消される魔法使いが今朝の香り

「はたして、

人が亡くなった後に残るのは


姿か、


それとも声、か」


僕はベランダで煙草をふかし、考えている。


もう二度と会えない人間に残るのは




香り、だと。


貴女がよくなめていた甘いキャンディの香り。


優しい部屋の香り。


街ですれ違った他人の香水に貴女を重ねて
馬鹿みたいに振り返ってしまったり。


隣に座るだけで感じていた

貴女から香る貴女の匂い。


記憶から、

姿も声も消されてしまったとしても

貴女の香りだけは僕の中にある。




僕の香りは、



残っているだろうか。




煙草の灰が落ちたら悲しくなって

瞳から雫が落ちた。

僕にも香りがあればいい、

なんてくだらないことを
思いながら

美味しくもない
甘い煙草の匂いを吸っていた。


馬鹿みたいだ、


だけれど、

なんでもいいから

誰にも


誰にも、

僕を忘れて欲しくない。



なんでもいいから


どんなかたちだっていいのだ。

誰かの中に
残っていたい。


なんて考えたら


ズキン、と

胸が痛すぎて

不意に


死んでしまいそうになる。


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