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中学時代のAくんの話

 出席番号が早かったので、小学校の時からずっと隣の席はだいたいAくんだった。でも小学校のときは、特に何も思っていなかった。中学生になってはじめて、何がきっかけかは忘れたけど、「あ、私、この人のこと好きかも」と思った。

 Aくんは、あまり人前に立ったり目立つタイプではなかったけれど、端正な顔だちをしていて、身長も中学生なのに178センチもあって、今になって思えば密かにファンはいたのだと思う。ただ、当時の私は鈍感すぎて、自分の中の恋心を処理するので精一杯で周りのこととなんて考えている余裕がなかった。

 意識する前は普通に話せていたのに、話しかけることもできない。席替えで隣の席になりたい、でも、好きな気持ちは隠したい。そんな思春期真っ只中の私は、中2になっても変わらずAくんに片想いをし続けていた。

 中2でクラス替えがあったけれど、奇跡的にまた同じクラスになれた。そして2年生の最大行事「林間学校」。夏に学年全員でキャンプに行くイベントだが、このイベントでなんとAくんと同じ班になれたのだった!2泊3日、Aくんといっしょに、買い出しに行き、ごはんを作り…。両思いになりたいなんてわがまま言わない、林間学校をいっしょに過ごせるだけで、心からしあわせ…!純粋だった私は、心底そう思っていた。そして、2日目の夜、私にとって最大の胸きゅんイベントがやってきたのだった。

 肝試し。

 田舎の夜道、懐中電灯を持って、男女3人ずつの6人班でコースを回る。同じ班の女の子に、極度の怖がりな子がいて、その子は同じ班の男子にしがみついている(もしかしたら計算かもしれない)。もうひとりの女の子はちょっと変わった子で、同じ班の変わった男子と、愉快に会話しながら進んでいく。残されたのは、至って普通の感性を持つAくんと、私。班のしんがりをつとめながら、Aくんと私はとりとめのない会話をする。でも緊張しすぎて、この時の会話の内容を一切覚えていない。とにかく幸せな時間で、このまま時が止まればいいのにと思ったことだけ、覚えている。

 中3になって、クラス替えがあり、そこで私はAくんと違うクラスになった。そこからAくんとの接点は塾だけになり(同じ塾だった)、Aくんに対する気持ちもすーーーっと冷めていったころ、Aくんに彼女ができた。そして私の初恋は完全に終わったのだった。

 初恋は、実らないもの。

 ま、そんなもんだよね。

 悟りを開いた14歳の夏。

おわり。

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