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不注意優勢型ADHDであること:その②

前回の記事の続きで、引き続き不注意優勢型ADHDについて当事者の視点から考察してみたいと思います。今回は見分けのつきにくく、かつ併発しやすい受動型ASDとの関係を中心に見ていきます。

受動型ASDとの見分けがつきにくく、また併発しやすい

不注意優勢型ADHDは受動型ASDと見分けがつきにくいのではないかと思っています。思考の多動が脳内にとどまり言動に現れないのは、感情の言語化にハードルを感じることの多い受動型ASDと似ているからです。
またこの両者は併発しやすいという印象です。発達障害の中でも最も生きづらさを抱えやすく、かつ周りの人を困惑させてしまうのがこの不注意優勢型ADHDと受動型ASDの併発タイプではないでしょうか。

この併発タイプが厄介なのは、普段は「また何かやらかすかもしれない」とビクビクしているくせに、ある日突然思いつきと衝動で大胆な行動に出てしまい周りを驚かせてしまうことも少なくないことです。
不注意優勢型ADHDも「脳内で多動を起こしている」状態ですから、多動型と同様ある程度の衝動性は持っていると考えられます。私の場合は地道に貯めていた貯金を突然株や投資信託につぎ込んだことでしょうか。一時期700万円もの含み損を出した時は泣きたくなりました。
受動型ASDと併発していると「普段は何事も受け身で無感動無関心なのにある日突飛な行動に出て周りをハラハラさせてしまう」という一見矛盾した印象を人に与えていると思います(以前の記事に書いた通り、実際はASDは無感動無関心というわけではないのですが...)。本人もアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態なので無駄なエネルギーを消費してしまい「一見何もしていないのにひどく疲れる」という状態に陥ります。

不注意優勢型ADHDの特性である「不注意」や「先延ばし」はASDにもありますが、その動機が異なります。
ADHDの不注意は「意識があちこちに向いてしまい本来注意を向けるべきところに向けられない」のに対しASDの不注意は「特定のことに気を取られ過ぎて本来注意を向けるべきところに向けられない」という感じです。
「先延ばし」もADHDの場合は「面倒くさい、やる気が出ない」という理由が殆どですがASDの場合は完璧主義と白黒思考から「失敗するかもしれないものはやりたくない」という動機から来ていると思います。
他人からは「だらしない」「ちゃんとして」と言われてしまいがちなこれらの問題行動ですが、「ちゃんとする」のような抽象的な精神論ではなくADHDとASDそれぞれの特性と照らし合わせながら自分の場合はどのような心の動きから来ているのか分析することが適切な対策や工夫につながると思います。

自己肯定感を持ちにくい・二次障害を抱えやすい

不注意優勢型ADHDは「忘れ物・遅刻」「先延ばし」「片付けが下手」など欠点が目立つために学校で先生に叱られたり級友にバカにされたりすることが多いため自己肯定感を持ちにくいです。
特にASDが併発している場合、完璧主義思考や負けず嫌いの特性があるにもかかわらずこれらADHD由来の不注意で人一倍怒られるわけですからさらに劣等感をこじらせてしまいます。

「また何かやらかすかもしれない」「また失敗するかもしれない」という不安感から極端に消極的になってしまったり「どうせ自分はダメだ」と何をするにも自分に自信が持てなくなってしまいます。
「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」(ある失敗に懲りて、必要以上に用心深くなり無意味な心配をする)ということわざがありますが、不注意で度々痛い目に合うと失敗しないように何度も確認したり上手くいくかわからないものについては最初から諦めてしまいがちです。
ADHDの二次障害として抱えやすいものにうつ病や不安障害、強迫性障害や依存症が挙げられていますが、その根底をなすのは「不安感」と「自己肯定感の低さ」です。ADHDの感情の起伏の激しさや感情のコントロールの困難さがこれらの症状をさらに悪化させてしまいます。

ADHDで二次障害を抱えている場合、まずは二次障害の治療を優先するべきです。二次障害を抱えたままADHDの特性を追求することはメンタル面でも決して良い影響を与えないからです(これはASDにも言えることです)。
適切な投薬と睡眠とカウンセリングで二次障害を辛抱強く改善していくことが結果的にADHDの特性とうまく付き合う近道となると思います。

静かな環境が不注意を低減させる

私は現在投薬治療なしで生活できていますが、前の職場ではストラテラが欠かせませんでした。
前の職場と今の職場の違いは、オフィス環境の違いです。仕事内容は全く同じなので、オフィスの作りだけがストレス面で大きく違っていたということになります。

前の職場は部署ごとの壁や敷居が一切取り払われ、広いワンフロアーに全ての部署が入った「オープンオフィス」というスタイルでした。
異なる部署間の社員が自由に交流できる環境を作ることで社員のコミュニケーションを促進し、新たな事業の創出を図るというのが狙いです。最近は席を固定せず自由な場所で仕事をする「フリーアドレス」も取り入れています。

しかし私はこのような環境では気が散るばかりで目の前の仕事に集中できませんでした。周囲の電話の音や雑談にいちいち気を取られてしまうからです。聴覚過敏持ちの上にAPD(聴覚処理障害)を併発しているため、遠くの電話や会話も全て拾ってしまうのです。多くの人のように不要な音をシャットアウトして目の前の仕事に意識を集中することは私にはできません。コミュニケーションと称して社員の雑談が多かったのも気が散る要因でした。
自分の仕事にやっと集中できるのは定時過ぎて多くの社員が帰った後になってからでした。結果的に無駄な残業が増えてしまい、上司からも「何でそんなに時間がかかってしまうの?」と度々注意されたものです。

今の職場は部署ごとに部屋があり、日中はそれぞれが黙々と仕事をしています。たまに雑談もしますがずっとではありません。電話もあまりかかってこないので前の職場に比べるととても静かです。
このような職場は人によっては「退屈でつまらない」と感じるかもしれませんが私にとってはとても落ち着きます。前の職場では丸一日かかっていた仕事が今は半日で終わるので生産性も格段に向上しています。

そんな私の今の職場にも最近「コミュニケーションスペース」ができました。前の職場と同様、社員が部署を越えて活発に情報交換し事業のイノベーションに繋げる場所というコンセプトで作られたものです。
しかしいざ出来上がったらそこは仕事に集中したい社員が元の部署を離れて一人で黙々と仕事するためのスペースとなりました。発達障害に限らず一人で仕事をしたほうが効率が良いと感じる社員は少なくないと思います。
社内コミュニケーションが会社の生産性を向上させるか?というのは一度見直したほうがいいかもしれませんね。

思いついたら即行動する習慣をつけよう

ADHDのライフハックはウェブ上やSNS上で数多く公開されています。特性上不注意を本人の意識づけだけで改善するのは限界があるので、「不注意が起こらない環境づくり」「不注意があってもリカバーできる仕組み」というのは魅力的かもしれません。

私自身も「物を多く持ち過ぎない」「スケジュールを詰め込み過ぎない」「次の日にやるべきことは必ずメモする」等これまでの経験で培ってきたライフハックのようなものはありますが、中でも日頃から習慣づけておくとよいと思うものの一つに「思いついたら忘れる前に即行動する」ということです。具体的には
日用品(歯磨きやシャンプー等)が残り少なくなったら切らす前に即買いに行く
見たいと思ったテレビ番組はすぐ録画予約する
朝早い時間に目が覚めたら二度寝せずに起きる。
ここで思いついた後に「あー、まあいいや後でやっておこう...」と思ってしまうと高確率でそのことを忘れてしまい後悔する羽目になります(実際私も前々から楽しみにしていた今日放映のテレビドラマを早速見逃してしまいましたしね)。
不注意優勢型の場合、どうしても「面倒くさい」が先に立ってしまうのですが、「今やらないと後で絶対忘れる」という意識を持っていると頑張って行動しようという気持ちになれるのではないでしょうか。

このようなライフハックを活用して少しずつ成功体験を積み上げていくことで、長年の失敗や叱責で損なわれた自己肯定感を取り戻せることができると思っています。

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