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【映画】ストップモーションアニメ『マルセル 靴をはいた小さな貝』はシンプルでコミカルで面白い!

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7年もの歳月を掛けて制作されたストップモーションアニメ『マルセル 靴をはいた小さな貝』は、奇妙さと切なさが同居する素敵な物語だった

とても面白い作品でした。正直、あまり期待していなかったこともあって、メチャクチャ良かったと言っていいくらいです。観ようと思っていた日がファーストデイだったのもとても良かったという感じがします。ファーストデイじゃなかったら、もしかしたら観ていなかったかもしれません。危ない危ない。

本作はストップモーションアニメであり、人形を少しずつ動かしながら撮った写真を繋ぎ合わせて作られた作品です。ただ、一般的にイメージするストップモーションアニメとは少し違うかもしれません。何故なら、フェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)のような体裁を取っているからです。主人公は「マルセル」という名のちょっと変わった「貝」なのですが、作中には「人間」も登場します。そして、人間とマルセルが関わる形で物語が進んでいくのです。

少し想像してみるだけで、「人間が普通に生きている世界を舞台にストップモーションアニメを撮影する」ことの難しさが理解できるのではないかと思います。この映画がどのように撮影されたのかは知りませんが、もし人間とマルセルを同時に撮っているとすれば、人間の側も止まっていなければならないはずです。まあ実際にはそんなことは無理だと思うので、「マルセルの撮影」と「人間の撮影」を別で行ってCGで合成しているのだと思いますが、そうだとしてもかなりの作業量でしょう。

元々はYouTubeにアップされた短編作品だったそうですが、それが話題となり劇場版の制作が決まったのだそうです。最終的には7年も掛かったというのだから、相当な労作だと言えるでしょう。

まずは内容紹介から

マルセルは、人間の一軒家に祖母のコニーと2人で暮らしている。マルセルとコニーの生態に関する情報はあまりないが、「体長2.5センチで人間と同じ言葉を喋る、靴を履いた貝」という感じだ。当然、体長2.5センチの身体で人間の一軒家に住むのは、なかなか苦労が伴う。

その家には、かつてカップルが住んでいた。しかし住んでいた男女がある日突然いなくなってからは空き家になっている。そして、マルセルがこの事実を理解しているのかは分からないが、現在はAirbnbを通じて貸し出されている物件であり、そんな家にやってきたのが映像作家のディーンというわけだ。ディーンとマルセルの間にどんなやり取りがあったのか分からないが、ともかくマルセルは、ディーンが撮るドキュメンタリー映画の主人公になることに決めたのである。

つまり、「一軒家に住むマルセルとコニーの生活をディーンが撮影したドキュメンタリー映画」という体で、映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』は作られているというわけだ。

しかしそもそも、何故この広い家にマルセルとコニーだけが住んでいるのだろうか? 実を言えば、昔はもっと大勢の仲間と一緒に暮らしていた。しかしカップルがいなくなったまさにその夜、マルセルの両親を含む他の仲間も忽然と姿を消してしまったのである。彼らには毎週、『60ミニッツ』というテレビ番組を観る習慣があったのだが、まさにその放送日だった夜、テレビの前に集まったのはマルセルとコニーだけだったのだ。

それ以来、マルセルとコニーはたった2人だけで工夫しながら生活をしている。

ディーンは時々、撮り溜めた映像を編集してYouTubeにアップしていた。するとなんと、その内の1本がバズりにバズったのだ。マルセルは一躍、全米中の注目を集める人気者となった。しかし……。

2人が工夫して日常生活の「障害」を乗り越えていく姿がとても良い

「ストップモーションである」という点に注目が集まりがちな作品でしょうが、まず何よりもストーリーがとても良い作品だと思います。

マルセルとコニーは、ある日突然「2人暮らし」を始めることになってしまいました。彼らには人間と同じような時間感覚はなさそうですが、ディーンと出会った時点で、仲間がいなくなってから2年ほど経過していたことになります。その状態はもちろん「寂しさ」も引き起こすわけですが、それ以上に、生活における実際上の問題が出てくるという点が大変でした。

恐らく、「もっと大人数で暮らしていた頃には難しくなかっただろう様々な行動」に、困難が生じているのだと思います。しかしそれでも、なんとか生きていかないといけないので、彼らはどうにか工夫するわけです。「ディーンはマルセルたちの普段の生活をそのまま撮っている」という設定なので、映画ではそういう「生活の工夫」が様々に映し出されるわけですが、「なるほどなぁ」と感じるものが結構出てきました。一番感心したのは、「庭木に生っている果物を落とす方法」です。まあそもそも、「どうやってそこにロープを張ったわけ?」みたいな疑問は出てくるわけですが、その辺りのことはほどよく無視して楽しむのがいいんじゃないかと思います。

またそもそも、住んでいたカップルが家を出ていってしまったことも大きな問題と言えるでしょう。何故なら、食料が手に入らないからです。それまでは、人間の食料をほどよくくすねて生きてきたわけですが、住人がいなくなればそういうことも出来なくなります。そこで彼らは、家にあった本を読んで知識を得、独学で耕作を始め、食べられるものを自分たちで作ることにするのです。

ディーンがこの家にやってきた時点で、家の中は彼らの様々な「工夫」で溢れていました。そして、彼らのそんな工夫に満ちた生活を覗き見するような感じがとても楽しい作品なのです。ディーンは、ドキュメンタリー映画を撮っている(という設定である)こともあり、マルセルたちの日常生活に出来るだけ介入しないというスタンスを取っています。そんなわけで、体長2.5センチながら人間用の住居で日々奮闘しつつ生活をしている2人の姿がとても素敵に映るというわけです。

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