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【小説】日本の仔:第39話

【瑞希】
 ソマチットのことを色々調べてみたけど、確固たる話はほとんどなく、細胞よりもはるかに小さな生殖する有機体で、エネルギーが具現化したものという説明があった。
 生物であり、エネルギーが具現化したものという2面性を持つということか。
 まるで光が波動と粒子の2面性を持っているのに似てるな。

 人間の体内に一定数いて、体調が悪くなると減ってしまう、逆に減ってしまうことで体調が悪くなるとも考えられる。
 それなら、逆に体内に増やせればと考えたのだが、そもそもどうやったら増えるんだ?
 僕が悪いイメージを送ることで体内から出てしまうのであれば、いいイメージを送れば体内に戻ってくるのかとも思ったが...
 生物なら何かの条件が整えば自己増殖するはずだよな。
 それでいてエネルギーでもあると。
 うーん、ソマチットと同種のエネルギーを送るとかかなぁ。

 こうして、ヒーラーとして何を鍛えればいいのか考えた挙げ句、人に対して心の中で「元気になれ!」と唱えることを繰り返してみることにした。
 富士学校の近くにある病院に通って、色々な病気の患者さんにお話をして、実験台になってもらった。

 患者さんには、
「僕、大学で『気』の研究をしていまして、『気』によって身体から病気を追い出す方法を色々試していまして」
 と、ちょっと怪しいけど、まあ特に害はないだろうと思ってもらい、患部に手を当てて「元気になれ!」と心の中で唱えさせてもらうことにした。
 中には全く相手にしてもらえない人もいたけど、大多数の人が快く患部に触らせてくれた。
 中には末期ガンの人もいて、実験台になってもらっていることに、心が申し訳ない気持ちで一杯になったけど、もしかしたらうまく効いて病気が治るのでは、と思って一生懸命に念じた。

 2週間経ったが、特に効果が出ている人は見当たらなかった。
 やはり、この方法ではうまくいかないのかと迷い始めた頃、ある夢を見た。

『王!』
「ん?誰だ?僕を王と呼ぶのは」
『私めにございます』
「私めって誰よ」
『人間がソマチットと呼ぶ生き物にございます』
「ああ、例の小さくて人間の体内にいるってやつね。そうそう、君らはどうやって殖えるのさ」
『我々は、宇宙に満ちているダークエネルギーと宿主の生物の生命エネルギーの波動が同期して、共振が発生した際に増殖することができます』
「うわ、何言ってるか全然分かんないんですけど」
『つまり、宿主が元気になると殖えるということです』
「最初からそう言ってよ。逆に君らを殖やして宿主を元気にすることはできないの?」
『王ならばできます』
「どうやって?」
『我々に王の愛情を注いでいただければ!』
「愛情?」

 というところで目が覚めた。
 何か夢を見てたな、忘れちゃダメなやつだ。
 何だっけ、例のソマチットの話だよな。
 僕がソマチットの王さまっていう設定だったような。
 彼らを殖やすにはという問いかけをしてたよな。
 愛?
 愛情を与える?
 だったよな。
 えーと、愛ってなんだっけ?
 言葉は知ってるけど、愛がどういうものかはピンと来ない。

 困り果てた僕は、寝る前の兄弟ミーティングで愛について皆に聞いてみた。
「あのー、皆、愛情って何か分かる?」
「は?何、急に、時子に告白でもする気になったの?」
 果歩がからかってくる。
「またそういうこと言って!そうじゃなくて、僕の特殊能力に関係するみたいなんだよね」

「愛情とは、何の見返りもなくそのものを慈しむ心の動き、そして行動だとお母さんに教わりました」
 お、茉莉、なかなかいいことを言う。

「大好きってことじゃないの?」
 お!武蔵が何か子どもっぽい発言。新鮮だ。

「お子さまねぇ。愛って言ったらあれでしょ。チューしたいとか、そっちの話でしょ」
 え?果歩も何か子どもっぽい発言だな。

「そう言えば、皆彼氏とか彼女とかいないの?」
「・・・」
 いないんだ。
 恋愛偏差値的には皆平均点以下みたいだな。
 一番参考になるのは茉莉の話かなぁ。
 慈しむねぇ。
 まだピンと来ないなぁ。

 次の日も患者さんに会いに病院に行ったが、果歩が様子を見たいと言って付いてきた。
 今日会った患者さんは、末期ガンでいつ亡くなってもおかしくないという患者さんで、娘さんがお見舞いに来ていた。
 肺がんが尾てい骨や脳に転移していて、ステージⅣ5ヶ月、記憶も薄れてきており、ほとんど寝ているそうだ。

 娘さんはその患者さん(母親)に寄り添って、色々な世話をしたり話をしたりして、ちょっと憂いのある優しい笑顔を向けていた。
 その時、急に娘さんの思いが僕の心のなかに流れ込んでくるのを感じた。
「お母さん、死なないで...ありがとう...愛してる」
 !!
 これが、愛情?!

「娘さん、ごめんなさい、ちょっとお母さんの患部に触らせてください。きっと今なら治せる気がするんです」
 娘さんはちょっと驚いたものの、「お願いします」と言ってくれた。
 さっきの娘さんの感情と同じ感情を患部に手を当てて想ってみる。
「ありがとう、愛してるよ」
 心の中で念じると、なぜだか目から涙が溢れてくる。
 2~3分念じさせてもらって、お礼を言って病室を後にした。

「さっきのは果歩の特殊能力?」
「多分そう。最近、他の人同士の心を繋ぐことができるようになってきたみたいなのよね」
 やっぱり。
 スゴい力だ。娘さんのお母さんを想う気持ちがすごく感じられた。
 今まで感じたことのない感情。
 これが、愛情なのだろうか?

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