宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・参7
紫黒に染まった空を渡り、鷹丸家へ。二階にある維知香の部屋の窓へ向かって、灯馬は器用に風を操る。その巧みさに、維知香は心を弾ませた。
「風と一体になるって、どんな気分なのかしら?」
「今、維知香様もひとつとなっておりますよ」
「貴方によって、だわ。私自身、そうなってみたい」
「ご希望とあれば、お教えしますよ」
「本当? 教えて欲しいわ!」
「必ずや……さあ、到着です。ご家族が驚きますから、屋根に足音を響かせないよう、お気をつけ下さい」
「ええ」
維知香は囁くように返事を