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フィレンツェの街の様子 <Inside>


私は語学学校で紹介されたステイ先を出たあと、20代後半~30代くらいの人たち数人が共同で住むアパートの一部屋を借りて、一緒に住んでいた。

私以外にもメキシコからの留学生と、
イタリア人では、社会人も、働きながら大学の勉強も続けている人もいて、フィレンツェ人の女の子がそこの大家さんだったので、集まる人は同じフィレンツェ人が多かった。
 
バス、トイレ、台所は共同で、あとはそれぞれの寝室。
基本的にみんな別々の生活だけど、大家の女の子か、他の誰かが友達を呼んで一緒に夕食をする時なんかは時々、
「いっしょにどう?」
と声をかけてくれて、その頃はまだ満足に会話もできなかったけれど、ありがたく参加させてもらっていた。
 
イタリアの若い人たちは、友達同士で政治などの話を普通にする。
 
夜の時間帯のイタリアのTV番組には、ドラマや映画ももちろんあるけど、
社会問題を扱ったものや
著名人をインタビューするような番組もあり、
そのアパートに集う住人たちは、みんなで一緒に後者のほうの番組をよく観ていて、お互い意見を言い合っていた。
 
時には意見がぶつかり合い、
傍目にはケンカしているようにも見えたんだけど、
基本的に彼らは、
意見は意見、友情は友情、と分けて考えているようだった。
 
お互い言いたいことは言うし、全く理解し合えない時もあるけど、だからといってその人を嫌いになったりなんかしない、これまでの友人関係は、普通に続いていく。
 
状況によっては後に、「もう何年もあいつとは話していない」という関係にもなるそうだけど、
そのアパートにいたイタリア人たちは、
前の晩、ケンカ腰で言い合いをしていたのに、
今日はまた同じメンバーで一緒に、
楽しそうに笑いながら食事をしていたりした。
 
そういえば、見てて面白かったのは、
激しく言い争っている二人に、別の子が
「ドルチェ食べる?」と声をかけると
え、ドルチェ?とばかりに、
おい、と、どちらかが相手の肘のあたりを軽くたたいて話を中断して、
仲良くドルチェ(ここでは夕食後のデザートのこと)を食べ始めてたこと。
 
ドルチェ食べてる最中にまた再熱してたりもするんだけどね。
 
私がその家に住んでいた頃、
ちょうどベルルスコーニが政権に返り咲きする前で、
住人の一人の子はその時期、
TVをかぶりつくように毎日観ながら
 
「この人がまたイタリアの首相になったら、私はイタリアを出ていくわ」
と憤慨気味に話していた。
(その後ほんとうに首相になっちゃったけど・・・)
 
ベルルスコーニの支持層は、北イタリアと、南イタリアに住む人たちで、
中部に属するトスカーナ州、ことにフィレンツェは、
全イタリアの中では少数派の <反ベルルスコーニ> なのだと教わった。
 
フィレンツェは、歴史的に自主独立の気風で、
職人の街、そして
ギルド(組合)の街。
 
1997年に最初の留学で来たとき、
フィレンツェは、なんで街じゅうに 
チェ・ゲバラのポスターやら、Tシャツやら、カレンダーなんかが 
たくさん売っているんだろう? と不思議に思ってはいたんだけど、
今思えば、おそらく
左派の街だから ということも、関係があるんだと思う。
(2000年以降は減っていってた。理由はわからない)
 
ついでに言うと、ヴァカンス先として
イタリア人たちはよく、キューバを「憧れの旅行先」として語ったり、
じっさいに行ったりしていた。 
そっちは単に「カリブの休日」に憧れて、だろうケド。
 
シニョリーア広場ちかくの中心街に住んでいたとき
夕方の風を部屋に入れながら
窓から下の通りの通行人たちを眺めていたら
 
大人の男女がなにやら言い争いながら歩いてきて 
(二人ともモデルさんみたいな美男美女だった)
その通りの真ん中あたりで、女性が 
立ち去る男性の背中に向かって
 
「ファッシスタ!(Fascista ファシスト)」 と叫び、 
男性も振り向きざま
「コミュニスタ!(Comunista 共産主義者)」 
と 叫び返していた光景を見たことがある。
 
なんだか芝居の1シーンでも観ているようで、
日本とは 罵り合う言葉がちがうなあー、と 
深く感慨にふけって見入ってしまった。
 
政治的に少し特殊な土地柄だからなのか、
フィレンツェに マフィアは、
他の一般的なイタリアの都市ほど入り込んでいない 
と聞いたこともある。(フィレンツェ人から) 
 
彼らが 
「あいつはマフィオーゾだ(Mafiosoマフィアの人)」 と言う時は、
笑いながらの、友達同士のじゃれ合いの場面が多かった。
 
その代わりなのか何なのか
 
フィレンツェに多いのは 
マッソネリーア(Massoneria フリーメイソン) だと聞いた。
 
街の名士の人たちは、殆どそうだって。
 
しかも、フィレンツェ人やトスカーナ人だけじゃなく、
イタリアの他の州から来た人でも、
フィレンツェで、
いわゆる「士」や「官」のつくような職で上層の人や、政治関係の人なら、
やはりメイソンなんだろう と。

その中にときどき、少数のマフィオーゾも紛れ込んでることもあるとか
ないとか・・・
 
ウワサだけどね。
 
とりあえず、トスカーナ州にもマフィアはいる、
ということの客観的事実としては 
トスカーナ州内の、とある街は 
「マフィオーゾが多く住む街」としてイタリア人には知られているけど
観光客=外国人たちには全く知られていない。
 
そこは、日本人観光客はよっぽどイタリア通でもないと、
ほぼ行かないところだし、
治安そのものは良い場所なので、仮に行ったとしても大丈夫・・・
だと思う。
よほど何かの運が悪くなければ。
 
イタリアでは、日本でのイメージほど
メイソンは
タブー視も、陰謀組織(笑)扱いも、されてなくて
 
フィレンツェでは、友達同士の集まりで 
少しつっこんだ話題の時には、
誰かの口からときどき出てくる程度の言葉だった。

「その人もマッソーネなんじゃないのぉ?」 
みたいな感じで。

見知らぬ人同士の集まりで、表面的な話題の時には出てこないけど。

ちなみにマッソーネ(massone)は、会員(っていうの?)のこと。
組織=マッソネリーア
人(メンバー)=マッソーネ
 
2014―2016年にイタリア首相を務めたレンツィ氏は、
私がまだイタリアに住んでた頃
フィレンツェの市長だったんだけど、
 
突如、彗星のごとく現れて
景観や環境問題の観点からか、
多くの市バスのルートを歴史的保護区から外したり、
カオス状態だった鉄道駅前の大整理をやったりして、
ただでさえ公共の仕事の遅いイタリアで
しかも本人はまだ若いのに、
こんなにも早く、目に見える改革を行えるなんて 
このヒト一体何者??? という印象は持っていた。 
 
周りのイタリア人たちに聞いても、彼の仕事の速さの秘密については 
知っている人はいなかった。
 
メイソンのメンバーのバックアップが強い人だから仕事が早く出来た
ってことだったのかな・・・??
 
フィレンツェ近郊の町のお祭りに行ったとき 
たまたま入った
レトロなデザインの、時計や卓上オブジェなどの雑貨店で買い物をして、
そのまま店長のシニョーレと、なんとなく話し込んだ時に
なんとなく、マッソネリーアの話題になったことがあって、
 
私が 
「いちど誰かに聞きたいと思ってたんですけど、イタリア人同士では
あの人はマッソーネだな、なんて、わかるものなんですか?」
と聞いたら 
「わかる」 
って言ってた。
 
どうやってわかるの?と聞いたら、
はっきりとは教えてくれずに
「教会に通っていれば、わかるんだよ」 
と真面目な顔で答えてくれた。

教会といえば
イタリアは、カトリックの総本山、ヴァチカンのお膝元で
2000年前から「熱心なカトリック教徒の国」ということになってるけど
現代イタリアでは
日曜日に教会へ通っている人は、人口の30%以下になってしまった 
という報道を、2000年代初期に見た記憶がある。 
 
私の周りのイタリア人たちは、一人も通ってなかった。
老若の年代を問わず、フィレンツェ人も、他の州出身のイタリア人も。

いちおう傾向的には、「南の人のほうが信心深い」
ということになってはいるけど。
 
クリスマスやパスクア(復活祭)の礼拝にすら、
私のほうが参列してたかも。
 
私は、その日に臨んでのキリスト教へのリスペクトと、
観光客的目線の両方で、
特にクリスマスの真夜中の礼拝には、何回か参列したことがある。
ちなみに中学高校がプロテスタント系のミッションスクールだったので、
キリスト教の礼拝には馴染みがある方。
カトリックのミサとは、だいぶ違っていたけれど。
 
長くなりましたが
まとめると
 
教会への帰属意識が低く、
自分の仕事を愛していてよく働き
(職人が多いことが関連していると思われ)、
仲間との連帯意識は強く 
共に事に当たったり、協力し合い、
国に頼る傾向よりも、自治体としては、自主独立の気風が強い。
市民は若い人でも、友人同士でよく政治談議をし、
政治でも、文化でも、 
おのおの個人で一家言を持つほど、知識・教養のある人が多い。 
社会意識としては左派傾向で、
政治家はじめ、街の上層部の人には 
マフィアよりも、フリーメイソンが多い・・・
 
私がイタリア人の中で生活しながら知ったフィレンツェって、
そんな街みたいでした。
 
「注* 諸説あります」 あるいは 
「注* 個人の見解です」 ですけどね。(笑)
 
沖瑠璃波プレゼンツ
「ガイドブックには載っていないフィレンツェの街の様子」 
をお届けしました♪
 
 

「教会に通っていればわかる」と話してくれたシニョーレの雑貨店で買ったレトロなBussola(ブッソラ 羅針盤)


書いたものに対するみなさまからの評価として、謹んで拝受致します。 わりと真面目に日々の食事とワイン代・・・ 美味しいワイン、どうもありがとうございます♡