給付型奨学金志望動機作文

2016年11月28日

イギリスのグラスゴー大学院の教育学部から無条件合格をいただき、2017年9月からコミュニティ教育コースに進学することが決まっています。私の留学目的は、グラスゴー大学で修士課程の学生として、文化施設で行われる美術教育について講義と実習を通して学び、社会的平等の強化を目指すソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)のグラスゴーの実践を研究し、その教育的意義を検討することです。修士課程修了後は、生涯学習機関のエデュケーターとして現代アートを積極的に取り入れてスコットランドと日本でキャリアを積むことを考えています。

SEAは「社会の諸問題と向き合い、そこにいる人々の生活と深く関わり合うことが本質となるアート」と訳されています。それは、社会的相互行為を通じて特定の社会事象や社会問題の文脈を模索するアート実践です。ある特定の社会問題に対峙するために、コミュニティの参加と対話、行為を通して、作家と参与者、鑑賞者の創造的な共同作業でプロジェクトが進行し、その過程において教育の果たす役割が重視されています。

私は千葉大学と交換留学先だった東フィンランド大学で生涯学習と現代アートを学んできました。専門科目と合わせて社会問題、特に被差別者を取り巻く問題に強い関心を抱いてきました。現在グローバル社会の中であらゆるボーダーのあり方が再定義され、人々が文化をダイナミックに横断する時代において、異なる文化的・社会的背景を持つ他者とどのように共に生活を送るのかが直近の課題として議論されています。私はマイノリティを包摂、教育、そしてエンパワーメントする手段の一つとして生涯学習と現代アートを捉えることを学びました。大学在学中に複数のアーティスト・イン・レジデンスで働く中で、エスニック・マイノリティに焦点を当てたSEAの実践を間近に見て、ますます社会正義にアプローチするアートの社会的な意義を強く思うようになりました。社会から周縁化された人々が、SEAでの学びを通して新しい視点を獲得し、自らやコミュニティ、その外にある世界を改めて問い直し、批判的思考力を身に付けて社会参画していく姿に、SEAの可能性を強く感じています。

SEAが社会運動として発展しているイギリス、その中でも特に豊かな芸術文化と多様な生涯学習の機会が保障されているグラスゴー市の大学院で、前半はコミュニティ教育について講義を通して学び、同大学院で現代芸術学の理論の授業も聴講しようと考えています。グラスゴーはイギリスの中で最も多くの移民を受け入れてきた多文化社会でもあります。後半は、修士プログラムに組み込まれている480時間の実習として、エスニック・マイノリティの権利獲得のために活動を展開してきた応用演劇の団体であり、グラスゴー大学の卒業生が立ち上げたA MOMENTS PEACEで修士論文に向けてプロジェクトを行うことを考えています。修士論文は学部の卒業論文の発展として、エスニック・マイノリティのエンパワーメントに関わる応用演劇プロジェクトの分析と評論を書きたいと思っています。演劇に関わったアーティスト、パフォーマーであるエスニック・マイノリティ当事者、主催者、そして観客等異なる立場の人々にインタビュー調査を行うことで演劇の異なる解釈を統合するつもりです。近年ますます浮き彫りになる人種差別とコミュニティの分断という社会的課題にSEAが対峙することのコミュニティ教育としての意義や可能性を検証したいと考えています。グラスゴー大学のコミュニティ教育の修士課程を修了すると、スコットランドのコミュニティ教育の教員免許と2年間の就労ビザを得られることになっています。スコットランドと日本両国でアートエデュケーターとして働き、多文化共生社会の実現を目指すという形でグローバル時代の文脈で芸術文化の水準向上に貢献したいと考えています。

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