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【Vol.2】「マイクロフォーサーズ」を立ち上げ、LUMIXを「道具」として進化させた技術者の話

LUMIXの機構設計に携わるメンバーが語る、マイクロフォーサーズ誕生の歴史や、LUMIXの機構設計の技術やこだわりの話。

本記事は続編となるVol.2です。

▼Vol.1はこちらから!


LUMIXの機構設計が大切にしていること

玉置:G1の立ち上げやGH3、GFシリーズなどの開発に参画。その後、LUMIXのミラーレス一眼の開発に携わる。G1立ち上げ時には、その苦労で1年間に10kg痩せたことも。

私達が大切にしていることは「クリエイターに寄り添ったカメラを作ること」です。

私達はLUMIXの機構設計であると同時に、Panasonicの社員でもあります。

Panasonicの経営理念を抱き、「誰でも簡単に写真・動画が撮れるようになる」という想いが機構設計のモノづくりの根底にあるんです。

その思想を具体的に言語化するなら、「一瞬を撮り逃さないカメラを作る」 ということになるでしょう。

ミラーレス初号機であるG1発売当初は「女流一眼」と銘打ち、当時はまだ少数だった女性ユーザーにも一眼を普及させたいという思いで開発をしていました。

そして、開発を進めていく中で「プロユースとしても選ばれるカメラを作りたい」と新たな目標を定め、GH3(2012年12月 発売)でマグネシウム筐体や防塵防滴、UIの改善に着手していったという歴史の流れがあります。

ALL-Intra/IPBのMOV形式に対応したGH3

初めて、GH3でマグネシウム筐体部品を成形した際は、成形できずに筐体に穴が開いたり、実際に水を滴下して防滴性能を確認する防滴試験では、防滴設計をしているはずなのに「防滴設計をする前のカメラ(GH2)より中が水浸しになる」ということもあったりと、GH3は初めてのことだらけで本当に苦労した記憶しかありません(笑)

▼GH3を含めたLUMIXのメニュー・UIの歴史については、こちらの記事もご覧ください

その流れのまま、満を持してGH5(2017年3月 発売)を発表したのですが、このとき実はカメラ専門店の方々から「これが本当にLUMIXのフラグシップですか?」と、かなり厳しめのコメントをいただいたのです。

これが本当に悔しくて。

私達としては、GH5に携わるチームの全員が一丸となって生み出した集大成とも言えるカメラだと考えていたので、自信を持って世に出したカメラが酷評を受けて本当に悔しかったです。

世界で初めて「4K60p動画が撮れるミラーレスカメラ」として誕生したGH5

ですから、そこからは他社メーカーのフラグシップ機を全て集めて、自社モデルと何が違うのか全部洗い出しました。

シャッターフィーリングやボタンの深さに径、それに長いレンズを装着している際のグリップ感や腕の疲れ具合など、あらゆる面で改めて手に触れ、観察していったんです。

並行して、プロの写真家にもヒアリングをしていきました。すると、プロは、カメラの見た目以上に、カメラの使い勝手を重視されていました。

つまり、機構設計としては「道具としての使い心地」を追求していかなければいけないと、この時から考えるようになりました。

そうして誕生したのが、道具としての完成度を追求し、LUMIXがリブランディングした第一号機となるG9 PRO(2018年1月 発売)になります。

道具としての使い心地を追求するあまり、G9 PROではデザインテイストと矛盾するところもでてきて、デザイナーとの調整は苦労しました(笑)

G9 PROは当時様々な雑誌でも高く評価いただきましたし、GH5に対して、厳しいご指摘を頂戴していたカメラ専門店の皆様も高く評価してくださいました。これは本当に嬉しかったですね。

それでは、ここからはLUMIXの開発における機構設計のこだわりについて、お話ししていきましょう。

「操作性」のこだわり

金田:コンデジから始まり、幅広いミラーレス一眼の機構設計に携わる。直近ではS5II 機構リーダーとして放熱設計にも従事。

LUMIXの操作性は、地道なヒアリングや調査に基づいています。

グローブをしているため指が動かしにくいような雪山での撮影を初め、過酷な環境で撮影されるプロのクリエイターの撮影現場に同行させていただき、カメラとしてあるべき姿を学んできました。

そこで学んだのは、どのような環境であっても「意図した設定・動作ができる」「意図しない設定・動作をさせない」カメラが求められていることでした。

ここから、機構設計は「プロのクリエイターがカメラという道具に対して意識を向けず、被写体に集中できるようなカメラを開発する」ことを目的とした、本当のカメラ設計者集団になっていったように思います。

​プロに選ばれるカメラとなるために (by G9 PRO)

静止画フラグシップとして誕生し、野生動物やスポーツ撮影にも適したG9 PRO

G9 PROでは、多くのプロの写真家やクリエイターにも選ばれるよう、グリップ性の向上と操作性の改善を追求しています。

グリップ性についてはカメラの厚みやグリップ部の幅、高さ、手の大きさといった数多くのパラメータから人間工学的に設計しています。

また、しっかりと握れるようにグリップ部表面の素材は柔らかいものを選択し、シボ(表面の凹凸)は従来よりも深くしました。

柔らかいグリップ素材は失敗談も多く、開発当時はグリップが簡単に剥がれてしまったこともありました。そこから、ユーザーがグリップを握る時の力のかかり方を研究し、効果的な固定方法を模索して今に至ります。

当時のユーザビリティ解析資料の一部

G9 PROのグリップは「違和感なくさっと握れる」「長時間持っても疲れない」「高いホールドで安心感がある」など、市場からも高い評価をいただきました。​

次に、操作性については、それまではクリック感があったシャッターボタンを「手ブレを起こしてしまう」という指摘から、クリックレス構造へと変更しています。シャッターストロークについても議論を繰り返しました。操作ボタンのストロークは従来よりも長くすることで、手袋装着時でも押した感触が分かるようにしました。

LUMIXの特徴の一つである天面の3連ボタンにおいても、操作性をあげるために各ボタンの高さを少しずつ変えたり、ボタンを見ずとも操作が可能なように真ん中のISO感度ボタンにだけ凸を付けたり、といった工夫をしています。

フルサイズにおける操作体系のブラッシュアップ (by S1R)

LUMIX史上最高の4730万画素センサーを有するS1R

フルサイズモデルのS1・S1Rにおいては、G9 PROの考え方をベースとした「意図した設定・動作ができる」「意図しない設定・動作をさせない」操作体系へとブラッシュアップするため、UIを大きく刷新しています。

LUMIX初のフルサイズを開発していた当時、機構設計だけではなくソフト開発などの部門も巻き込んで「操作性ワーキンググループ」を立ち上げ、議論しながら操作性の改善に取り組みました。

そして、S1・S1Rを皮切りに私達は「1button-1function」を基本とした操作体系を考え、それぞれのボタンに任意の機能をカスタマイズして割り当てることを可能としました。これにより、クリエイターそれぞれの撮影スタイルに合わせた、ボタンの機能や配置にカスタマイズできるようになりました。​

S1・S1Rは従来のモデルに比べて、プロが扱う環境にも耐えられる堅牢性や、LUMIX初フルサイズセンサーの発熱にも耐えられる放熱性にも力を注ぎました。
そして、使いやすいUIは市場から特に高い評価をいただき、S1Rはカメラグランプリ大賞に繋がりました。本当の意味で「プロが選ぶカメラとして認められた」瞬間です。

今後も、カメラの性能や求められる操作性の変化に合わせながら、「使いやすいカメラと言えばLUMIX」と言われるカメラを開発していきます。

カメラ品格のこだわり​

藤田:当社デジカメ1号機DCF1の立ち上げを担当、一旦カメラ事業を離れた後GF1からLUMIXの開発に参画、それ以降のLUMIXのミラーレス機の開発全てに携わっている、ミラーレス開発の歴史を知る人。

LUMIXは「家電メーカー的な大量生産品」から脱却し、「カメラメーカー的な精密な製品」へと進化を遂げるために「品格向上プロジェクト」を立ち上げました。

カメラで大切なのは「一瞬を撮り逃がさないための道具」であることです。

しかし、長くカメラを愛する方の中には、撮影をしない間には応接間に飾って眺めて楽しんだり、カメラに触れてボタンの感触を楽しむような「嗜好品」としての楽しみ方をされる方も多くいらっしゃいます。

そうした見た目や感触といった、あらゆる面で品格、精密感のあるカメラを作ったと言えるよう、胸を張って仕上げないといけないと考えたんです。

そこで、ありとあらゆる他社製カメラにおける部品間の隙間や設定、シャッターの構成、ダイアルなどの操作荷重といった細かなこだわりを分析。「隙間・感触・材質・仕上」といった約20項目に及ぶ要素を決定し、それぞれの品格向上に努めました。

品格、精密感のある製品を見たり触れたりした第一印象は、商品の魅力、ひいてはお客様の「このカメラを使ってみたい」「このカメラを所有したい」という気持ちに直結することでしょう。

また、品格を高めるための精密設計は、堅牢性や耐久性の向上、すなわち製品の「信頼」にも繋がっています。

精密感を実現するLUMIXの品質管理
・誤差を最小化する部品寸法公差を設定し製造現場で管理保証する
・環境変化にも寸法変化が起きないよう硬度、熱膨張、耐摩耗性等を考慮し材料選定する
・組立て方法や組み立て順、使用する治工具も最適化し管理する

このような設計仕様・組み立て方・管理方法について、設計構想段階から内部でのデザインレビューを繰り返し実施することで、高い品質を確保しています。

だからこそ、老舗メーカーにも劣らない品格・仕様を実現するため設計者自ら工場やサプライヤーに入り込み、部品プロセスから製造プロセスまで工場メンバーと共に構築しています。

この品格向上プロジェクトはGH3の開発当時に立ち上げられ、今も続いています。

(続きます)

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