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電車にて

職場の最寄は高架駅だ。 近くに高い建物が無いため、とても見晴らしが良い。ホーム沿いからカーブを描き、南の方へ向かってまっすぐ流れる川をぼんやり眺めていると、遠くの空に浮かぶ積乱雲に気づいた。 夏のはじまりだ!太陽がまぶしい時間帯に退勤できる喜びを噛みしめる。私は冷たいビールに思いを馳せながら到着した電車に乗りこんだ。 車内、乗客の視線が窓際の一点に集まっている。異様な状況を怪訝に思い目を向けると、そこには一匹のトンボがいた。どこで迷い込んだのだろうか、この駅より前ということ

    • つばめ

      つばめを見かけるようになると、いよいよ春を実感する。子供の頃から海の生き物は好きだったものの、もともと鳥にはあまり興味がなかった。興味がなかったので、街には日々色んな野鳥が飛来していることにさえ気づいていなかった。書いていて思い出したことだが、つばめをつばめとして認識したのは幼馴染であるゆいちゃんの自由研究だった気がする。そこからなんとなく目につくようになり、やがてよく観察するようになった。 さて、私が隣町から今の家に引っ越してきてもう十数年経つ。高校一年から通学が電車にな

      • セボンスター

        散歩がてらドラッグストアに行った。夜に思い立ってドラッグストアに行く時は緊急の時が多くて、足りなくなったシャンプー、トリートメントやクレンジングの調達、とか大体目的がある。なのにもかかわらずついついお菓子とか入浴剤とか買っちゃう。この前はセボンスターを買った。 セボンスターとジュエルボックス どちらもお菓子売り場の夢だった。セボンスターにはキラキラの石がついたペンダントが入っていて、ジュエルボックスはキュートだかクールだかとにかくテーマに添ったデザインのブレスレットやネック

        • 昔のこと

          セーラー服の内ポケットに小さいMP3を入れて通学していた。重苦しい校舎に飛び込むまでの、往復の通学路で聴く音楽と、わたしは今アウトローなのだというちょっとした優越感だけがあのころ、 わずかに自分を救っていた。 練習は心から嫌だったけど、夕方には土埃で濁る空気が透明に冴えた朝のグラウンドのことは好きだった。 練習内容の振り返りと気づきを顧問に提出するノートに、その日の体育館がいかに寒かったか とか、体育館の扉の外を見ていて思ったこと とかを本気で書いていたような13歳から、ほ

        電車にて

          夏至

          しばらく呼吸はあって、やがて ふっと消えていった。 着いたとき意識はすでに無かった。人生のはかなさは灯火にたとえられるが、肉体が物質になる瞬間 ああこれこそが、と そのとき理解した。 真夜中に斎場へ向かう霊柩車を、ぼんやりした気持ちのまま追跡するラパンの車中 Eaglesの「The sad cafe」が流れた。父は長らくこの曲を自分の葬式で流してほしいと言っていたのだが、いざ祖父が死んでこの曲を聴くと どうも辛気くさくてダメだな やめようという話になり、ひとまず明るく楽しげ