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【Vol.3】「マイクロフォーサーズ」を立ち上げ、LUMIXを「道具」として進化させた技術者の話

LUMIXの機構設計に携わるメンバーが語る、マイクロフォーサーズ誕生の歴史や、LUMIXの機構設計の技術やこだわりの話。

本記事は最終回となるVol.3です。

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「放熱設計・小型化」へのこだわり​

谷口:ビデオカメラからキャリアをスタートし、GH5やS1Hなどの開発に参画。直近ではG9PROIIの機種リーダーとして従事。

LUMIXは、コンパクトデジタルカメラの時代から放熱板による放熱に取り組んできましたが、より本格的な放熱対策が必要となったのがGH5です。

ミラーレス一眼で初めて4K60Pの記録時間無制限を達成​したGH5の動画データの情報量は、GH4に比べて約3.5倍に上ります。

電源効率を重視した電源回路を選定するなどの発熱対策をする一方で、放熱経路を追加し、熱シミュレーションと実機確認を繰り返しながら、均熱化に取り組みました。

熱シミュレーションは長年のノウハウが蓄積され、年々精度が向上し実物との差分がほとんどない領域に達しています。

空冷ファンの搭載、防塵防滴との両立 (by S1H/GH6)​

フルサイズミラーレス初「動画記録時間無制限で6K/24pや5.9K/30pの動画記録に対応」したS1Hと、「4K画質で120fps、FHDで最大300fpsのスローモーション撮影に対応」したGH6

GH5までは空冷ファンを搭載せず放熱対策ができていましたが、動画の画質性能向上でデータ量が増加するに伴い発熱量も鰻登り。ついにS1Hからは空冷ファンを搭載せざるを得ない熱量となりました。

しかし、熱を発するセンサーやLSI(集積回路)に直接風を当てるような機構では、カメラの内部にゴミを流すような形になってしまいます。

そのため、内部から独立させたダクト内の放熱フィンに風を当てて、発熱部から熱だけを引けるよう設計しました。

このように、空冷ファンの流路は防塵防滴設計されたダクト内となっておりますので、お客様から度々「ファンを通じて内部に水やゴミが入ってしまわないか」とご心配の声を頂きますが、問題ありませんのでご安心下さい。

空冷ファンを搭載しつつ小型化を実現 (by S5II)​

リアルタイムLUTを初搭載したS5II。小型ながらもC4K/59.94pが無制限記録可能。

S5IIでは、カメラの二大発熱源である「センサー」と「LSI」を最短距離で放熱するために、カメラのペンタ部に小型のファンを搭載しました。

最も効率よく放熱できるのがペンタ部上面から吸気する構成でしたが、これではマイクのそばに吸気口を設置する必要があり、マイクに風切り音やモーター音が入ってしまう課題がありました。このため少し回り道になりますが、ペンタ部下面に吸気口を設けて吸気する構成を採りました。

金田(S5II 機構リーダー)

空冷ファンは機構設計として必要不可欠な取り組みでしたが、デザイナーとしてはできるだけ吸排気口を見せたくなかったようです。しかし、吸排気の穴が狭いと放熱の効率は悪くなるため、0.1mm単位でデザイナーと調整を繰り返していきました。

​そういう意味でも、ペンタ部の空冷ファンは全員納得のデザインになっています。

ペンタ部の下に吸気口が、ペンタ部の横に排気口がある

「宙に浮いたセンサー」からいかに熱を伝導させるか

赤枠で囲った黒い布上の素材がグラファイトシート。このシートが、センサーユニットからペンタ部まで熱を伝導している。

「カメラ内でセンサーが動くことにより手ブレ補正をするB.I.S.機構」は、​電磁石の力を用いてセンサーを宙に浮かせ、位置を適切に制御することで手ブレを防いでいます。

B .I.S.機構は非常に繊細な動きをするので、放熱部材を当てることができず、どうやって放熱するのかという課題が出てきます。

小型化と放熱性能の両立を目指すS5IIはその課題にも取り組み、B.I.S.機構の可動を邪魔しないよう、グラファイトシートと呼ばれる非常に薄い素材を柔らかく当てて放熱しています

​厚さ・幅・長さ・シートを当てる方向・接触の方法など様々な条件でシミュレーションと実機確認を繰り返し、ついに「C4K60P 4:2:2 10bitで無制限記録」を達成しました。​

「堅牢性・防塵防滴」へのこだわり

ALL-Intra/IPBのMOV形式に対応したGH3

本格的に、落下シミュレーションを活用した耐衝撃性の向上や、防塵防滴構成に取り組み始めたのはGH3からになります。

落下シミュレーションを活用する前は、実際に現物を作って落下し、課題に対して試行錯誤し、その都度やり直しをするのが当たり前の状態でした。

落下シミュレーションを活用することにより現物で試行錯誤する状態から、現物が無い開発初期段階で早期に検証し品質を確保するプロセスへと変革していきました。

また、我々は落下だけでなく、プロユースなお客様の過酷な使用環境に耐えうるLUMIX独自の試験基準を設定し、強度試験や環境試験、そして耐久性試験を実施しています。

そうして開発された製品は、プロユースなお客様に「堅牢、かつ信頼性ある製品」と高い評価を頂いています。

内部資料

防塵防滴構成に関しては、コンパクトカメラの防水モデルを通して防水のノウハウが蓄積されていましたが、防水機構だとサイズが大きくなったり、ボタン操作の歯切れが悪かったりと、妥協しなければいけない要素も大きかったのです。

そこで、他社製カメラの防滴実力も研究しながらLUMIX独自の防滴の基準を設定し、​それをクリアする設計にしていきました。

防滴性能を実現するためのパッキンには、ゴムやクッションを圧縮して用いるのが一般的ですが、​私達は「どのような材料をどの程度圧縮すれば安定して防滴できるのか」という検証から改めて始めていきました。また、水の流れをコントロールするために水の侵入ルートを入り組ませたり、​撥水剤や親水剤を用いたりする方法も検証していきました。

また、​防滴性能を確立すれば防塵性能も同様に確立できますが、ファインダー部のような光学系では、ユーザーの使用時における埃侵入以外に「製造中に埃が侵入してしまう」場合もあります。

LUMIXでは、製造段階で埃が入らないよう工場と連携し、「部材ひとつひとつの洗浄」「クリーン度の高い部屋での作業」「組み立て後の入念な検査実施」など厳しい管理をしています。

機構設計が描く「具体的な未来」

技術の進歩や法的規則の変更、市場・環境の変化が目まぐるしい昨今。機構設計は、そんな時代の動きにも柔軟に対応し、常に先読みして新しい知識や技術を取り入れながら、カメラ作りに取り組んでいきます。

現在は、具体的に以下のような取り組みを実施しています。

■性能向上と小型化の両立
性能の向上や多機能化により、必要な電力が増加しています。性能を向上しながらカメラの小型化を図るには「新たな放熱技術」の探求が必要不可欠です。新規材料や省電力部品の開拓、新規デバイスを用いた新たな放熱技術の開発を進め、「放熱技術といえばLUMIX」と言われるほど、業界を牽引していきたいと考えています。​

■操作体系の統一
LUMIXユーザーの中には被写体に応じてフルサイズとマイクロフォーサーズを使い分ける方が多くいらっしゃいます。モデルやマウントが変わっても同様の操作体系で、決定的瞬間を逃さないよう、筐体差分を少なくする開発をしています。今回のG9PROIIとS5IIのような「筐体の共用化」もその一環です。

■持続可能性と環境への配慮
「プラッチックレスのエコフレンドリーな包装」「再生プラスチック材料の採用」といった環境への取り組みも実施しています。上述した筐体の共用化は、新規部品の削減・資源消費の削減の面からも、環境への配慮に繋がっています。環境への法規制も厳しくなり、環境配慮はますます重要となってくるでしょう。この変化をチャンスと捉えて、様々な取り組みに挑戦していきたいです。

カメラユーザーの趣向や目的は様々ですが、だからこそ私達は、機構設計の視点から、できるだけ多くのユーザーに寄り添ったカメラを生み出していきたいと考えています。

いずれは、パソコンのように必要な性能やパーツをカスタマイズできるようなカメラを作っても面白いかもしれませんね。

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