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はなちゃん

はなちゃん。うつむきがちでおしとやかで、静かな景色のおんなのこ。     高校一年生で退学をして、フリースクールにきたのでした。          服装は自由だったけれど、はなちゃんは制服を着てやって来ました。 

はなちゃんに、なぜ学校を辞めたのかは聞かないつもりでしたが、はなちゃんがどんなことを思っているのかを知りたくて、美術講師だった私は、        一緒にコラージュをやってみようと思いました。               

好きな写真を切り取ったり貼ったりしながら、はなちゃんに負担のない質問を。 「これ、おばあちゃんが好きなんです。」                  おばあちゃまも一緒に暮らしているの?                  「うちの犬みたいです。」                         白い犬を飼っているのね?お名前を教えて。私は猫を飼っているのよ。    

そんなふうに出来上がっていく絵を通して、お互いを識っていく作業を繰り返し、はなちゃんとの距離が縮まっていきました。

元々絵が好きだったはなちゃんは、毎週私と一緒に絵を描きました。      水彩、デッサン、淡彩、ガラスに着彩、マーブリングをして遊んだり、図法もやりました。

「先生、この絵の具は疲れてしまいます・・・。」              小さな声で、ある日はなちゃんが言いました。                油絵具は匂うので、他の用途にも使う教室では無理かな・・・と、       キャンバスにアクリル絵の具で描いていた時でした。             ペインティングナイフで盛り上げる作業に疲れを感じるということに、     私は気がつきませんでした。                        ビビッドな色に疲れを感じることや、鋭利な形に怖さを感じるということは想像できても。

はなちゃんには合っていない画材なのでした。                フィンガーペイントも、実は無闇にしてしまうのには危険があるように、    感情を揺すぶられて、圧迫感を感じたり、何かが表出して来たり・・・。    

はなちゃんにその時合っていたのは、水彩色鉛筆の優しいタッチでした。    もしかしたらこの先もずっと、はなちゃんはべったりと濃いテクスチャーが苦手かもしれない。  

淡くて美しい世界に生きているはなちゃんは、人の言葉に傷つきやすいのです。 密すぎる友達付き合いには負担を感じてしまう。               でも、芯が強くて最後までやり遂げる力に満ちている素晴らしいおんなのこ。

はなちゃんは、そうっと咲いているのだけれど確かな存在感でそこにいます。                                   はなちゃん。何になりたいの?と聞いてみると、              「私、絵が前よりもっと好きになりました。絵が描けるところで・・・、図書館司書の資格が取れる学科があるんです。」                   そういって、フリースクールから推薦で大学に受かって行きました。      彼女は、自由な環境でも自分を律して、勉強を続けていたのです。     

もしかしたら、はなちゃんは先生に向いているんじゃないかな?        卒業式でそう言ってみたら、私が?と自分を指差しながら、今までにないいい笑顔を見せてくれました。                           はなちゃん。はなちゃんみたいな子はたくさんいるんだよ。

はなちゃんが、                              「私、おかあさんに申し訳ない。制服を着ているけど、近所の人に見つからないように家を出ているの。」                          そう言って涙ぐんだのを、私はずっと忘れない。               はなちゃんは、みんなに合わせて生きていかなくても大丈夫なの。       私は、はなちゃんが大好きなの。





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#全国18万人の不登校さんへ告ぐコンテスト  に参加させていただきます。
私が、不登校だったはなちゃんと、サッカーで有名な私立高校のサテライト校であるフリースクールで過ごした日のことを書きました。

頑張り屋さんの彼女は、フリースクールには毎日、絵を描きにくるようになり、卒業時には全日制の子に混じって、主要科目も10位以内と優秀な成績を収めるまでになりました。
そして、卒業時には表彰されました。
はなちゃんとお母様が挨拶しに来てくださり、可愛いカップをプレゼントしてくださいました。
今も、私の宝物です。










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書くこと、描くことを続けていきたいと思います。