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LTR _Progressive/PathCode

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Lunatic tears 第5作目「Progressive/PathCode」
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記事一覧

LTRA3-9「All For」

 ヴァイスヴォルフは一命を取り留めた。そう父親から聞いた澪は、そのことを流雫に告げる。2人揃って安堵の表情を浮かべた。
 ……敬虔さが裏目に出たとは云え、或る意味ではあのドイツ人も被害者。誰もが被害者、澪が言った言葉が流雫の脳に焼き付いている。
「でも」
と澪が声に出す。
「これで全てが上手くいくといいな……」
「上手くいかないと……プリィやアリスの未来は無いからね」
と流雫は言った。
 あの空港

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LTRP2-16「All For Rebirth」

 悠陽の口から出た言葉は、澪の表情を強張らせるには十分だった。
「社会の未来は、AIが書き換えていく。澪も、見てみたいと思うでしょ?」
「それが時代の流れなら……」
と答えるのが精一杯の澪に、悠陽は言う。
「シュヴァルツが、栄光の剣を司っていることは知ってるわ。でも、シュヴァルツ本人を支持していたワケじゃない。あくまでも、団体としての理念を支持していただけ」
 「……シュヴァルツが悠陽さんに目を付

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LTRP2-15「Will Of Charisma」

 ゲームフィールドから切り替わった画面には、サーバエラーと表示されていた。
「助かった……」
と安堵する流雫がアプリを閉じると、スマートフォンが鳴った。澪だ。
 「キルされなくて助かったわ……」
と口を開いたボブカットの少女。何が起きたかは知らないが、あと1秒遅ければカップルは同時にアバターをロストしていた。
 「……シュヴァルツが剣を引いた時、僅かに間が有った。多分、貝塚の死に動揺していたんだ」

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LTRP2-14「Scapegoat For Ambition」

 「逢沙!」
と椎葉が名を呼ぶ。首の位置で束ねたポニーテールを翻し、
「椎葉」
と呼び返す逢沙は
「まさか福岡で会えるとは、思ってなかったわ」
と言った。
 2人は博多駅の鍋料理屋に入り、モツ鍋と刺身を囲む。其処ではプライベートの話しかしなかったが、その後駅ビルの屋上デッキで、コーヒーの紙コップを片手に隣同士並ぶ。
「逢沙は何の取材だ?」
「中国資本のMMOが来月日本でサービス開始。その拠点が福岡

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LTRP2-13「Shade Of Influencer」

 不正検知システムに携わっていたエンジニアが、アウロラに接触したのはフラウ銃殺の翌日。彼もまた、アウロラがイベントに行くことを知っていた。
「スタークは一連の件を知っていた。アウロラに接近したのも、真相を伝えるためだったのだろう」
と流雫は言い、確信する。シュヴァルツがアウロラに執着心を抱いているのは判っていた、だからストーキングを装って先回りしたのだと。
 「……シュヴァルツが率いる栄光の剣、そ

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LTRP2-12「Collapse On Schedule」

 後輩で恋人の真がセーラー服調のブレザーに袖を通すと、詩応はスポーツドリンクを渡す。陸上大会の中距離部門で優勝したポニーテールの少女と、事実上の専属マネージャーは、軽くハイタッチした。
 来週は揃って東京に行く。土産を手に入れようと、2人は帰りに名古屋駅に寄った。三大都市圏の一角、その中心地は全体的に混んでいる。
 先日話していた土産を手に取り、レジで会計を済ませた人は、不意に店の入口に目を向ける

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LTRP2-11「Secret Weapon」

 臨海署を後にした3人は、近くに建つ商業施設ダイバープラザに足を運んだ。流雫と悠陽に挟まれる澪は、自分が父と話している間に、2人の間で言葉が交わされなかったと察した。
 かつて、相容れない流雫と詩応が接近したのは、詩応が流雫に問い質したいことが有ったのと、不仲の本質に気付いていた澪の策略によるものだった。
 しかし、そもそも悠陽は自分から話す必要が無いと思っている。何から切り出せばいいのか迷う流雫

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LTRP2-10「Master Or Slave」

 あの事故は、車の挙動も含めて最初から仕組まれていたこと。流雫の見解はそれだった。
「あの車の自動運転システムは、車体のセンサーが周囲の障害物や車線との位置関係を常時計測し、高度な位置情報と合わせて、AIが最適な走行ラインを決めるものだ。あくまでも自動車専用道や高速道路での巡航支援と云う形だな」
と弥陀ヶ原は言う。手元のタブレットには、サイトからダウンロードしたカタログが表示されている。
「センサ

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LTRP2-9「Taste Of Bullet」

 澪のことは誰より知っている。ドアが閉まる直前に飛び込み、自分に向かってきているハズだ。何を言っても
「流雫を置いて逃げる、あたしにできると思うの?」
と言い返されるのは判っている。ならば、2人で仕留めるしかない。
「……流雫……」
澪の声がイヤフォン越しに聞こえる。無意識にブレスレットに唇を重ねる流雫。
「澪……」
彼女のためにも、屈するワケにはいかない。
 その間にも、視界の運転室の扉が大きく

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LTRP2-8「Eyes Of Devil」

 池袋駅前に戻った3人は、ドーナッツ屋に入った。話したいことは終わったが、或る意味では今日の目的だ。
 最初の話題は翌週のイベントだった。悠陽はEXC以外にも回ってみたいブースが有る。一方の流雫と澪は、EXC以外何が有るのか把握していない。そもそも、椎葉からの無料チケットでイベントの存在を知ったほどだ。
 スマートフォンで会場マップを開く2人は、その時初めてEXCが右端のホールを半分使っていること

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LTRP2-7「Desire Of Egoist」

 日曜日、何時ものように新宿駅で合流した流雫と澪は、池袋へと移動した。澪にとっては逆戻りする形だが、流雫の迎えは自分から決めたセオリーで、破る気は無い。
 池袋駅に着いた2人を、悠陽が出迎える。そして3人は、1週間前のイベント会場へ足を運んだ。
 ドーナッツ屋に誘われた日、悠陽はその待ち合わせ場所を池袋に指定していた。
「フラウ……」
悠陽は小さな声でそう呼び、手を合わせる。死の一報を耳にした瞬間

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LTRP2-6「Faith For Great Benefit」

 AIを神として崇めたい連中がいるなら、逆に崇めさせたい連中がいても不思議ではない。崇めさせることで、利益を享受できるのは誰だ?
「……美浜さんのような人……?」
と流雫は呟く。つまりはエンジニアだ。
 崇めさせるだけのAIを開発し、何らかの形で売ることで巨額の利益を得る。同時に、生みの親としてその名声を手に入れる。
 ……崇めさせたいのはAIなのか、開発者個人なのか。自身が自薦のインフルエンサー

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LTRP2-5「Competing Contradictions」

 静かな湖畔の部屋で、PCの画面と格闘していた椎葉が一息ついたのは昼過ぎのことだった。
「やりやがった……」
と天井を仰ぐエンジニアの目の前には、新たに実装された学習データのコードが連なっている。
 夜中の間に緊急メンテナンスを行ったことは、午前中に知らされた。それ自体、元々保守担当ではない椎葉にとって、珍しいことではない。しかし、それに乗じて新しいデータも実装されていたことが、履歴を辿って判明し

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LTRP2-4「Pie In The Sky」

 ゲームのAIに人間が従う日、その見出しの記事がポータルサイトに出回ったのは、翌朝のことだった。
 破竹の勢いを見せるMMOの心臓部、自律型AI。それがついに、本格的に人間を天秤に掛け始める。AI戦国時代に人間とAIの関係の在り方を問う、経済雑誌の人気シリーズの第4弾はその文章から始まっていた。
 前半はEXCの売上高と収益構造がメインで、UACのEXCプロデューサーとエクシスの代表取締役がインタ

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