論とは異なります。

 ここからは具体的に「私(筆者)の推し」を例に挙げて、その理由を述べていきます。私の推しは長年に渡って超人気コンテンツの地位に君臨する「ポケットモンスター」シリーズに登場する、「ドラゴンタイプのポケモン」です。そうです。今では一種の神話として扱われるポケットモンスター赤・緑で登場したカイリューや、かつては「ポケモン対戦における不動のトップ」と呼ばれたガブリアス、最新作であるポケットモンスタースカーレット・バイオレットに登場したセグレイブなどです。

一般ドラゴントレーナー以下のボックス風景。マジで上には上の怪物がいる。

 ポケモンシリーズには様々なドラゴンポケモンが存在します。少しだけ例を挙げると、「並み以下の耐久力しか持たないポケモンなら一撃で粉砕できるほどの過剰な攻撃力を振り回すドラゴン」「できる事の幅が広いがゆえに対戦相手に対して迷いや誤認を生ませやすい多芸なドラゴン」「対戦ゲームとしてのキャラクター性能以前に、ただ単純にメッチャ可愛いドラゴン」、etc。ポケモンというコンテンツの中に、そんな多種多様な奴らがギュウギュウにひしめき合っています。「多様性」は、ポケモンのメインテーマの一つです。

 私は、「概念万年筆1本につきそれぞれ異なるメーカー・ブランドにして、推したちの多様性を表現したい」と考えました。

 たしかに、アンコーラが提供する20万もの選択肢は非常に魅力的です。しかし、その20万種類全ての万年筆は「アンコーラというD2Cブランドのリアルショップ」「セーラー製のパーツで構成された、実質的にセーラー製の万年筆」です。先述の通り、ドラゴンポケモンには様々な見た目や強さ、魅力を持ったキャラクターばかりです。その推したちを、カラバリは豊富とはいえ画一的な見た目と性能で統一された万年筆で表現するのは、個人的に「違う」という考えに至りました。

 この考えはアンコーラに限らず、同じくセーラーそのものが手がけるカスタマイズサービスである「ビスポーク」、プラチナの子会社であるカスタマイズ万年筆メーカーの「中屋万年筆」なども同様です。それはどこまで行っても「セーラーの万年筆」であり、「中屋の万年筆」です。(私の常時氷河期な懐事情は抜きにしても)それら一つで統一する事を私は避けました。


カスタマイズ系万年筆を避けた理由②、「定番品をベースとした限定品の存在」

 二つ目の理由に移っていきます。それは「各メーカー・ブランドが発売する既製品をベースにした限定品には、限定品ならではの加工や仕様が施される」という事です。

 またもやアンコーラを例に挙げますが、先述の通りアンコーラのMy万年筆は、セーラーの廉価帯万年筆をベースとしてパーツ単位でカラーバリエーションを増やしたものです。つまり、パーツを組み合わせて仕上げられた万年筆は、形状自体は全て同一であり、廉価帯万年筆の色違いです。これについても、私は「やっぱ違うな」と考えました。

 万年筆を製造する各メーカー・ブランドは、年に何度か数百・数千本単位の限定品を発売します。それもカスタマイズ系万年筆と同じく定番品をベースとしていますが、往々にして限定品には、それにしかない加工や仕様が加えられています。

 例えば、私が初めて概念万年筆と見立てて購入した「ペリカン・スーベレーンM800 ストーンガーデン」には、先述の通り限定品ならではのボディーカラーを与えられました。定番品のスーベレーンにおける胴軸はストライプ模様ですが、ストーンガーデンは石庭を彷彿とさせる大理石を模した青と茶色の樹脂でできています。また、定番品スーベレーンは首軸・尻軸・キャップの色は黒ですが、ストーンガーデンではネイビーが用いられています。

 もう一つ例を挙げましょう。次は私が2本目の概念万年筆として選んだ、「プラチナ・#3776センチュリー 富士旬景 紫雲」です。この万年筆もベースは定番品の#3776センチュリーですが、胴軸とキャップには富士山の周囲に浮かぶ慶雲をモチーフとして、幾何学模様に似たカット加工が施されています。このカットパターンもまた、紫雲にしか施されなかったものです。

 このように、各社・各ブランドの限定品は、定番品やそのカラーバリエーションとは一線を画するものが与えられます。このような品々は、「(ドラゴンポケモンの)多様性」という「解釈」を大切にしたい私の考えに合致していました。

オタク用語における「解釈」とは、「キャラクターやストーリー、作品そのものに対する、個人的な考え方・捉え方・価値観」などを意味する言葉です。分かりやすく例えると、ミュージシャンにおける「音楽性」のようなものです。

 加えて、こういった限定品のベースとなるのは定番品におけるフラグシップモデルかそれ以上の上位モデルが多く、定番品と同じくゴールド製ペン先が搭載されます。このゴールド製ペン先もまた、作中キャラクターが発した「竜は頂きこそふさわしい!」というセリフに対する私個人の解釈にもマッチしています。

ハッサク先生のありがたいお言葉。


カスタマイズ系万年筆を避けた理由③、「カスタマイズ系万年筆には名前がない」

 「その製品の名前」とは、概念万年筆選びの基準となる解釈と照らし合わせる上で、とても重要な要素だと個人的には考えています。しかし、定番品や限定品と異なり、基本的にカスタマイズ系万年筆にはペットネーム(型番と異なる、個別の製品モデルを指す名称)が存在していないんですよ。

 先述のアンコーラのMy万年筆で仕上がった万年筆は、「My万年筆でカスタマイズして作った万年筆」です。それは先ほど挙げた「ビスポーク」も同様であり、「製品として個別に当てられた名前」が存在しません。

 あくまで私の考えですが、私は「名前がないもの」で解釈できません。名前もまた、概念万年筆選びにおいて重要な要素と考えています。ストーンガーデンや紫雲を推しドラゴンポケモンたちに見立てた時も、その名前と推しの特徴に関連性を見出してたゆえにそれらを選びました。

 余談ですが、同様の理由でセーラーの「インク工房」(イベントで行うインク混色ではなく既製品)にも、個人的にはあまり興味を惹かれません。「SHIKIORI」シリーズなどには立派なペットネームがあるのに、なんでインク工房は数字なんだ……。

この人は数字ネームでも愛着が湧くタイプ。

 以上の、大別すると3つの「カスタマイズ系万年筆を避けた理由」が、そのまま「既製品縛り概念万年筆選びを始めた理由」です。


実際に私(筆者)の「概念万年筆選び」を見ていこう

 では、ここからは、「実際に私(筆者)がどのように既製品縛りで概念万年筆を選んだのか」、それを皆さんと振り返っていきたいと思います。準備はいいな? 振り落とされるなよ!

①「パーカー・デュオフォールド デュオフォールド製造100周年記念 ブラック」を概念万年筆として選んだ例

 最初の例として、「パーカー・デュオフォールド デュオフォールド製造100周年記念 ブラック」を概念万年筆として選んだ際の思考過程を見ていきましょう。

 このペンを概念万年筆として見立てるにあたって、取り上げたのはこのドラゴンポケモン、「ポケットモンスターソード・シールド」で初登場したとってもキュートなドラゴンである、(色違い)パッチラゴンちゃんです!

 え? 「ドラゴンというより、鳥と恐竜のキ◯ラじゃん……」? まあ、言いたい事は分かる。そこも含めて、しっかり解説していきますよ。まずはパッチラゴンの基本的な作中設定や特徴から始めていきましょう。

 ポケモンには、ゲーム作中でアイテムとして入手する化石から復元する、通称「化石ポケモン」が存在します。有名なところだと、ポケットモンスター赤・緑で登場したオムナイト(→オムスター)・カブト(→カブトプス)・プテラですね。

オムナイト・オムスター・カブト・カブトプス・プテラ

 通常の化石ポケモンは、1種類の化石から1種類のポケモンができます。しかし、ポケットモンスターソード・シールドでは、これまでとは異なるシステムが採用されました。作中で4種類登場する内の2種類の化石を選び、その化石の特徴を持った1体の化石ポケモンを入手できるというものです。

 先に挙げたパッチラゴンは、「カセキのトリ」と「カセキのリュウ」から復元できるポケモンです。これが「カセキのサカナ」と「カセキのリュウ」の組み合わせだと、魚のような顔と恐竜のような体を持つ「ウオノラゴン」が復元されます。「カセキのトリ」と「カセキのクビナガ」ならば「パッチルドン」「カセキのサカナ」と「カセキのクビナガ」ならば「ウオチルドン」です。

ウオノラゴン・パッチルドン・ウオチルドン

 ソード・シールドにおいて、このような復元システムが採用されたのは、そのモチーフが「化石の誤認や判別間違え」に由来するものと推察されます。実際の化石研究の現場においては、そのような場面が多々存在するようです。有名なところだと、「ハルキゲニアの復元図が実際の生態様式と上下前後逆だった」や、「アノマロカリスの触覚が発見当初はエビのような生物の胴体であると判別されていた」ですね。
 ソード・シールド作中においては、この4種のポケモンが手違いによるチグハグな復元とは明言されていません。その為、このポケモンたちをキ◯ラ扱いするのは賛否両論がある事を、ここに明記しておきます。

 先述の通り、概念万年筆のモチーフにしたパッチラゴンは、通常の体色とは異なる、いわゆる「色違い」です。ソード・シールドにおける化石ポケモンの色違い入手率はとても低く、何日もかけて入手達成を粘りました。その後の対戦で大いに活躍してくれたことも含めて、私が育てたパッチラゴンの中で特に思い入れの強い個体です。ゆえに、概念万年筆のモチーフとして選びました。ニックネームの「アンライセン」は「バイオリンなどの楽器の弦を弾く奏法」の名称であり、あなたも聞き馴染みがあるはずの「ピチカート」とほぼ同義です。名前に「ライ」が入っているのが、電気タイプでもあるパッチラゴンにピッタリじゃない?

 パッチラゴン、延いてはソード・シールドの化石ポケモンたちの基本的な作中設定・特徴を、これをお読みくださっているあなたに理解して頂けたと思います。ですから、次は「パッチラゴンの概念万年筆として、なぜ『100周年記念モデルデュオフォールド』を選んだのか」を記していきます。

 当初、概念万年筆として解釈を深めようとしていたのは、「モンブラン」の「音楽家シリーズ」です。理由としては、先ほど書いたようにアンライセンの名が音楽用語に由来する事からですね。しかし、音楽家シリーズのボディーカラーが、モノクロに近い色パッチラゴンの体色とかけ離れていた為、早々にこのルートは破棄。

 あくまで私個人の考えですが、「こりゃ無理があるな」と感じたら、熟考せずに「次行ってみよう」と頭を切り替えるのがベターかと。もしくは、推しの解釈に合わせられる製品が出るまで、気持ちと懐を蓄えておくのもアリですね。オタクはお金こそ資本ですよ。なんか「力こそパワー」みてえなワードだな。

 次に目星をつけたのが、「パーカー・デュオフォールド パール&ブラック」「セーラー・ルミナスシャドー フォググレー」「ペリカン・スーベレーンM815 メタルストライプ」あたりですね。先ほど挙げた音楽家シリーズよりは、色パッチラゴンの雰囲気に近いボディーカラーをしています。

 しかし、この時の私の本音は「もう一声、概念万年筆として解釈を重ねられる要素が欲しい」でした。そのようなモヤモヤを抱えたままネット検索を続けていると、ふと目に入ってきたのが、「パーカー・デュオフォールド デュオフォールド製造100周年記念 ブラック」でした。

 お気づきだろうか? 最初に検索をかけたモンブラン・音楽家シリーズの時点で、筆者の頭の中からは「予算」という概念が消えかけていたのである。

 「100周年記念 ブラック」はその名の通り、イギリスの筆記具ブランド「パーカー」が生み出した傑作万年筆かつ超ロングセラーモデルである「デュオフォールド」製造100周年を記念して発売された限定品です。この縞模様に似たボディーの配色は、「拡散接合」と呼ばれる、接着剤などの化学薬品を使用せずにパーツを接合させる技術が用いられています。それは、2種類の化石の特徴を持ち合わせるパッチラゴンへの解釈に最適と考えました。

 また、デュオフォールドはモデルのシンボルとして、ペン先や天冠(キャップ最上部)にはスペードのエースのマークが施されています。これもまた、ポケモン対戦においてフィニッシャー(バトル中盤以降において、速やかにゲームを終わらせる役目を引き受けるポケモン。いわゆる「エース」)に据えられる事が多い、絶大な攻撃力を持つパッチラゴンに相応しいと考えました。パーカー製のペンである事を示す矢羽型のクリップも、鳥の上半身を持つパッチラゴンの特徴と合致しています。

 以上の理由から、私は「100周年記念 ブラック」を、パッチラゴンへの概念万年筆として実際に購入しました。ちなみに、この万年筆に吸入させる為のインクは、化石の一種である琥珀の色を模した、「ジャック・エルバン」の「エッセンシャルインク バルト海のアンバー」です。

 これで私の「既製品縛り概念万年筆選び」の基本的な考え方が分かって頂けましたか? それでは、次の例を見てきましょう。

 え? 「お腹いっぱい」? いやいやまだまだ詰め込められるでしょ?


②「ツイスビー・ダイヤモンド580AL 三越伊勢丹限定 イセタンブルー」を概念万年筆として選んだ例(予算上限2万円以内で選んだケース)

 最初に、上記の例を読み終えた時のあなたが抱いた気持ちをズバリ当ててみましょう。「いや、デュオフォールドみたいな高ぇ万年筆なんて買ってられねえよ」でしょ? 当たってるでしょ?

 という事で2つ目の例は、万年筆の中で中価格帯であるものを取り上げます。先に値段を書きますね。「100周年記念 ブラック」が実売価格82,500円だったのに対して、これから紹介する万年筆は税込定価13,200円です。

 個人的に「2万円」という金額が、既製品の中から概念万年筆を選ぶ際の、一つのラインかと存じます。この予算ならば、「ゴールド製ペン先国産万年筆エントリーモデル」や、「海外中堅メーカー・ブランドのスチール製ペン先フラグシップモデル」、もしくは「海外一流メーカー・ブランド製万年筆のスチール製ペン先のエントリーモデル」に手が届くでしょう。あるいはボールペンで選ぶならば、「一部の海外製中価格帯限定モデル」にまで選択肢が広がるはずです。
 そして、この金額なら、高校生の金銭事情でもギリギリ工面できる範囲内だと考えます。私は自分の意思で海外製フラグシップモデルベースの限定品に手を出していますが、人様に「概念万年筆が欲しいなら、とりあえず10万は握ってきなよ」と語るのは横暴そのものでしょう。そのような意味で、実際に2万円以下の万年筆を選んだ経緯を例に挙げます。

 つまり、何が言いたいのか、結論を先に提示しますね。「ン万円もする一流メーカー・ブランドのフラグシップモデルベースの限定品でなくても、『既製品縛り概念万年筆選び』は成立する」という事です。それでは、本格的に例を挙げていきますね。

 まず最初に、私の推しを紹介します。同じくポケモンからですが、彼はドラゴンポケモンではありません。「ポケットモンスタースカーレット・バイオレット」で初登場した彼は、孔雀とサンバダンサーをモチーフにしたポケモン、ウェーニバルです。

 彼はスカーレット・バイオレットにおいて、最初に選べる三匹のうちの一匹の最終進化、いわゆる「御三家ポケモン」に属しています。私に限らず、スカーレット・バイオレットにおいてウェーニバルと共に旅をしたトレーナーは多いでしょう。

 対戦ゲームキャラクターとしてのウェーニバルはその見た目通り、高い攻撃力が自慢な水・格闘タイプのポケモンです。専用技の「アクアステップ」により、攻撃を行いながら自身の素早さを高める事ができます。また、特性「じしんかじょう」により、相手ポケモンを倒すごとに攻撃力も上昇します。彼もまた、フィニッシャー向きのキャラクター性能と言えるでしょう。端的に表現するならば、「明確に止められる手段を持たない相手には無双できるポケモン」です。

 え? 「あれだけ熱意たっぷりに語ってたのに、ドラゴンポケモンじゃないじゃん」? うん、それは認める。たしかに、ウェーニバルはドラゴンポケモンではありません。しかし、私にとっては、彼もまた「大切な推しのひとり」です。

 私にとってドラゴンポケモンたちは、大谷翔平氏やマイケル・ジョーダン氏のような、スーパースターに近い存在です。言い換えると、一種の「高嶺の花」であり、「試練」であり、「称号」です。ウェーニバルはそれよりも世俗的な、例えるならば、仮に実在するなら人生のパートナーに彼を選びたいと望むタイプの推しです。ウェーニバルの性別は雌雄どちらも存在しますが、私が「彼」と表記したのは、私個人のセクシャリティを踏まえての事です。ああ、彼に思いっきり抱きしめられたい。それから、アンナコトやコンナコトも……。

 ……このままでは異種性愛者の性癖博覧会になってしまうので、本題に戻りますねっ。生物ヒエラルキーの頂点に君臨するドラゴンポケモンに対する概念万年筆は、「やっぱ金ペンじゃないとカッコがつかんよなあ」という解釈によりゴールド製ペン先万年筆で選んでいます。しかし、ウェーニバルに対しては、「私に寄り添ってくれる」、「ヒエラルキーの頂点に立たずとも示せる強さ」という解釈のもと、予算上限2万円の範囲で選ぶ事にしました。

 最初に目星をつけたのは、「カヴェコ・ALスポーツ」や「ペリカン・M200系」などのエントリー帯〜中価格帯のスチール製ペン先万年筆でした。しかし、このクラスのペンでは、「格闘タイプであるウェーニバルの体格の良さ」や「ウェーニバルが持ち合わせる、特有の華やかさ」を表現できないと感じ、一旦白紙に戻します。

 次にネット検索をかけたのは、「海外中堅メーカー・ブランドのフラグシップ万年筆」でした。一流万年筆メーカーのフラグシップ、延いては万年筆そのものの代名詞とも言える「ペリカン・スーベレーンM800」や「モンブラン・マイスターシュテュック149」は、あなたもご存知であるように数万〜十数万もの値が張る高級モデルです。しかし、世界には多くのメーカー・ブランドが存在し、特に中堅クラス各社のフラグシップモデルは、価格そのものを抑えつつもラグジュアリーを決して忘れないモデルが多く見受けられます。その中で私の目に留まったのが、台湾の筆記具ブランドである「ツイスビー」の「ダイヤモンド580AL」でした。

 「ダイヤモンド580」シリーズはツイスビーのフラグシップモデルであり、(一説によると名筆として謳われる「ペリカン・M800」を意識しつつ、ツイスビー独自の考えも盛り込んだ、)同ブランドの中で最も大きなボディーを持つピストン吸入万年筆です。「580AL」の「AL」はアルミニウムの略であり、その名の通り首軸やピストン機構にアルミ製パーツがあしらわれています。それは「ダイヤモンド」の名の由来である胴軸の多面カットと共に、「ツイスビーが誇る加工技術の高さ」をユーザーに見せつけています。

ツイスビー・ダイヤモンド580ALR「プルシアン・ブルー」

 この時点で、私は「ダイヤモンド580AL」シリーズの中から概念万年筆を選ぶ事を、ほぼ確定させていました。それは「前々から興味あったけどツイスビー握った事なかったなあ」という私個人の事情も含まれていますが、大部分は「噂に聞くツイスビーの品質なら、ウェーニバルの概念万年筆として遜色ない書き味だよね」という考えのもとです。

 「ダイヤモンド」シリーズはカラーバリエーションが多く、青系だけでも何種類か存在します。その中で私から見てウェーニバルの体色に最も近いと感じたのが、伊勢丹新宿店と三越伊勢丹オンラインショップで購入可能な限定モデルである「イセタンブルー」でした。

 「ポケットモンスタースカーレット・バイオレット」では「宝探し」や「(各人にとっての)宝物」がメインテーマの一つです。それはポケモンバトルにおける新要素である、ポケモンが宝石のような煌びやかな姿に変貌する「テラスタル」にも反映されています。

 「ダイヤモンド」の胴軸に施された多面カットは、その「テラスタル」を彷彿とさせる高級感に満ちています。また、無色透明のキャップ・胴軸・尻軸も含めて、バトル時は水を空中に固定させて大きな尾羽を形作る水タイプポケモンであるウェーニバルの雅さにも合致していると言えるでしょう。言えるっつってんだろ。概念万年筆は基本的に個人の勝手なこじつけだ。だったら楽しくやったもん勝ちだろ?

 また、先に挙げたデュオフォールドの例では、インクはぶっちゃけ若干消去法じみた選択でしたが、この予算ではペンそのものに重ねられる解釈が必然的に少なくなるので、「ダイヤモンド」では吸入するインクもしっかり選んでいきます。その考えのもと、この「ウェーニバルに対する概念万年筆」に吸入させたのは、「プラチナ・ミクサブルインク フレイムレッド」です。

 え? 「水タイプポケモンの概念万年筆なのに、なんで赤系インクなの」? もちろんその理由も解説していきますよ。赤系インクである「フレイムレッド」を選んだ一つ目の理由は、それで「ウェーニバルという種族が持ち合わせる情熱さ」を表現したかったからです。それは彼の十八番であるダンスに対してもそうですし、「彼の私に対する気持ち」も同様です。

 自分で書いていて小っ恥ずかしいな。まあ、オタクなんて突っ走ってナンボである。

 二つ目の理由は、まだ実行してはいませんが、理由だけは明確に存在します。それは「『ミクサブルインク』は(同シリーズ内で)混色可能なインクである」という点です。先述した「テラスタル」は、「バトル時にポケモンのタイプを一時的に変更する」というゲームシステムを実装する為に生まれた要素です。つまり、「テラスタル」はポケモンの全タイプの数、18種類(今冬配信予定のDLC第2弾で更にもう1種類のテラスタルが実装予定)存在します。もうお分かりですね? そうです、「ウェーニバルの概念万年筆に吸わせたインク」は、その気になれば何色にでも容易に変更可能です。仮に混色インクを作成したら、「ミクサブルインクで作った名前のないインク」になってしまいますが、「彼が私の為に『お色直し』してくれる」と考えたら、そう悪い話ではないでしょう。さっきから赤面待ったなしの事しか書いてねえな私。


結びに、「オタクよ、万年筆を握れ」

 ここまで、「概念」の概要とカスタマイズ系万年筆の存在、そして私の概念万年筆選びの実例を長々と綴りました。最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。そして、本当にお疲れ様です。

 結論を申し上げると、概念万年筆のような概念アイテムは「オタクの自己満足」です。しかし、自己満足であるからこそ不正解はありませんし、煩わしい作法も存在しません。あなたが「万年筆を使ってみたいなあ」や「新しい万年筆が欲しいけど、どんなペンを買おうかなあ」と悩む時に、この記事によってその気持ちや選択肢に「彩り」のようなものを添えられる事ができるなら、物書きとして冥利に尽きます。

 良い意味で、万年筆はただの道具です。使ってみましょう。もっと使ってみましょう。そして、オタクらしく爆走しましょう。

 ただ、一点注意が。あなたが「ローン組んでモンテグラッパの万年筆を◯◯万円で買っちゃった♡ 支払いマジヤバい♡」とか言って咽び泣いても、私は一切責任も支払いも負いません。オタクなら自分のケツは自分で拭け!

 今後も、無責任で万年筆バカで推し狂いの私をどうかご贔屓に。