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【書評】 宇津木健太郎「猫と罰」

「猫と罰」の宇津木健太郎さんは、「第2回最恐小説大賞」受賞のホラー小説「森が呼ぶ」でデビューした人です。
私(海藤文字)と同じ賞の先輩なので、勝手に親しみを感じている作家さんです。

賞を一つとるだけでもすごいのに、更に今回、「猫と罰」日本ファンタジーノベル大賞を受賞されました。
新人賞を2回受賞! す、すごい。
それだけに、「創作」への思いは並々ならぬものがある人なのだと思います。


「猫と罰」新潮社

「森が呼ぶ」は最恐にふさわしい、おぞましいホラーでしたが、「猫と罰」は全然ホラーじゃないのでご心配なく。猫と本にまつわるファンタジー。表紙も平和なムードです。
主人公は、九つ目の命を生きる黒猫。
八回の生の中でいろいろと酷い目にあって、人間への信頼を失ってしまっています。
そんな黒猫が、野良猫たちが集まる古書店にやって来ます。そこは、猫と話ができる“魔女”が営む古書店でした。
個性的な仲間の猫たちや、本を愛する少女との出会いを通じて、黒猫は少しずつ心を開いていきます…。

…という、ツンデレな猫に萌える心温まるストーリーを基本としつつ、でもそれだけでは終わらない。
そこは、ホラー小説で鍛えた手腕はダテじゃない…というか。
意外にシビアな、暗い現実を反映した物語になっていきます。

ただほのぼのしてるだけではない、ままならない現実のしんどさを描いていく物語のトーンは、僕は往年の良質な児童文学を連想したりもしました。
ファンタジーでありつつ、とても真摯に現実に立ち向かう物語。

そして、全体を貫く軸になっているのは、「創作」に対する強い思いです。
とにかく、創作がしたい。止められても禁じられても、創作せずにはいられない。
いやだって、楽しいからね創作。
創作に打ち込むことで、過酷な現実にも立ち向かうことができる。
だからこそ、それを奪われることは「罰」として、呪いとして機能する。

noteではまさしく、創作大賞もやってますからね。多くの方が、この感覚に共感するんじゃないでしょうか。
我が事のように、深く感情移入しながら読める人は多いんじゃないかと思います。創作に何かしらの「思い」のある方に、オススメの作品です。

というわけで、ぜひ注目してほしい最恐小説大賞です。
第4回最恐小説大賞受賞のホラー「悪い月が昇る」もどうぞよろしく。


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