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【小説】日本の仔:第66話

「諦めきれなかった私たちは、地球で生まれようとしていたある人間に使命を与えることにしたのよ。それが私たちの父と母」
 そうか、それで徳永氏は地球をキレイにしようと色々な発明を続けてきたんだ。
 でも、昔の人格に身体を乗っ取られて、元凶である人間を排除する形で地球をキレイにすることにしたということか。

「という訳で、父と母は地球をキレイにするために色々考えたのよ。でもあらゆる手段を取っても、人間がいる限り地球は以前の美しさを取り戻すことはできないと分かった」
「地球はもう君らだけのモノじゃない!」
 思わず込み上げてきた思いが言葉になって溢れた。

「確かに地球は汚れて、取り返しの付かないギリギリのところにいるかもしれない。でも皆諦めたわけじゃないんだ!人間はまだやれる!」
 根拠はないけど、そう言わずにはいられなかった。

「残念だけど、もう決断は下されてしまったよ。このたった百年間の人間の行動で、引き返せる線は越えてしまった。君たちだって知っていたはずだ、人間の欲が止めどないことを」
「あなたたちも考えを改めて、父と母に協力してくれないかしら。あまり期待はしていないけれど」
 エマが人類滅亡に荷担しろと迫ってきた。
 やはり彼らを倒すしかないのか。

 でもその前に徳永氏の居場所を確認しないと。
「君たちの父さん母さんは今どこにいるんだ」
「ここにはいないとだけ言っておこう」
(瑞希、あいつら近くにいる。思念波が聞こえた。「月」って)
 果歩から思念波が来た。
 月?
 月面か...

「父さんは月で何をしようとしてるんだ」
「驚いたな、心を読めるのか」

「瑞希さん、先制攻撃されています!」
 時子さんが叫ぶ。
 何、何?

「もう少し話をしようかとも思ったが、既に結論が見えた。君たちは危険だ。やはり排除することにする」

 ドドドン!!

 武蔵が倒れながらM107を連射し、イーサンの姿をしたアンドロイドに命中した。致命傷にはならなかったけど、すかさず茉莉が飛び掛かって、バランスを崩したアンドロイドに斬り掛かった。
 アンドロイドは払い除けようとした腕ごと斬られ、二の太刀で首を刎ね飛ばされた。と同時に茉莉もそのまま倒れる。

「瑞希!」
 果歩が僕の名を叫びながら倒れた。
 何が起きてる?!
「瑞希さん!音です!早く彼らを倒さないと!」
 時子さんが何か説明しているけど、まったく頭に入って来ない。

 僕の大事な兄弟に何をした!!
 今までに感じたことのない激しい怒りの感情で頭が一杯になった。
「うっ!」
 壇上のエマとイーサンが胸を押さえて蹲り、そのまま倒れた。
 すぐに隣にいたお婆さんが駆け寄り、蘇生を試みている。

 こちらも時子さんと皆の無事を確かめるが、皆耳から血を流して、動かなかった。
 皆死んでしまった?
 嘘でしょ...

「全員心停止状態です。外骨格から電気ショックを試みますので、離れてください」
 時子さんが対処し始めたけど、何も考えられない。

 バチッ!

 皆の身体が一斉に動いたけど、そのまま誰も起き上がらなかった。
「果歩さんの脳をスキャンした結果、脳幹に損傷を確認しました。これにより自律神経系が機能停止、心停止に至ったものと思われます」

 いやいや、まだ何か手はあるよね?
 こんなに簡単に皆が死んじゃう訳ないよね?
 何で僕だけ生き残ってんの?
 誰か助けて!

「瑞希さんしっかりしてください!」
 取り乱す僕に時子さんが厳し目に声を掛けた。

「まだ皆さんを生き返らせる方法はあります。昨日の温泉のあった場所まで皆さんの身体を運んでください」
 え?でも3人をさっき通ってきた崩れ掛けたトンネルを抜けて運び出すなんて、ちょっと無理なんじゃ...

 僕が絶望し掛けていると、壇上のお婆さんが話し掛けてきた。
「ここからすぐに出られる方法があります。お教えする代わりに、この子達を助けてください」
 な!?
 僕の兄弟を傷付けておいて、そんな頼みが受けられると思ってるのか!

 怒りで頭が爆発しそうになるのを時子さんの、
「瑞希さん、条件を飲みましょう。それしか皆さんを助けることはできません」
 という言葉が静めてくれた。
 今最優先で行うことは、皆を助けることだ。
 そのためなら、エマとイーサンを助けることは大したことじゃない。怒りの感情に飲まれてはいけない。

「分かった。二人を助けよう。それと今全世界で流行しているウイルスのワクチンを渡してもらう」
 あのウイルスを全世界に散布したとすれば、自分たちに感染しないようにワクチンを作ったはず。
「それは...分かりました。この子たちが助かるのであればお渡しします」
 やっぱり作っていたな。

「ここからはどうやって外に出るんだ」
「この真上に地上に続く通路がありますので、全てのハッチを開ければ外に出られます」
 そんな通路があるという情報は持っていなかったが。
「分かった。すぐにハッチを開放して。徳徳ドローンを呼び寄せよう」

 こうして、時子さんと一緒に武蔵、茉莉、果歩を運び出し、外につながる通路まで運び、時子さんに5機の徳徳ドローンを呼び寄せてもらった。
 皆、頼むから助かってくれ...

 ドローンを呼び寄せている間、エマとイーサンを運び出すために彼らがいた部屋に向かった。

「よろしくお願いします」
 お婆さんはワクチンの入ったフリーザーケースを持って待っていた。
 時子さんがワクチンを受け取り、僕はイーサンを背負って通路まで運び、また戻ってエマを背負った。

「ところであなたは誰なんですか?」
 隣で見守っているお婆さんに質問した。
 この子達の母親にしては歳を取りすぎているように見える。
「私はJulia Kirという者です。ビッグバンインパクトが始まる前に、アメリカで日本の発展を阻止するための組織の長をしておりました」
 そんな組織が存在してたのか。

「今は停戦だ。まずは皆を助けることに協力してくれ」
 ジュリアは無言で頷いた。
 脱出通路に戻ると、時子さんが皆を徳徳ドローンに接続してくれていた。エマ、イーサン、ジュリアは徳徳ドローンの上に乗せて、落ちないように紐でくくりつけた。

 そうだ、武蔵のM107と茉莉のハダ剣も持ってこなきゃ。
 さっきの会議室にM107と刀を取りに行く。
 う、涙が出そうだけど、時子さんがまだ助かると言っていた。
 信じるしかない。

「じゃ、出発しよう」
 徳徳ドローンを離陸させ、直上に続く通路を昇って行く。
 ビル10階分位昇ったところで外に出ると、ちょっとした山の上に大きな両開きのハッチが開いていた。
 今朝出発した温泉のあるところまで、徳徳ドローンを全速力で向かわせる。
 空気は冷たいけれど、肌が凍るほどじゃない。
 前よりも気温が上がってるのか?
 今朝久しぶりに見た太陽は、傾きかけて来ていたものの、未だに晴れ間が続いていた。

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