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住まいを選ぶということ

・住まいを選ぶということ

 洋服を選ばれる時、あなたならどういう基準で選びますか?

「デザイン、色」、「着心地」、「素材、質感」、その他さまざまな要素が考えられます。

例えば、パーティーや結婚式などに招かれた時は?となると「デザイン・色」など、見た目の美しさがメインになると思います。

キャンプへ行く時は?の場合は「機能性・丈夫さ」などになる事も多いでしょう。

 さてそこで、「今から選ぶ一着で一生過ごさなくてはならない」としたらどうですか?
すぐに返事が出来る方は少ないと思います。
考えた上で、「悪くならない丈夫な素材」や「飽きのこないデザインや色」という答えが出るくらいでしょう。
 洋服の場合は、それで良いと思います。
暑い夏の日の服装と、冬の雪山を歩くための服装は違うでしょうし、部屋でくつろぐための服装と外へお出かけする時の格好も違って当然です。洋服は、毎日、その日その時の目的に合わせて着替えることが出来るのですから、一生の一着は選ぶ必要がありません。

 ところが、家の場合はどうでしょうか。休日にゆっくりくつろぐ為の建物と、お客様をお呼びしてもてなす建物、別々に用意できるでしょうか? 
「暑い夏の日」用の家と「寒い冬」用の家、「地震の時」用の家と「火事の時」用の家、などなかなか用意できるものではありません。そこが洋服とは違うところです。

 世の中にあるほとんどの商品は、高級なものから安いもの、頑丈なものから繊細なもの、などいろいろな物が用意されています。  
これは、市場のニーズを満たす為に、非常に良いことであると思います。ところが、住宅に関しては、ちょっと事情が違います。

 洋服の場合、きれいに着飾ってお出かけする時の洋服は、クリーニングが大変だったり、食事の時汚れないかと心配しなくてはならなかったり、しわになり易いものだったりしたとしても、デザインが非常に気に入っているなら、その商品に対する評価は非常に高いものになるでしょう。
 逆に部屋でくつろぐための洋服なら、見てくれよりも、着心地、動き易さ、洗濯のし易さ等の方がよっぽど重要になります。
 と、いうことは、欠点を無くさなくても、それ以上の魅力を作ってしまえば、その人にとって価値のある商品となり得るのです。
 車の場合はどうでしょう。高級なセダンを望まれる方は多くいらっしゃいます。仮に燃費はあまり良くなかったりしても、乗り心地や外観、ステイタスを楽しめるだけの魅力があれば、きっと満足していらっしゃると思います。逆にかわいらしいルックスの小型車などを望む方、こちらは多少の乗り心地の悪さなど全く気にもせず、その愛らしさにきっと満足されているでしょう。燃費の良さや小回りが利くことに重きをおいて、軽自動車を好まれる方も、きっと満足されていると思います。
  この様に、さまざまな世の中の商品において、高級なもの、安価なもの、目的を絞ったもの、など色々な種類の商品が用意されているという事は、皆様の要望を満たすために非常に良いことと思われます。


 ここで、お住まいのことに話を戻しましょう。

「まず第一に頑丈」とおっしゃる方、毎日'結露'で壁中がびっしょりだったら、我慢できるでしょうか?

「インテリアなどの見かけが重要」という方、高級服のように、毎週専門業者でクリーニング(メンテナンス)が必要だったらどうでしょうか?

「断熱性が一番」とおっしゃる方、好きな間取りが取れず、細切れの部屋ばかりだったらどうでしょう?

「とりあえず高性能」という方、外から眺めるのも嫌な外観だったらどうでしょうか?


間違いなく答えは「不満」です。ここが他の商品選びとの違いです。
 ほとんどの物は一点突出した魅力があれば、他の不満を補って余りある魅力が購入者を満足させます。

 家の場合はその逆で、‘一点の欠点’が他の突出した魅力まで打ち消して、購入者を不満に落とし入れるのです。

 考えてみれば、おしゃれのために冬でも肩を出している女性は見かけますが、おしゃれのために風の吹きすさぶ寒い家に住まれる方は少ないでしょうから。

「一着しか持てない洋服」それが住宅です。
すべての検討項目において、かなりの高得点をとらなくてはなりません。気に入らないから、住い心地が悪くなったから、といって気軽に建て替えるわけにもいきません。
 皆様が「不満に落とし入れる要因(=欠点)の少ない家」という厳しい眼で、お住まいを検討されることを切に願います。

・万能な家 ?

それでは、「万能な家」とは一体どんなものでしょうか。これは非常に難しい問題です。建てる地域や周辺環境によっても異なってきます。

 例えば、赤道直下の国々では、窓は極端に小さく、ガラスをつけずに開けっぱなしだったりします。日光という強敵から身を守り、風通しの為のみに窓を設けていることが分かります。

 反対に極端に寒い国々、ここでも窓は小さく作られているようです。これは冷たい外気をできるだけ入れず、暖房を良く効かすためです。

 ちょうどその間の緯度の国々(ヨーロッパや日本がそうですが)では、比較的大きな窓が見うけられます。人が暮らすのに適した気温で、光や風をできるだけ多く取り込みたい、という気持ちが表れています。もっとも、ヨーロッパの中だけでも、地域によって窓の取り方に大きな違いがありますが。
 皆さんがお住まいになる環境下で、ここまで大きな環境の違いは見られにくいかも知れませんが、「一番よい家」は間違いなく周辺環境によって変わってくるようです。
 ですから、アメリカやヨーロッパで良いとされている家を、そのまま日本に持ってきても、日本の環境においてそれが良いとは限らないのです。

  例えば、添付の世界地図をご覧下さい。
これは世界で起きた地震を赤い点で表しています。
(気象庁HPより)

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 中央で真っ赤に埋め尽くされているのが'日本'です。ご覧いただければ一目瞭然ですが、地震は世界各地でまんべんなく起きているのではなく、特定の地域に偏って起きているのです。

 なんと、世界で起きている地震の10件に一件が、この日本という狭い国土で起きているそうです。
 ですから、「北欧の長寿命の住宅を持ってきました」、といったところで、それは地震の無い国でのことです。ヨーロッパに見られる立派な石積みのお城も、この日本では存続していないかも知れません。

 また、同じように「寒い国の住宅ですから断熱性は万全です」と言っても、それも環境の違う日本で、よい家とは限りません。

 例えば、北欧では愛用されている「天窓」。これは太陽高度が低い北欧では、入ってくる日差しが柔らかくなり、非常に心地よいものです。

 ところが、同じ天窓でも、日本では不満率が非常に高いものになってしまっています。
 日本では、真夏の日中には太陽はほぼ真上に位置する為、天窓を設けると直接太陽光が入り過ぎて、暑くなり過ぎてしまうのです。なので、採用する際は細心の注意が必要です。(古来の日本の住宅には天窓は無いですよね。)

 つまり、気候や地震の有り無しなど含めて、日本には日本に必要な要素がある、という事になります。

 それでは、古来からの日本の住宅が、この国には一番適しているのでしょうか?

 当然、適している部分が多くあると思います。
ただそれだけが正しいとも言えません。と申しますのは、現在「在来木造」と称されて建築されるものは、伝統的な木造建築とは大きく異なり、また建築される環境や間取りの作り方、生活様式なども大きく異なってまいりました。

 しかし、学ぶべき点は多いと思います。そこで、次にその日本建築について検証してみたいと思います。

・本格木造?それとも・・ ・(住宅が進化し、新たに‘結露’という問題が生まれた)

 昔ながらの木造建築の特徴に、「真壁工法」と言う表現があります。これは構造体としての「柱」がまず有り、柱と柱の間に竹を組んでそこに土を塗るといった造りです。土壁は何度にも分けて塗られる為、時間と手間を非常に要するものです。この場合、柱は外からも屋内からも見える状態で常に外気に触れています。

 逆に近年の住宅は「大壁工法」と呼ばれ、構造体の柱は、外壁材に覆われ、また内部もボードに覆われています。柱は外気には触れず、2重壁の中に空洞が作られているような状態です。

 それぞれについてメリット・デメリットが語られてますので、一概にどちらが良いかを明言することは避けておきますが、少なくとも旧来の「本格木造」と呼ばれるものは現代では非常に少なく、今の「木造住宅」は全く異なるものだとご認識ください。

  また、昔から日本では「家は夏をむねとすべし」と言われるように、夏にいかに涼しく快適に暮らせるかが、家づくりのポイントでした。
 壁は土壁一枚で、特に断熱材などは使わず、屋根を大きくかぶせることで大きな影を作り出し、その中は涼しくなるよう、解放しやすく作られました。
 逆に冬は断熱性能が高くない為、家の中で火を炊けばその近くだけは暖かく、壁際は外気温とあまり変わらないといった状態です。気密性もあまり高くない為、壁の所で結露するという可能性も少なかったでしょう。
 ところが、今の住宅の多くは薄い外壁で家を覆い、壁の中にグラスウールなどの綿状の断熱材を詰め込みます。(先に申し上げた大壁工法で、‘二重壁の中に断熱材が入っているイメージです。)


 これにより、気密性、断熱性の数字は良くなりましたが、'壁体内'での結露 が問題になるようになりました。この壁体内結露は、断熱材の性能を落とすだけでなく、湿気をため込んでしまうため、構造躯体への「腐り・さび」という劣化を助長するものとして、大変恐れられています。

 当然ながら、現在の技術力では「断熱材の外側に通気層を設け、断熱材の内側に防湿層を作る」などの手法で、結露による悪影響は避けられる、という理論は成り立っています。
 ただ実際の建物の解体現場に行くと、カビだらけの断熱材を見ることは多いです。(なかなか難易度が高い、とも言えるかも知れません。)

 だからと言って、昔と同じような ‘寒い‘ 家に住みたいとおっしゃる方はあまりいらっしゃいません。その解決策は、断熱の方法にあります。
 (一般的によく使われる、サイディングボードやモルタル壁の場合、外気が5~7度以下になると結露することになります。)

 解決策としての例を挙げさせて頂くと、
例えば、外壁材そのものを高断熱のものにする、もしくは「固形体の断熱材」などで「構造躯体」をすっぽり外から包む方法などが考えられます。これにより、壁体内での ‘温度差’ を起こしにくく、結露も起こしにくいということになります。 壁体内が '湿潤' 状態にあるかどうかは、躯体そのものの耐久年数にも影響がありますので、軽視できない問題です。

 さて、あらためて日本の古来の建築を思い起こしてみますと、従来の木造建築は、床高が高く造られ、湿気への対策をしていることが分かります。水廻りはというと、キッチンは土間の上、風呂やトイレは家の外、でした。
 腐りやすいものは、木の床からは離し、また床は湿気の多い地面から離す。これが床を長持ちさせる秘訣です。
 これもまた残念ながら、こんな住宅を今は見掛けなくなりました。
バリアフリーが好まれる昨今、玄関は入りやすく低く、家の中の段差はなくし、お風呂もキッチンも洗面所も行き来しやすい平らな床に並ぶこととなりました。こうなると、床を長持ちさせるのは困難です。木質系のもので床を作る場合、対策は薬に頼ることが多くなります。ただ、防腐剤や防蟻処理、これが人体によい影響を与えることは考えにくく、近年は毒性の強い薬の使用が禁止されました。結果、新築時以降は、五年おきにシロアリ駆除を行わないといけない事になりました。なかなか、そんな手入れは大変なものですよね。

床がどんな素材で、どのように施工されるのか、ここはしっかりとチェックしておくのがお勧めです。

 さらに、昔の家との違いをもう一つご紹介します。木、そのものの違いです。
 昔のひのきは、植林ではなく雑草の中で育っている為、成長が遅く年輪の間隔がせまかったのです。実はこのように時間をかけて育った木は、密度が高く腐るのにも時間がかかるそうです。
 また、昔は、木を切り倒した後、枝葉がついたまましばらく放置されました。この間、枝は幹が切り倒されたことは知らない為、成長しようと樹液をどんどん吸い上げます。樹液を吸い上げられた幹は、さらに枝を切り落とされてから川をくだり、そこで残った樹液も洗い流されます。更に製材されるまでには時間がかかりますから、完全に乾燥し、非常に割れにくく、腐りにくい状態で家に使われることとなります。

 今の植林で育ったひのきは、雑草の無い中、短期間で成長させられる為、年輪の間隔は広く、また、倒されればすぐにトラックで運び、強制的に早い時間で乾燥させられ、すぐに製材されています。先に申し上げた昔の木材に比べ、腐りやすいとも言えるのです。

 これらの状況だけでも、いかに古来からの木造を建てるのが難しいかが分かりますよね。文化財を保護する為でしたら、出来るだけ旧来のやり方を守るようですが。
 ただ、大きなお寺を修復する時なんかは、修理する時の間だけ雨風を防ぐ「やぐら」を組む為だけでも、5億や10億のお金がかかります。伝統工法を継承するのは大切ですが、なかなか庶民の住宅とは縁遠い話ですよね。
 こうした背景の中、日本の住宅事情はどんどん変化をとげており、現代に則した、よりよい家を作ることが、今求められています。

*法隆寺の修復などを手掛ける西岡常一氏の書物。「木」について学ばせて頂きました。↓


・数字で選ぶ?高性能

そんな状況の中、住宅産業の中に家を客観的に判断する材料として ‘住宅性能表示’というものが現れました。
 平成12年4月に施行された「良質な住宅の供給促進を目的とした住宅品質確保促進法(以下品確法と呼ぶ)」の中でもうけられた、住宅の性能を測る共通ルールです。従来は、住宅には性能を評価する為の統一基準はなく、商品を適正に比較検討し難かったこと、また中小の工務店などでは瑕疵担保期間が短く、欠陥が見つかった時には補修請求できないことも多くあったようです。
 そこで、生産からアフターサービスまでトータルに住宅の品質を確保する為に生まれたのがこの「品確法」です。

 これにより、少なくとも10年間は基本構造部が保証されることになりました。また、住宅の性能も比較検討しやすくなる為、非常によい法律であると思います 。
 ただ、せっかく作られた ‘モノサシ’ でも、なかなか完璧には住宅の良し悪しを評価できないのものです。

 例えば、、断熱材が吸水した場合、‘今’と'10年経ってから’では、同じ性能ではありません。但し、「10年後、20年後の断熱性」というのは判断が難しい為、性能表示の項目にはありません。また、「10年後、20年後の床の状態」というのも、評価が難しいですよね。

 「劣化の軽減」という項目で、構造躯体などが劣化しにくいことは評価されますが、その他、住まい心地に関する性能が、年数を経た場合の劣化具合を評価されることはありません。要するに家が倒れないだろうという評価はあっても、住み心地がずっと先まで良いだろうということは評価にありません。

 年数を経た時の住宅性能、これは建替えるか否かの状態の時、意外と大きな決定ポイントになっているのです。

 さらに、平成21年より施行された「長期優良住宅」というものも、その文言が付いていれば ‘同じ耐久性’ ではありません。

「長期優良住宅」を簡単に申し上げると、その名の通り「長期間」「優良な住宅」状態が続くものを指します。

 構造躯体には100年超の寿命を持つ事が求められますが、実は、それをそのまま実現できる住宅は非常に少ないのです。
例えば、一階の床の土台は ‘木’ で作ることが殆んどですが、この場合、この床が何もせずに100年も持つとは言い切れません。当然、床にもぐって、点検・補修 を行わないといけません。

 そこで、上記の「長期優良住宅」の概念については、「‘将来にわたって、点検や補修を行うためのスペース’が確保されており、また計画的にメンテナンスを行う」という事で認定が受けられる、という考え方となっています。

 同様に、‘鉄骨のさび’などに関しても、「そのまま長期耐用できる」では無く、「主要な部分を、点検・メンテできる」事を条件に、「長期優良住宅」を取得できる事となっています。
 ただ、考えてみれば、 ‘補修’ をどれだけしても持たない なんて家は殆んど無いでしょう。
つまりは、実際に必要となる、「メンテナンスコスト」を確認することが重要になるのです。

・ 意外と高くつく「クリーニング代」

 ここで、私の経験談をご紹介したいと思います。まだ 私が住宅の仕事を始めて間もない頃、定年退職を間近に控えた男性から住宅の新築の相談を受けました。
 床の造り、建物構造を熱心に質問され、今のお家を建替えたいとのご意向でした。
ところが驚いた事に、その方のお住まいは、まだ「築十六年」だったのです。
 若かった私は「えっ、築十六年ですか。まだもったいないですよ。」と申し上げました。
 よくよく事情をお聞きすると、もう既にリフォームの見積りを取られたとのことだったのですが、その見積が1000万を超えてたとの事。
 思い立った一番のきっかけは、水廻りの床がかなりベコベコと弱っていたので何とかしたい、そしてキッチンを新しくしたい、とのご要望でした。

 大手鉄骨メーカーで建てられたので、確かに建物はもう住めないというような状況ではなかったのですが、床下に潜ってみると、床は腐っているのでやり替えが必要、その床を支える束(独立した基礎)そのものが不等沈下(家を支える基礎が不均一に沈んでしまう現象)により狂ってしまっていた為、基礎にも補強を施しましょうということになったそうです。
 もちろん外壁のサイディング材も目地のやり替え、塗装が必要で、屋根の葺き替え、さらにキッチンを新規に購入、となると、それなりの大金が必要となったとの事でした。
 もう少し頑張れば新築できる費用である事、また手直しでは、また何年かのうちにやり替えが必要になるのでは、という心配もあった為、新築を考えたいとのことでした。
  その後、床の作りについてしっかりご説明させて頂き、無事新築をして頂いた後に、「最初からこれくらい床をしっかり作っていたら、今回はキッチンの入れ替えぐらいですんだのかなあ」とおっしゃっていただいたのが、非常に印象的でした。
 
 その後、多くのお客様とお話をさせて頂くにつれ、非常に早く建替える方が多いという事実を知らされました。
 考えてみれば高度成長以降、住宅産業に求められてきたのは、早く、安く、簡単に、たくさん供給することでした。その結果、数的には住宅産業は潤ったのですが、そこで作り出された住宅は、必ずしも'長寿命'とはいえない物でした。
 どんどん進化してきた日本の住宅事情ですが、まだまだ十分ではありません。
 少なくとも、その業者がうたっている寿命までの期間くらいは、メンテナンスのプログラムをご確認ください。
 建てる前に、その業者が手掛け、築30年以上経過した住宅の内部まで確認できるのが理想的です。 真に長寿命、低メンテナンスな建物かどうかを、シビアな目で見極めてください。
 完成してから渡されるメンテナンスのガイドには、結構な頻度でのメンテナンスを推奨している事が多いです。
 たまにしか着ないドレスなら、クリーニング代も気になりませんが、毎日住まう家のメンテナンス費用、これは大問題ですよね。

・どんなお家?

こんなに重要課題が沢山あるお住まい造り。それなのに次のような方によく出会います。
「今、○○ハウスさんで見積りを依頼していまして・・」とおっしゃる方。そんな方に、具体的な商品名や工法をお聞きすると「さあ?なんだっけ?」と言うお答え。「じゃあ、壁は何で出来ているんですか?」とお聞きしても「ん~、普通のやつやと思う。」なんて答えが返ってきたりします。

  ここでよくお考え頂きたいのですが、洋服を買う際、それが‘綿‘で出来ているのか、‘ナイロン‘でできているのか、もしくは‘本革‘で出来ているのか、くらいは通常分かっていますよね。それなのに、一生で一番高い買い物「住宅」では、材質さえよく知らずに検討されている方が多いのです。
 ‘大手の商品だから大丈夫’とも言われるのですが、その同じメーカーでも、高級商品と廉価商品では、下手をすると倍ほど値段差が有ったりします。

 失敗したから買い替えよう ・・ とはいかないのが住宅です。材料や縫製で耐久性やメンテナンスの手間が大きく違うのは皆様 洋服や自動車で体験済みですよね。
間違っても使い捨てにならないよう、材質や工法などは確認される事を強くお薦めします。(完成した建物で目にすることが出来るのは建築コストの約3割、後の7割は出来上がったら見えない部分にかかっていると言われています。)
 洋服の場合、「安物だったから一年でダメになってもしょうがないか・・」なんて思えるかもしれませんが、住宅ではそうはいきませんよね。

・「三匹の子豚」に学ぶ、住まいづくり

皆様もよくご存じの「三匹の子豚」

 一匹目は「わら」で家を作り、二匹目は「木の枝」で家を作りました。結果、オオカミに家を吹き飛ばされてしまいます。
 三匹目は「レンガ」で家を作り、オオカミは手も足も出せなかった。
というようなお話でしたよね。既に人々の中に、どんな素材で作るかで、家の頑丈さが違う、という認識はあります。

 欧米では住まいが「何」でできているか?との問いかけに、明確に「レンガ」、「石」や「木」と答えられます。
 でも日本では、先にも申し上げましたよう、残念ながら「自分の家の外壁」が何の素材で出来ているかも理解していない方が多いのです。

 家の「素材」は‘寿命‘にも、‘対災害‘の面にも、大きな影響を及ぼします。熟考して選択されることを切に願います。


・まだまだ不十分?災害対策

 テレビCMなどでも、多くの住宅メーカーなどが「耐震実験」映像を流し、‘地震に強い’をアピールされています。
 これらを見ると多くの会社が地震対策を行っているので、「どこで頼んでも「地震対策」は大丈夫だな」と思われている方も多いと思います。

 ここで 耐震実験映像を見る際の ‘注意点‘ を二つほどお伝えします。
① 新耐震法など、法律で求められる耐震性の目的「倒壊せずに人命を守る」です。もちろん大切な使命ですが、「その後、利用できる建物か?」は問われておりません。また、耐震等級という基準にて(先に念触れました‘品確法’の中の基準です)、耐震等級は1,2,3と三段階あります。最高等級である「耐震等級3」が取得できる住宅は、それが謳い文句となっており、多くの方が安心されると思います。
 ここで正確な定義を申し上げますと、
耐震等級1 : 建築基準法で定めた耐震性能(関東大震災で倒壊しない)
耐震等級2 : 上記(関東大震災)基準の1.25倍の地震で倒壊しない
耐震等級3 : 同じく(関東大震災)基準の1.5倍の地震で倒壊しない

 すべて「倒壊しない」基準であり、その後、再使用できるとは定義されていません。変形や損傷があっても倒壊せず人命を守ることが目的です。
その時、の命を守ることが当然大切ですが、その考えだけだと、避難した上で、「修繕」もしくは「建て替え」をしてから自宅に戻りなさい、ということになります。
 映像や「等級」の話だけだと、地震後に残った耐力がどれほどなのかは分かりません。必ず、その後、の耐力について確認することが重要です。

② ポイントは、建物と基礎の「結合部」
 近頃の大災害での被害の特徴は、「基礎と建物の結合部」の損傷が目立ちます。つまり、建物そのものは壊れてないように見えますが、基礎との結合部で、「ズレ」「破壊」が起こっているのです。
 よく見る「耐震実験」映像ですが、よく見ていただくと、建物の「基礎」が無いものがほとんどです。つまり、柱から上の建物部分だけを揺らして、建物が壊れないかを実験しているのです。
 阪神大震災以降、多くの会社が耐震性能に力を入れ、その性能が向上したことは間違いありません。ただ、基礎との結合部においては、まだまだ不十分とも考えられます。

 そもそも、その「基礎との結合部」について、そこまで進化が進んでない理由は、先に申し上げた ‘従来の木造’ にも関係があります。
 古いお城やお寺の ‘基礎’ 部分をご覧になったことがあるでしょうか。
大きな「石」の上に、太い丸太のような「柱」が乗っかっています。つまり、「載せている」だけなのです。
 ただし、ここまで立派な建物は、上部の骨組みがしっかりしてました。
貫(ぬき)といって、太い柱に穴をあけて、そこに水平に木材を通す、という技法を使っています。大きな柱と大きな梁を組み合わせることで構築される構造体は、大きな地震を受けても倒壊ぜずに、基礎である大きな石の上を滑るそうです。(‘踊る’という表現を宮大工さんがされてました)

 現在の木造住宅といえば、そんな「貫」をつかった大掛かりな骨組みではなく、もっと細い柱、梁を、金具や釘を使って固定しています。
 そして、1995年の阪神大震災において、多くの木造住宅が倒壊し、2000年に改めて建築基準法が改正されました。(2000年基準と言われています)
ここで初めて、木造住宅の主たる柱の下に「土台」という木材を入れること、そしてそれを「基礎と緊結」すること、が明確に定められました。
 極端な言い方をすれば、それまでの建物は、基礎の上に「載せただけ」の建築でよかったのです。「置いた」建築を、台風などで飛ばないよう重たい屋根を乗せることで成り立っていた木造住宅も、大きな方向転換をせざるをえなくなりました。

 つまり、基礎と建物の結合部の検討が甘いのは、今の業者が悪いわけではなく、決まったばかりの法律で、まだまだ不十分な所が多く、より厳しい「明確な」基準が求められる分野と言えます。
 とは言っても、ご自身の住宅、建てる際には「基礎との結合部」も、どうなっているのか丁寧な説明を求められることをお勧め致します。

・Frank Lloyd Wright(フランク・ロイド・ライト)の思想

 日本でも旧帝国ホテルの設計で有名な Frank Lloyd Wright(フランク・ロイド・ライト)。
 彼は、世界の近代建築が、機能性、合理性を追求する中で「有機的建築」の理想を追求しました。有機的建築とは、豊かな人間性の保証に寄与する建築を意味します。
 彼が活躍した第一期黄金時代には、草原住宅(Prairie House)というものを手がけました。米中西部の草原地帯に、大地に根を張り地を通うように創られて自然と一体となることを目的とした住宅です。
 第二期黄金時代の作品はユーソニア住宅(Usonian House)と呼ばれています。これは決まった形のあるものではなく、‘合衆国に生を受けた人々は貧富の差に関わりなく、豊かな生活をする権利がある’という思想のもと、低廉な小住宅を設計していった彼の作品の総称です。あまり知られていないのですが、彼は、住宅の経済性のため、積極的にプレファブ化に取り組んだといわれています。これは、テキスタイルブロックという物を大量に生産し、それを積み上げて建築を行うことで、「比較的安価」「高品質な住宅」を提供したい、という意思の表れです。
 その他、住まいづくりの手本となる部分が多くあります。
 例えば、周りの環境に合わせ「日照、風、湿気を配慮した住まい造り」。草原住宅と、日本で手がけた住宅ではやはり違いが見受けられます。日本の場合は風(湿気)の抜けに重きを置いています。
 そして、建築物そのものが有機的であり、住まい手側の状態にあわせ年々変化すべき、と考えています。(ライトの設計事務所は今も増改築を繰り返し変化し続けています。)実際に、ご自宅のお建て替えの相談を頂く方の多くから、「間取りを変えたいけど出来ない」という声をお聞きします。

 構造強度を保ったまま、間取りを変えるなどの可変性も持ち合わせれば、真に長寿命な住宅が実現できますよね。

 フランク・ロイド・ライトの建築から、
① プレファブ化を積極的に行い、良い素材を出来るだけ低価格で提供しようとした。
② 立地環境により、意識すべき設計ポイントが違う。日照・通風・湿気、などは日本で建築する際の重要なポイントである。
③ 住まい手の状況に合わせ、有機的に間取りを変化させることが出来る。

 など、一般のお家にも適応できる考え方を、学び取る事ができます。
「良質な建物を、より多くの人に届ける」。現代の業者にも求められる志ですね。

・間違いのない「住まい選び」

最後に、皆様の住まい選びについて、注意していただきたい点をまとめさせて頂きます。

① 依頼先をしっかりと選定すること
「設計事務所」「工務店」「住宅メーカー」など、依頼先はいろいろありますが、まずはその会社・事務所の「企業理念」を確認すること。どんな仕事をしたいと思っているのか、そこが全ての出発点です。「理念」がその会社の「施工技術」「企業姿勢」に繋がっていきます。「理念」の無いところに、一生の住まいは任せられないですよね。

② 素材・工法にこだわること
会社がしっかりしていそうであっても、素材・工法をしっかりご確認ください。「なぜその素材」なのか、「なぜその工法」なのか、それは長期間経った時にどうなるのか、災害の際はどうなるのか、地震の際はどうなるのか、しっかりとご確認ください。災害については「災害の後」どうなるのか、まで注意して確認することが重要です。

③ 手がけた住宅の「実物」を確認させてもらうこと
完成した建物は、まさにその業者の実力、が表れています。また、完成してから10年、20年、出来れば30年、経過した建物まで確認できるとよいでしょう。
 完成した直後の建物では、設計力・デザイン力、を知ることが出来ます。
 30年経った建物であれば、耐久性・メンテナンス実績、などを知ることが出来ます。どんなに素敵な建物でも、メンテナンスが大変では、住んでからが心配ですよね。

④ 自分の価値観に合う「業者」「担当」 であること
ここまで色々申し上げてきましたが、結局は「住まい」を一緒に作っていくパートナーです。考え方、価値観、などを理解してもらえて、自分たちの住まいを「本気」で良くしようと思って頂ける業者を選びましょう。

「一生で一番高い買い物」と言われる、「住宅」
でも
「最も満足度の低い買い物」とも言われています。

「一番高い買い物」が
「一番大満足な買い物」
になりますよう
しっかりとご検討の上、お住まいを取得されることを心より願っております。

*宮脇檀さんの住宅設計テキスト。若いころ、繰り返し読みました。かなり前の書物ですが、今もなお素敵な提言がいっぱいです。


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