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【小説】日本の仔:第63話

 いや、問題はそこじゃない、ドローン撃墜は罠だ!
「茉莉姉果歩姉、俺とシンクロして飛翔物を墜としつつ、前方へダッシュ!皆も続いてダッシュ!」
「どうしたの?」
 瑞希兄が疑問顔をしている。
「いいから早く!」
 恐らくドローン撃墜で脚を止めて、トンネルの側面からも含めて飽和攻撃が来る。

 当然前方からも来るはずだ!
「茉莉姉頼む!」
「まかしとき!」
 俺の視界を果歩姉を中継して茉莉姉に送る。
 茉莉姉の速さなら、銃弾でも斬れるはず!

 とその時、後ろから眩しい光が差し込んできた途端に、爆風で前に吹き飛ばされた。
 やっぱり罠だったか。
 吹き飛ばされてる最中、前方を注視し続けていると、微かに人影が見えた。
 この機を狙ってたな!

 直後にマズルフラッシュが見え、秒速800mの速さで弾丸が迫る。
 吹き飛ばされながら茉莉姉が反応できるか?!

【茉莉】
 突然後ろから来た爆風に飛ばされながら、武蔵の視界が見えてきたけど、私今どこ向いてんの?!
 チカっと光って、何か飛んできた!
 アレを墜とさないとまずい訳ね。
 まずいと思った瞬間、銃弾の動きと自分の動きがゆっくり感じられるようになった。
 地に足が付いてないから、うまく身体を向けられないけど、何とか鋒(きっさき)を銃弾の軌跡に合わせなきゃ!
 きゃー、身体を動かそうとしても、ゆっくりにしか動かないよー。
 間に合うかなー?
 衝撃波で周りの空気を揺らしながら、ほとんど一直線にこちらに向かってくる弾丸に、ハダ剣の刃元を当てる。
 銃弾を受ける時は、刃先を当ててしまうと、さすがに衝撃で折れちゃうかもと、師匠から注意されていた。
 ちなみにハダはハイパーダイヤモンドの略ね。ハイパーダイヤモンドって、言いにくいし長いしで苦手だったから、省略することにしたのです。
 とか考えてる間に、すぐそこまで弾丸が迫ってきた。

 ギン!

 何とか間に合って刃元で弾丸を受けると、弾は二つに分かれて飛び散り、ハダ剣も衝撃で弾かれそうになった。

 すぐに次の弾が来るから、うまく刀を回して次に繋げる。ここら辺のコンビネーションはジャグリングで相当鍛えたから自信あるけど、銃弾って考えると全部弾けるか不安だわー。
 次は右上ー、からの左下ー、見えにくい正面も見逃さないよ。
 んん?
 正面の弾と同じタイミングで右下に来てる!
 これは難易度高いわー!
 刀を止めることなく回して刃元で正面を受けつつ、刃先で右下を受けるしかない!

 ギギン!

 2発同時受けはさすがに重い!
 刃先は大丈夫かしら?
 チラッと刃先を見てみたけど刃毀れはしてなさそう。
 さすが静ちゃん、天才の名に恥じない仕事してるわー。

【果歩】
 武蔵の視界を茉莉に中継してるけど、茉莉の動きが速すぎて何がなんだか分からないわ。
 敵のスナイパーからの銃弾を防いでくれてるみたいだけど。
 爆風に飛ばされながら、よくあんなに動けるわね。
 と、私も飛ばされながら色々考えてるけど...
 さて、そろそろ地面に落ちそうだから、受け身姿勢を取らないとな。地面に両手を付いて、前転をするように受け身を取る。
 かなりの勢いだったから、3回転もしてやっと止まった、と思ったら今度は逆風で後ろに飛ばされた。
 トンネル内で爆発が起きると、爆発直後は空気が温められて膨張するけど、すぐに冷えて、今度は縮小するので逆に風が吹くってことかしら。
 爆発で私たちを追い越した砂埃が逆側から吹き始める。
 その時武蔵の視界に敵のミサイルらしき物が見えた。
「インカミングミサイル!」
 時子が叫ぶ!
 あの形は確か、CBU-87/B(対人クラスターボム)を巡航ミサイルに積んだGLCM(ground launched cruise missile)、通称グリフォンマン、あいつら私たちをトンネルごと粉々にする気だわ!

「武蔵!あのミサイル、墜とさないと洒落になんないわ!」
「了」
 武蔵は、後ろに飛ばされながらM107を構えて、2発続けて発砲した。
 直後に前方で爆発が起こり、ミサイルに入っていた子弾頭が撒き散らされて爆風と一緒にこちらにも飛んできた。
 ぱっと見、放射状に光が見えて、白い打ち上げ花火みたい。
 それらを茉莉が全て刀で弾き飛ばしてくれて、ようやく攻撃が止んだものの、前も後ろもトンネルが崩落しかかっていて、閉じ込められた可能性が高い。
 最初からこれが狙いか?

 グリフォンマンは親となる筐体に202個の子弾頭が内蔵されていて、標的の手前で炸裂することで子弾頭が全方向に撒き散らされる。それぞれが小型の爆弾なので、広範囲の対象に有効であるものの、不発弾となった子弾頭の処理で死傷者が多数出ていたため、随分前に使用が禁止された代物のはず。ここでもまた骨董品の兵器を使用してきた訳ね。
 因みに武蔵が2発撃ったのは、1発目を撃った瞬間にミサイルが弾を避ける機動をしたので、避けた先に2発目を撃ったということらしい。さすが武蔵、隙がないわね。

 それから私たちは皆の無事を確認して、警戒しながら前方の爆発地点まで進んだ。
 土埃で見えなかったトンネルは、予想通り崩れていて、ほとんど埋まり掛けていたものの、上の方に穴が開いていた。
 先に繋がっていたとしても、必ず敵が狙っているはず。
 どうやって先に進もうかしら。

 武蔵が崩れたトンネルの瓦礫を穴のところまで登って、様子を確認する。
 私の思念波探知能力は、人間しか分からないから、アンドロイドが近くにいても気付けない。
 穴は何とかギリギリ人が通れる程の大きさで、向こう側にも続いてることが分かったけど、太ったメンバーがいたらアウトだったわね。
 時子が超小型の偵察ドローンを穴に入れて、向こう側まで進めていく。
 映像は皆のAICGlassesに表示されてるけど、穴を抜けた途端に銃撃音が聞こえて、映像が途切れた。
 やっぱり狙われてるわね。

「時子、光子(ひかるこ)ちゃん、使ってみよか」
 突然、静から通信が入った。

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