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北欧ヴィンテージを携えて




温故知新


ふるきをたずねて新しきを知る ——。

この言葉が生まれたのは遥か昔のことですが、人から人へと受け継がれながら今もこうやって残り続けています。価値あるものは、時代に淘汰されることなく歴史に残り続ける。それは言葉だけでなく絵画や彫刻、音楽などあらゆる物事に共通することだと思います。



「歴史/過去から学び、現代に生かす」という姿勢は、私たちlumikkaの活動の根源にもあり、北欧(フィンランド)のヴィンテージ品をショップで取り扱うのもそのためです。時代を超えて残り続けるものには相応の理由と価値があり、それらをリサーチすること、そしてわかりやすく伝えることが私たちの活動です。(活動の全貌については、以前のコラムをご覧ください)


今回はフィンランドのヴィンテージデザインに焦点を合わせて、さまざまな角度からその価値を考えてみます。



ヴィンテージデザインとは


そもそもヴィンテージプロダクトとは「一定の価値を誰かに見出されたもの」だと言え、逆にいえば、価値を見出されなかったものは廃棄されてしまったり、人目に触れることなく時代の波に埋もれてしまいます。

つまり、ヴィンテージプロダクトには時代を超えても人を惹きつけるだけの「なにか」が内包されているはずなのです。



フィンランドヴィンテージ


その点、フィンランドのヴィンテージ品には「なにか」が溢れています。

ひとつは、プロダクトがつくられた時代的背景です。当時について、フィンランドのヴィンテージデザインを詳しくまとめている文献『北欧フィンランドのヴィンテージデザイン』の冒頭文を引用します。

本書で紹介するのは、フィンランドで生活水準が向上し続けた時期に作られたプロダクトです。戦争と欠乏の時代を経て、国の経済は成長し、美しく実用的な生活用品を買うゆとりができました。……当時、国民総生産は毎年平均5%ずつ成長し、1944年から74年の間に個人消費は3倍に増加しました。

アンナ・カイサ・フースコ, 北欧フィンランドのヴィンテージデザイン,
パイインターナショナル, 2013


この数行からも分かる通り、当時は激動の時代でした。フィンランドが独立したのが1917年、そのすぐ後には戦争があり、そんな時代を経て生まれたのがフィンランドの「モダン・デザイン」です。シンプルな装いや絵柄の可愛らしさなど、特徴的なデザインの表層が語られることも多いですが、それも「激動の時代に生まれた」という時代背景があってこそなのです。

当時については詳細を書くと長くなってしまうので、それは次の機会とします。参考までに、特に古いプロダクトを3点ほど。


Pekka / Arabia / Rinhard Richter / 1917-1927年


Tumbler 2192 / Iittala / Maire Gullichsen / 1952-1959年


Pore / Nuutajärvi / Gunnel Nyman / 1949-1964年



また、当時の製造環境にも今とは違った特徴がありました。それは「作家性と普遍性の共存」、そして「手仕事と大量生産のバランス」です。


例えば、フィンランドを代表するメーカーのArabia社には美術部門(アートデパートメント)と呼ばれる組織があり、そこに属するデザイナー/アーティストは大量生産に縛られることなく自由に実験や制作をしていたそうです。

また、Arabia社にはプロダクト部門も併設されており、そこではより実用的な製品がつくられていました。一見すると相反するようなふたつのスタジオがそれぞれを刺激し合い、時に混ざり合いながら制作をしていたからこそ、美しいデザインの数々がフィンランドで生まれたのです。


Valencia / Arabia / Ulla Procope, Gunvor Olin-Gronqvist / 1963-1976年

一般的に、作家性が高い一品ものは販売価格も高くなり、逆に安価すぎる大量生産品は、後の時代のより安い大量生産品に埋もれてしまいます。その点、フィンランドのヴィンテージデザインはそのバランスが絶妙で、手描きの絵付けや作家性が高いデザインも多いのですが、当時それなりの量が生産・消費されていたため価格もそこそこなのです。

もちろん、ヴィンテージアイテムとして日本に輸入をするとそれなりに価格は上がってしてしまうのですが、手仕事による製造やデザインのクオリティを考慮すれば妥当であると言え、むしろ現代で同じような方法(手仕事)で製造するとなると価格はもっと上がるはずです。



そして、最後にもうひとつ。

ヴィンテージ(中古)品と聞くと、どうしても古臭さや清潔感へのイメージが先行してしまうことがありますが、フィンランドのヴィンテージアイテムはコンディションが良いものが本当に多いです。

それは、「プロダクトが世代を超えて人々に愛されてきたから」だと言えますが、それ以外にも、そもそもフィンランドにセカンドハンド(リサイクルショップ)の文化が根付いているからとも言えます。大切に使えば、いつか不要になったとしてもショップに買い取ってもらえるという仕組みが、ヴィンテージアイテムのコンディションを高い水準に保ってくれているのだと思います。


カトラリーが直接触れるプレート類や製造から50年ほど経つ特に古いプロダクトについては、やはり細かなキズが残ってしまうこともあるのですが、それでも、「光にかざすと見えてくる」くらいのものが多いです。

 

Tundra / Nuutajärvi / Oiva Toikka / 1970-1971年

また、カトラリーと触れることの少ないコップ類は製造から数十年経っていてもキズがほとんど無いものも多く、それらは現代のプロダクトたちと並んでも全く遜色ない佇まいをしています。



北欧ヴィンテージを携えて


安さや綺麗さなどの合理性を求めると、ヴィンテージアイテムは現代のプロダクトに比べて劣るようにも見えてしまいます。しかし、冒頭でも書いたように歴史に残り続けるものには「なにか」が内包されていて、それを見つけようとすること、想像することに大きな意味があると思うのです。

身の回りのものが、いつどのようにして生まれたのか。あるいは、いつまで人に使われ続けるのか。そんなことを想像しながら「もの」を見つめてみると、少し違った視点が見えてくるかもしれません。


本コラムが「北欧ヴィンテージ」という存在への理解と興味に少しでもつながっているようでしたら幸いです。




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