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Lunatic tears 3 _Lost Ordinal

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Lunatic tears 第3巻 _Lost Ordinal
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Ending「Lunatic Tears」

 数時間前に別れた2月は、しかし置き土産に寒さを残していった。唯一の救いは、今日1日、雲一つ無い快晴になりそうなことだった。
「……うん。……サンキュ。じゃあまた明日……じゃない、明後日。おやすみ」
と言って通話を切った流雫は、黒のカラーデニムを履き、上はトリコロールを飾るネイビーのシャツを纏い、その上から白のUVカットパーカーを羽織っていた。
 三日月のチャームがアクセントのブレスレットを手首に

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LTRo5-11「Always By My Side」

 突然の告白がもたらした切ないムードから、普段の2人に戻った流雫と澪の前に、結奈と彩花が満面の笑みで戻ってきた。あと1分、澪の瞳が乾くのが遅ければ、また彩花に撃沈されかねない……そう思うと、少女は胸を撫で下ろした。
 2人が赤いバックパックを開くと、所謂戦利品が入っている。今回は昨年末に実装された新キャラも含めたセットだったが、澪の最推しキャラ……ルナと名付けた美少女騎士……は含まれていなかった。

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LTRo5-10「Melancholie」

 2025年を迎える瞬間は、起きている宿泊客がほぼ全員共用エリアに集まって、ジルベスターコンサートの中継をテレビで流しながらカウントダウンした。
 そして、ホールセールストアで売られていたシャンパンとジンジャーエール、それにチーズを載せたクラッカーで祝った。寝ている宿泊客もいるからささやかなものだったが、それでも大半の宿泊客がいた。
 ジンジャーエールが注がれたグラスを手にした流雫は、カウントダウ

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LTRo5-9「Silent Requiem」

 クリスマスが終わると、巷は一気に新年の準備に追われる。それも、洋風から和風へと180度変わるから、やはり日本はよく判らない国だ。和洋折衷と云うか、節操無しと云うか。
 東京から帰ってきた2日後、流雫はホールセールストアでの年内最後の買い出しを済ませた後で、アウトレットに向かっていた。この居候するペンションを営む親戚、鐘釣夫妻が、2ヶ月近く前にオープンしたアウトレットに行きたいと言って、それに付き

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LTRo5-8「Unforgettable」

 2人が屋内にいる間に東京は日没を迎え、目の前には夜景が広がっている。あの日、2人を祝福した夜景は、しかしクリスマスだからか更に華やかに感じられた。
 クリスマスイブ。正しくはクリスマスのイブニングで、24日の日没から日付が変わるまでを指す。
 ユダヤ暦では日没が1日の始まりとされていて、今で云う24日の日没にユダヤ暦では25日を迎え、クリスマスが始まる。そしてユダヤ暦の25日の終わり、つまり25

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LTRo5-7「Conflict Like Alien」

 次第に空は暗くなり、イルミネーションが東京の街を彩り始めようとしている。
 渋谷の屋上で紡がれる、2人の高校生の細やかなロマンスを嘲笑うように、突然周囲から悲鳴が聞こえた。一瞬で現実に引き戻された2人が、同時にその方向を見ると、ヘリパッドの中心にクラフトナイフを手にした若めの男が立っていた。
 ダークグレーのフード付きパーカーを纏った男の目は、据わっているのが判る。幸い、未だ誰も刺されたりはして

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LTRo5-6「Romance In Dystopia」

 12月24日は終業式。学校は2時間で終わった。終礼と同時に駐輪場に下りた流雫は、ロードバイクの鍵を外し、ホルダーにスマートフォンをセットした。すぐに帰って、クリスマスの準備。その後は東京で、澪とのクリスマスデートだ。
 流雫が住むペンションでは、クリスマスだからと特別なことは殆どしない。ディナーのオードブルが増え、ケーキが振る舞われるぐらいだ。ただ、流雫自身は今日から明日まで河月にいない。代わり

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LTRo5-5「Affective Discord」

 2日連続で臨海署に行く羽目になった流雫と澪は、昨日と同じ取調室に通される。その間も流雫の足取りは重い。
 最後に入室した弥陀ヶ原は、早速
「……流雫くん、何が引っ掛かってる?」
と切り出した。流雫は弱々しい声で
「……全部……」
とだけ答えたが、それは冗談でも何でもない。全てが引っ掛かる。そして、どれから切り出せばいいのか迷っている。普段の流雫からは、やはり想像がつかない。
 少し間を置いて、

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LTRo5-4「Secret Truth」

 スクランブル交差点前の改札は、騒然としていた。駅員の判断で、乗降客を他の改札へ誘導し、避難用に開放された結果、其処に人が集中した。
 笹平を連れて避難した黒薙は、改札の柵にもたれたまま広場での一部始終を遠目で見ていた。隣の黒いロングヘアの少女は、ただ広場に背を向けて柵にしがみ付き、俯いて体を震わせている。
 「……宇奈月……」
と黒薙は呟き、奥歯を軋ませた。
 地面に蹲り、恋人に抱かれながら泣き

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LTRo5-3「Mourning Snowball」

 翌朝、ついに12月に突入した。高校生2人は最初に渋谷に向かった。昨夜ネットで神社のお祓いの予約をしようとしたが、生憎今日は夕方しか空いていないらしく、予定を前後させることにしたのだ。
 ……昨夜はあの後、冷めたコーヒーと電子レンジで温め直したパンケーキをお供に、別の話題で盛り上がった。正しくは、澪が強制的に話題を変えたのだが。
 そして澪は、机の上にグッズを飾っているゲーム、ロススタの布教も少し

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LTRo5-2「Shade Of Rejection」

 今日も流雫は、澪の家に泊まる。その前に、秋葉原で夜用のケーキを調達しようと思った。春に澪に連れられて行ったカフェのパンケーキがToGoに対応したらしい。
 ……秋葉原は流雫にとって、その時以降苦い思い出しかない。
 8月、臨海副都心の大規模イベント帰りの連中でごった返す駅前で青酸ガステロが起き、その後小さな暴動も起きた。澪とその同級生2人が遭遇し、2人は軽症ながら病院に運ばれた。
 澪は無事で、

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LTRo5-1「Will Back To Back」

 日本と云うのは特殊な国だ。八百万の神……つまり神は星の数ほどいる。他教徒が崇める、所謂唯一神でさえも、日本では神と云うカテゴリーで一括りにする。いや、神どころか仏まで含む。だからか、中東や欧州で見られるような宗教間の対立を背景とする事件とは無縁だ。
 そして、それ故か他教の厳かな行事ですら、ただのイベントとして愉しもうとしている。節操なしと云えば身も蓋もないが、その意味では日本はカオスな国だ。

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LTRo4-17「Like A Shining Star」

 この足でも3時間有れば、離陸には辛うじて間に合うハズだった。そもそも、窓側の座席かも知らないし、そうだとしても流雫に気付くかも判らない。ただ、それでもよかった。ただ母の離日を見送れるのなら。
 朝、少し長めに時間を取って母と別れ、学校に行った。……休んで一緒に空港に行って見送ればよかった、と思ったが、流石によい顔はしなかっただろうし、後の祭りだ。
 流雫は鞄を手にすると、そのまま教室を後にし

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LTRo4-16「Walpurgis」

 流雫は入院から1週間で退院することになった。もっと掛かると思っていたが、意外と早かった。今後は日常生活を送りながら、時々通院することになる。
 歩く時に少し違和感が残り、やや不自由が有る。だから普段より歩くのは遅いし、走るなんて以ての外。当然ながらロードバイクにも乗れない。しかし、それも時間の問題だと医者は説明していた。尤も、全ては流雫次第なのだが。
 退院は日曜日の朝で、それに合わせて澪が河月

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